第14話 私と彼

そこで詳しく話を聞くことにしたのだけれど、

返ってきた答えは想像以上に衝撃的なものだった。

その話によると、どうやら、私の噂はかなり広まっているらしい。

それもかなり悪評に近い形で……それを聞いて思わず絶句してしまったものの、

冷静になって考えてみたところ、確かに思い当たる節はあることに気がついたのである。

例えば、街で買い物をしている最中に柄の悪い男たちに絡まれたところを

助けてくれた商人に対して、あまり調子に乗っていると痛い目にあうよ、

なんて脅すような口調で話しかけたり、街を歩いている最中に、

すれ違っただけの人に難癖をつけて喧嘩を売りそうになったこともあるぐらいだしね、

うん、どう考えても自業自得としか言いようがないわね、本当に申し訳ない気持ちで

いっぱいになってしまうほどの失態を犯してしまっていたのだと痛感させられた。

まあ、何にしてもこれではっきりしたわけだけど、

この様子だと、恐らく他の人達も同じように思っていた可能性は高いと言えるでしょう。

それならそうと言ってくれればいいのにとも思うのだけど、

きっと気を遣って言えなかったのかもしれないわね、だとしたら、

尚更悪いことしちゃったなって思ってしまうよね、

今度お詫びも兼ねて何か奢ってあげようかしら、

そんなことを考えつつ、仕事に戻る準備を始めることにしたのでした。

そんなことを考えながら、自分の席に戻ると、

早速作業に取り掛かろうと思ったのだけど、

その前に一つだけ確かめておきたいことがあったので、

思い切って質問してみることにしました。

内容としては、昨日あった出来事についてなんだけど、

それについて詳しく教えてもらう必要があると考えたわけです。

なぜなら、その理由として、単純に興味があったこともありますが、

それ以上に、自分自身のために知っておくべきだと思ったからです。

だからこそ、思い切って聞いてみることにしました。

そうすると、そんな私の質問に、

彼女は少し驚いた様子を見せた後、丁寧に答えてくれました。

その内容を聞いて、大体のことは理解できたのですが、

中でも特に印象に残った点が一つだけありました。

それは、グレオスハルトが自分に対して好意を抱いていたわけではなく、

単に、お気に入りの玩具のように扱っていただけだということ、

また、自分の外見だけを見て判断していただけであることなど、

はっきり言って迷惑でしかないということでした。

ですが、同時に、その事実を知った時、少しだけ安心していた自分もいました。

なぜなら、今の私にとっては恋愛よりも、仕事を優先させたいと考えていたからです。

それに、彼にはもう既に心に決めた相手がいるという話を知ってからは、

尚更関わるべきではないと考えています。

そういうわけで、今はひたすら、仕事に打ち込み続ける日々を送っているといった感じでしょうか。

まぁ、それはさておき、話の続きになりますけど、そうしているうちに、

いつの間にか夕方近くになっていたようです。

そのため、今日のところは切り上げて帰ることにしましょうと考え、

帰り支度を整え始めることにしたんです。

そして、全てを終えて部屋を出る直前に振り返ってみると、

窓の外に広がる景色を見つめながら思いを馳せるのでした。

明日の予定について頭の中で整理しながら部屋から出る直前、

最後にもう一度だけ振り向いてみます。

何故か誰かに見られているような気がしてならなかったんです。

もちろん誰もいませんでしたが、一瞬だけ視線のようなものを感じた気がしました。

いや、確実に感じた、間違いない、誰かが私の部屋に入ってきた。

そう思うといてもたってもいられない気持ちになってきました。

とにかく探さなくては、そう思った時には自然と体が動いていました。

無我夢中で家の中を駆け回るうちに気がついたことがあります。

それは、何者かの気配があるということです。

もしかすると泥棒かもしれません、だとすると非常に危険な状況にあることは確かですね。

一刻も早く見つけ出さなくてはならないというのに、

肝心の手がかりがないとなればお手上げ状態、かといって諦めるわけにもいかないので、

こうなったら意地でも見つけてやろうじゃないですか、絶対に許さないんだから覚悟しなさい!

こうして、私は謎の影を探し出すための旅に出ることになったのです。

まずは、手始めに自宅周辺から調査を始めました。

玄関付近はもちろん、庭先などもくまなく探し回ったのですが、

残念ながら収穫はなし、完全に空振りに終わりました。

仕方なく次の場所へ向かうことにします。

向かった先は、大通りに面した商店街の一角にある雑貨屋です。

ここでは、日用品を中心に取り扱っているお店なのですが、

実はこここそが本命だったりするんです。

だって、わざわざこんな場所に盗みに入る人なんていないだろうし、

何より、この店には防犯用の魔道具が設置されているはずなので、

そう簡単に侵入することはできないはずです。

それなのに、未だに見つかっていないということは、

もしかしたら、すでに別の場所に移動した可能性もあるかもしれない。

そう思って、念のため、店内にいる人たちに話を聞いてみたところ、

怪しい人物を見た人は誰もいなかったとのこと、これは困ったことになりました。

このままでは埒が明かないと判断した私は、一旦宿に戻り、作戦を立て直すことに決めました。

部屋に戻るなり、ベッドに倒れ込むように横になると、大きく息を吐きます。

それと同時にどっと疲れが出てきました。

無理もないことですが、あれだけ動き回っていたのですから、

いくら体力のある私であっても限界がありますからね、とりあえず一息つくことができてよかったと思います。

さて、それでは本題に入りましょうか、今回起きた事件について、考えられる可能性を挙げてみたいと思います。

1つ目は、単なる勘違いによる犯行、

2つ目は、私を誘拐しようと企む輩の仕業、

3つ目は、単なる事故の可能性、

4つ目は、それ以外の第三者によるもの、

5つ目は、幽霊などの超常現象によるもの、

6つ目は、神様からの試練、

7つ目は、ただの悪戯、

8つ目は、その他諸々、といったところでしょうか、

どれもあり得る話だと思いますが、どれが一番可能性が高いのでしょうか。

う~ん、難しいところですが、今のところ一番有力な説はやはり、

7つ目の神からの試練ではないでしょうか。

何しろ、ここは異世界ですから、

何があってもおかしくない世界ですので、そう考えると、今回の事件も、

神が仕組んだものと考えることもできるのではないでしょうか。

つまり、犯人は神様ということになるわけですが、

そうなると、犯人捜しをする必要もないことになります。

ああ、良かった、これで安心して眠れそうです。

翌朝、いつものように食堂で朝食を済ませた後、

お部屋に戻って身支度を整えると、宿屋を出て冒険者ギルドに向かうことにしました。

中に入ると、相変わらず大勢の人で賑わっていました。

受付カウンターに向かい、依頼書を見せながら手続きを済ませると、さっそく出発することにしました。

目的の場所は、ここから徒歩で一時間ほどの距離にある森の奥地にある洞窟です。

なんでも、そこには強力なモンスターが生息しており、

時折、街道を通る人々を襲うことがあるそうなのです。

ちなみに、今回は一人で行くことになっているため、

いつも以上に警戒しながら進む必要があります。

気を引き締め直して、いざ出発しようとしたその時、

突然、背後から声をかけられました。

振り返ると、そこにいたのは、昨日知り合ったばかりの冒険者さんでした。

一体何の用なのかと疑問に思っていると、彼はこんなことを言ってきたのです。

なんでも、私と一緒に依頼を受けたいという内容でした。

正直に言うと、あまり乗り気ではなかったのですが、

断る理由もなかったため、承諾することにしました。

その後、集合場所を決めて一旦別れることにしました。

そして、指定された時間に再び合流すると、依頼主がいる場所へと向かいました。

到着すると、そこには数人の冒険者たちがいて、その中には彼も含まれていました。

どうやら、私達を待っていたようです。

それからしばらく待っていると、ようやく依頼主が現れました。

見た目からして、年齢は30代前半といったところでしょうか、

体格の良い男性で、背中には大きな斧を背負っていました。

どうやら、この人は傭兵のようで、今回の依頼のために雇われたようです。

依頼内容は、最近、この辺りに出没するようになった盗賊団の調査ということでした。

早速、詳しい話を聞くべく、みんなで集まって話し合いを始めました。

その結果、まずは情報を集めることに決まったのですが、ここで問題が発生しました。

というのも、盗賊団のアジトの場所が分からないため、

どうやって調べればいいのかわからないのです。

そこで、一度引き返して、情報収集に専念することにしました。

とはいえ、何も情報がなければどうしようもないので、どうしようかと考えていると、

不意に一人の人物が挙手をして発言を求めました。

それは、先程、最初に声をかけてきた人物で、名前はカレルと言うらしい。

そして、彼は驚くべきことを口にしたのです。

なんと、盗賊団の拠点を知っているというのだ。

それを聞いた途端、皆の視線が一斉に集まり、一気に緊張感が高まりました。

そんな中、当の本人は特に気にする様子もなく、淡々と話を続けています。

なんでも、以前、一度だけ出くわしたことがあり、

その際に、彼らの会話を耳にする機会があったそうだ。

その時に、次に行く場所についても話していたらしく、

それを覚えていたということらしい。

そのことを聞いた瞬間、その場にいた全員が驚きのあまり言葉を失ってしまいました。

まさか、こんなにもあっさりと手掛かりが得られるとは思ってもいなかったからです。

そんなわけで、早速、その場所に向かうことになりました。

道中、他愛もない会話を交わしながら進んでいくうちに、目的地に到着しました。

そこは、森の中にある小さな洞窟の前でした。

入り口付近には見張りらしき男が二人立っており、周囲を警戒していました。

どうやら、まだ気づかれていない様子だったので、ゆっくりと近づいていきます。

幸いなことに、彼らは、私達の存在に気づいておらず、油断しきっているようでした。

これならいけると思い、奇襲を仕掛けることにしました。

まず、私とカレルさんが飛び出して、それぞれ武器を構えます。

続いて、他のメンバーも行動を開始しました。

まず、魔法使いの女性二人が詠唱を始め、その間に、

剣士の男性二人が左右に分かれて回り込み、残りのメンバーたちは後方支援に専念しています。

最初の一撃はカレルさんの放った矢によるものでした。

見事に命中すると、盗賊達は悲鳴を上げながら倒れ込みました。

それを見た残りのメンバーが一気に攻勢に出ると、あっという間に制圧することができました。

ふぅ、なんとか上手くいったみたいね、それにしても、

この人達があんなに弱いとは思わなかったわ、もう少し手応えがあると思っていたのに、

期待外れもいいところだったわ、まあいい、それよりも、早くここを立ち去らないと、

いつ増援が来るかわからないし、さっさと逃げましょう、

そう言って、カレルさんは先頭に立って歩き出しました。

私もそれに続くようにしてついていきます。

しばらくすると、大きな岩陰を見つけ、そこに隠れるように指示されました。

そこで、しばらく待つことになったのですが、その間、色々と考え事をしていました。

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