第12話 絆

「そうか、ならば、俺の故郷へ行こう」

そう言われた時、最初は何を言っているのか理解できませんでした。

ですが、よくよく考えてみると、確かに、悪くない提案だなと思いました。

何しろ、グレオスハルト様の故郷なら、きっと素敵な場所に違いないでしょうし、

何より、一度、行ってみたいと思っていたからです。

そんなわけで、私達は、グレオスハルト様の故郷へと向かうことになったのです。

道中、グレオスハルト様に案内してもらいながら、

進んで行くと、段々と風景が変わっていきました。

木々が立ち並び、川があり、山が見えるようになってきて、

自然豊かになってきたなぁ、と思いながら、ひたすら歩いていくうちに、

ついに目的地に到着したみたいです。

そこは、森に囲まれた小さな村でした。

建物は木造建築ばかりで、どこか懐かしさを感じさせる佇まいをしています。

私達が到着したことに気がついた住人達が、次々と集まってきました。

老若男女問わず、大勢の人が出迎えてくれています。

中には、涙を流している人もいました。

その様子を見て、何だか嬉しくなってしまいました。

こんなにも歓迎してもらえるなんて、思ってもみなかったからです。

それと同時に、自分は、ここにいても良いんだ、ということを実感することができ、

心が満たされていくのを感じます。

そんな感動に浸っている間、グレオスハルト様が、私のことを紹介してくれたおかげで、

皆が私のことを受け入れてくれるようになったのです。

感謝の気持ちを込めて、頭を下げると、優しく微笑んでくれました。

その表情からは、慈愛に満ちた感情が伝わってきて、心が温かくなった気がします。

そうして、しばらくの間、会話を楽しんだ後、私達は、家路につくことになりました。

帰り際、別れ際に、もう一度、振り返って見ると、手を振ってくれている姿が見えたので、

私も手を振り返しました。

その姿が消えるまで、ずっと見守ってくれていたことを、今でも覚えています。

こうして、初めての出会いを果たした私達は、お互いに笑い合い、

幸せな気持ちでいっぱいになりました。

これからも、こんな日々が続くことを願いつつ、帰路についたのでした。

あれから、数日後、ようやく落ち着きを取り戻した頃、

グレオスハルト様から、あるお願いをされました。

その内容は、この村で行われる祭りに参加して欲しいとのことだったのです。

しかも、主役として、大々的に紹介されることになっているらしいのです。

それを聞いた瞬間、嫌な予感しかありませんでした。

だって、どう考えても、面倒なことにしかならないに決まっているんですから、

当然、断りたかったんですけど、どうしても、ということで、仕方なく承諾することにしました。

そうすると、嬉しそうな顔をした彼が、私の手を取り、走り出しました。

突然のことで、驚いたものの、振り解くわけにもいかず、

結局、されるがままになってしまいました。

やがて、辿り着いた場所は、村の広場でした。

大勢の人々が集まっている中、中心に立たされると、一斉に拍手が巻き起こりました。

恥ずかしかったけれど、悪い気はしなかったですね、それに、嬉しかったですし、

何よりも、楽しかったと言えるでしょう。

こうして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、

気が付けば、すっかり暗くなってしまっていました。

名残惜しい気持ちはあったものの、別れを告げた後、

グレオスハルト様に送ってもらい、家路につきました。

明日から、また忙しい日々が始まることでしょう、

そう思うと、少し憂鬱になりかけたけど、それも一瞬だけのことで、

すぐに気持ちを切り替えることができました。

さぁ、明日も頑張ろう、そう思って、布団に入り、目を閉じる。

そうすると、すぐに睡魔に襲われ、深い眠りへと落ちていったのでした。

翌朝、目が覚めると、真っ先に時計を確認した。

時刻は、午前八時を少し過ぎたところだった。

いつもなら、とっくに起きている時間なのに、随分と遅い目覚めとなってしまったようだ。

その原因としては、おそらく、昨晩遅くまで起きていたせいだろう。

何せ、昨日は、久しぶりに家族揃って食事をしたものだから、

ついつい話し込んでしまい、寝る時間が遅くなってしまったのだ。

そのせいで、いつもより遅く起きてしまったというわけである。

まぁ、それでも、まだ慌てるような時間ではない、

そう思い、ゆっくりと準備を始めることにした。

まずは、洗面所に向かい、顔を洗ってさっぱりした後、歯を磨くことにする。

最後に、鏡の前で身だしなみを整えてから、大広間へと向かった。

「おはよう、リアン、相変わらず早いわね」

中に入ると、母であるカティアーナが声をかけてきた。

彼女の言う通り、まだ朝の六時前だというのに、

既に起床しており、すでに食事の準備を済ませているようだった。

さすが、我が母ながら、相変わらず手際が良い、と感心しつつ、席に着いた。

そうすると、今度は、父であるゼノンからも声をかけられる。

「おう、よく眠れたか?」

そう言われて、少し考え込む素振りを見せた後、正直に答えることにした。

本当は、あまり寝られなかったと答えるつもりだったのだが、

両親の顔を見た途端、不思議とそんな気分になれなかった、

それどころか、自然と口から言葉が飛び出していた。

「はい、ぐっすり眠れました、おかげさまで、体調も万全です!」

元気よく答える私に、両親は安心したようだった。

それを見て、心の中でホッとすると同時に、申し訳ない気持ちになった。

心配かけまいと振る舞ってきたつもりではあったが、

やはり、隠し通せるものではなかったのだろう、

そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「それなら良かった、何かあったら遠慮なく言うんだぞ、いいな?」

父が優しい口調で語りかけてきた。

その言葉に、胸が熱くなるのを感じた。

この人は、本当に私のことを想ってくれているのだと感じることができたからだ。

だから、素直に感謝の言葉を述べることにした。

父は照れ臭そうにしながら、頭をガシガシ掻いていた。

その様子を見ていた母は、クスッと笑みを零すと、父の肩を軽く叩いていた。

その光景を見ていると、まるで、本当の家族のような温かさを感じることができた。

その瞬間、心の奥底から込み上げてくるものがあった。

それは、涙となって溢れ出してきた。

「ど、どうした!? 大丈夫か!?」

慌てた様子で駆け寄ってきた父が、心配そうに顔を覗き込んできた。

その顔を見た瞬間、更に涙が溢れ出してきてしまい、嗚咽を漏らしてしまう始末だ。

そんな私を心配して、母が背中をさすってくれたお陰で、なんとか落ち着くことができた。

それから、しばらく経って、ようやく落ち着いたところで、

何があったのかを説明することにした。

そうすると、二人とも深刻な表情を浮かべ、黙り込んでしまった。

無理もないことだろう、いきなりこんなことを言われても、

信じられるわけが無いのだから、当然だ、私だって、逆の立場だったら、

同じ反応をするだろう、むしろ、しない方がおかしいくらいだ。

「それで、いつ頃から記憶が戻ったんだい?」

しばらくして、父が口を開いた。

その問いかけに答えたのは、母の方だった。

なんでも、私が生まれた時から記憶はあったらしい、

ただ、今まで黙っていたのは、 下手に騒ぎ立てたくなかったからとのこと、

それと、単純に信じてもらえるかどうか不安だったからなんだとか、

まあ、その気持ちもわからないでもないけどね、普通は信じられないようなことだと思うし、

私だって、未だに半信半疑な部分もあるわけだし、

でも、今は違う、なぜなら、こうして証拠を見せられた以上、

信じないわけにはいかなくなったからだ。

正直言って、まだ完全に信じたわけではないけど、少なくとも、否定するつもりもない。

だって、今まで、ずっと一緒に過ごしてきたんだから、

信じてあげたいと思うのは当然でしょう?

だから、もう少しだけ待って欲しいかな、

せめて、自分の気持ちに整理をつける時間が欲しいのよ、

このままだと、何も決められなくなってしまうから。

「わかった、そういうことなら、待つことにしよう、

ただし、なるべく早めに頼むぞ、でないと、待ちくたびれて、

死んでしまうかもしれないからな、はっはっはっ!!」

冗談なのか本気なのか、判断がつかない調子で笑う父の姿に、思わず苦笑してしまう。

まったく、この人ときたら、普段は真面目なくせに、

こういう時だけ茶目っ気を出してくるんだから、困ったものね、と思いつつ、

内心で感謝する自分もいることに気づいた。

「ありがとうございます、お父様、お母様、必ず、

近いうちに話させて頂きますので、それまで、どうか、待っていて下さいませ」

深々と頭を下げ、感謝の意を示すと、二人共、快く了承してくれた。

そのことに安堵しつつ、朝食を食べ始めた。

その後は、普段通りの生活を送りつつ、時折り前世の記憶を思い出すことがあったため、

その度に頭を抱えることになったのであった。

そうして数日が経過し、ようやく決心がついた私は両親にある提案をすることに決めたのである。

その内容はというと……私が転生者であるということを話すということだ。

というのも、このまま黙っていても埒が明かないと思ったからである。

そこで思い切って打ち明けることにしたのだ。

もちろん、最初は驚いていたものの、真剣に話を聞いてくれたおかげでスムーズに話をすることが出来たと思う。

そして、全てを話し終えた後、しばらくの間沈黙が続いたが、それを破ったのは母だった。

彼女は微笑みながら私の頭を撫でてくれたかと思うと、優しい声色で話しかけてきたのだった。

その言葉を聞いた瞬間、不覚にも泣きそうになってしまったものの、

必死に堪えた結果、涙を流さずにすんだことは僥倖と言えるだろう。

その後、父と母に抱きしめられながら、感謝の言葉を投げかけられ、

改めて自分が愛されていることを実感することができたような気がしたのである。

(ああ、幸せだな)

そう思いながら顔を上げると、そこには両親の笑顔があった。

私も微笑み返すと、今度は三人で笑い合ったのだった。

こうして、この日を境にして私と家族の絆はさらに深まったように思う。

それ以降、グレオスハルト様と会うことはほとんどなくなり、

代わりに、彼と過ごした日々を思い出しては懐かしむ日々を過ごしていた。

そんなある日のこと、ある噂を耳にしたことで、再び彼と出会うことになるとは思いもしなかったのです……。

それはある日のことだった、いつものように仕事をしている最中のことである。

突然、同僚の一人が話しかけてきたかと思えば、興奮した様子で話しかけて来たのだ。

何事かと思って耳を傾けてみると、どうやら最近話題になっているとある人物についての話だと言うことがわかった。

その人物の名前はグレオスハルトといい、今この国で最も注目されていると言われている人物である。

しかも、その彼が、我が屋敷の主人であるゼノン様に面会を求めてきたというのだ!

それを聞いた瞬間、驚きのあまり声が出なくなってしまったほどだ。

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