第8話 私にとって

私には全く理解できませんけれども、とにかく今は無事に終わることを願うばかりです。

そう思いながら日々を過ごしておりましたが、ある日のこと、

突然王宮からの使いを名乗る方がいらっしゃいまして、

私を呼んでいるとのことだったので急いで行ってみることにいたしました。

そうするとそこには数人の兵士の方がいらっしゃって、私のことを待っていたようです。

そこで詳しい話を伺うことになったのですが、その内容というのは驚くものでした。

何と、我が国に向かって進軍している敵軍の中に勇者様が率いる部隊が混じっているとのことだったのです。

これは大変由々しき事態だと思い、直ちに迎撃態勢を整える必要があると考えた国王陛下は、

私とグレオスハルト様にも協力するようお命じになられました。

ですからこうしてお二人揃って呼ばれた次第となります。

ちなみに今回はグレオスハルト様も一緒です。

そんなことを考えているうちに目的地に到着しましたので、

馬車から降りて建物の中へと入っていきますと、そこに居た人物を見て驚きました。

何故ならそこにいたのは以前お会いしたことのある聖女様がいたからです。

どうして彼女がここに居るのでしょうか?

疑問に思った私が尋ねようとしたところで先に口を開いたのは彼女の方でした。

彼女は微笑みながら語りかけてきました。

「お久しぶりです、リアンシューベレナさん」

と言ってくる彼女に会釈してから挨拶を返すと、彼女もまた返してくれました。

その後、グレオスハルト様が紹介してくださいましたので、

改めて自己紹介させていただいた後、私達は今回のことについて話し合うことになりました。

まず最初に確認しておきたいことがあったので、そのことを尋ねてみることにしました。

そうすると、意外な答えが返ってきました。

何でも既にご存知だったようです。

それを聞いてますます混乱しましたが、ひとまず落ち着いて話を聞くことにしました。

「まずはどこからお話ししましょうか?」

と言う彼女の言葉に頷きつつ、続きを促すと彼女は語り始めました。

「そうですね、では最初から説明させていただきます」

その言葉に頷くと、続けてこう言いました。

《リアンシューベレナ》

その名前を聞いた瞬間、頭が真っ白になりました。

だってそれは、私の名前と同じだったからです。

でも、冷静に考えてみればおかしいですよね?

だって、私の名前はリアンシューベレナであって、そんな変な名前ではないはずです。

そう思い直し、もう一度よく見てみると、確かに別人であることがわかりました。

良かった、これで安心できます。

ホッと胸を撫で下ろしていると、もう一人の女性の方も同じことを思っていたようで、

ホッとした表情を浮かべていました。

どうやらこの人も私と同じように感じていたみたいです。

それが何だか可笑しくてつい笑みが溢れてしまいました。

それを見て彼女もつられて笑い出し、しばらくの間二人で笑い合っていました。

それから少し落ち着いたところで、改めて挨拶をすることにしました。

「改めまして、初めまして。私はリアンシューベレナと申します」

そう言うと、向こうも同じように名乗ってくれました。

名前はユリアーナさんと仰るそうで、年齢は17歳だそうです。

見た目はとても可愛らしい感じの女性で、髪色は銀色でした。

瞳の色も同じ色をしていて、顔立ちも整っています。

服装は純白のドレスを着ていて、まるでお姫様のような印象を受けます。

スタイルもよく、胸も大きいためとても魅力的です。

ただ気になる点としては表情の変化が少し乏しいところでしょうか。

それ以外は特に問題なさそうです。

しかし何故このような場所にいるのでしょう?

不思議に思っていると、向こうから話しかけてきてくれました。

「貴女のことは知っていますよ、有名人ですからね」

と返されてしまいました。

どういう意味なのかはよくわかりませんでしたが、

褒められているということは何となく伝わってきましたので、素直に喜んでおくことにしました。

それから他にも色々と話をしたのですが、特にこれといったことはありませんでした。

ただ一つだけ気になったことといえば、ユリアーナさんが自分のことをあまり話そうとしなかったことです。

それだけが気になりましたが、それ以上深く追求することはやめました。

代わりに別の話題を振ることにします。

「あの、もしよろしければ今度一緒にお茶でもいかがですか?」

と言うと、一瞬驚いたような表情を浮かべた後で、笑顔で頷いてくれました。

「ええ、もちろんいいですよ」

その言葉を聞いて嬉しくなった私は、思わず抱きついてしまいました。

そうすると、今度は向こうの方から抱き返してきてくれたので、

しばらくそのまま抱き合っていました。

そうしてしばらく経った後、名残惜しい気持ちもあったのですが、ゆっくりと離れていきました。

そしてお互いに見つめ合った後、どちらからともなく笑い出してしまい、

結局最後まで笑う羽目になってしまったのでした。

それから私たちは別れることになったのですが、最後にユリアーナさんから忠告を受けたのです。

その内容は、この国を出る準備をしておいた方が良いということと、

近いうちに戦争が始まるかもしれないということだったので、気をつけることに決めました。

そうして彼女と別れた後、すぐにお父様の元へ向かい、事情を説明してから旅支度を始めました。

グレオスハルト様も一緒に手伝ってくださったおかげで、思ったより早く終えることができました。

その後は、部屋で休みつつ明日に備えて早めに寝ることにしました。

そうして翌朝、朝食を済ませた後、出発の準備に取り掛かりました。

荷物をまとめたらすぐに王宮へと向かう手筈になっておりますので、急がなければいけません。

そのため、グレオスハルト様と一緒に慌ただしく動いていたのですが、

そんな中、ふとあることに気づきました。

なんと、ユリアーナさんも一緒だったのです。

驚いて声をかけようと思ったのですが、その前に彼女が話しかけてきました。

なんでも私に会いに来たとのことでした。「私もお供させてくださいませんか?」

と言われた時は驚きましたが、断る理由もありませんし、

むしろ歓迎すべきところだと思いましたので快く承諾することにしました。

そうして三人で行くことになったのですが、道中では色々な話をしながら楽しく過ごしました。

中でも一番盛り上がったのはやはり恋愛の話でした。

グレオスハルト様と私の馴れ初めを話したり、ユリアーナさんの想い人について聞いたりと、楽しい時間を過ごしたものです。

そして王宮に到着した後は、お父様に事情を説明し、すぐに旅立つことになりました。

その際にお父様からはくれぐれも気を付けるようにと言われ、さらにはお守りまでいただき、

感激のあまり涙が出そうになりましたがなんとか堪えて出発することになりました。

「では行きましょうか!」

そう声をかけると、二人も元気よく返事をしてくれましたので、早速移動を開始しました。

目指す先は隣国との国境付近にある村です。そこで準備を整えた後、いよいよ本格的な行動に移る予定です。

どんな困難が待ち受けているかわからないですが、きっと乗り越えていけると信じています。

「頑張りましょうね、皆さま」

そう呼びかけると、二人とも力強く頷いてくれたことが嬉しかったです。

「はい、頑張ります」

そう言いながら微笑む彼の顔を見ると、なんだか幸せな気分になります。

「僕も精一杯頑張るつもりだからね」

そう言って微笑みかけてくれる彼の姿に胸が高鳴ります。

ああ、やっぱりこの人は素敵ですね……そう思いながら見つめていると、

不意に目が合いそうになって慌てて視線を逸らしてしまいましたが、

それでもドキドキしてしまう気持ちは抑えられませんでした。

そんなことを考えていた時でした。

突然後ろから声をかけられたかと思うと、そこには見知った顔がありました。

その人物とは、この国の第一王子であるグレオスハルト様の婚約者であり、

聖女でもあるマリアベル様です。

彼女は私たちの姿を見るなり駆け寄ってきて、声をかけてきたのでした。

一体何事だろうかと思っていると、彼女はこんなことを言い出しました。

「実は折り入ってお願いがあるのだけれど聞いてくれないかしら?」

「何でしょう? 私にできることであれば構いませんけど……」

そう答えると彼女は嬉しそうな表情を浮かべてこう言いました。

曰く、最近隣国の動きが怪しいということで偵察に行って欲しいとのことでした。

確かに隣国の動きについては気になっていたところですし、ちょうど良い機会かもしれません。

それに何よりこのチャンスを逃すわけにはいかないと思ったのです。

だから二つ返事で了承したのですけれど……まさかあんなことになるなんて思いもしなかったのです。

あれ以来、毎日のように悪夢を見るようになりました。

毎晩同じ夢を見続ける日々が続き、次第に眠ることすら怖くなってしまいました。

このままではいけないと思い立ち、思い切って彼に相談することにしたのです。

彼は真剣に話を聞いてくれて、解決策を考えてくれると言ってくださいました。

本当にありがたい限りだと感謝の気持ちでいっぱいになりながら、

彼に全てを打ち明けることにしたのです。

そうするとそれを聞いた途端、険しい表情を浮かべながら黙り込んでしまいました。

やはり迷惑だったのでしょうか……?

不安に駆られながら様子を窺っているうちにようやく口を開いてくれましだが、

その内容というのが驚くべきものでした。

なんと彼も同じような夢を見るようになったというではありませんか!?

これには驚きましたが同時に嬉しさも込み上げてきました。

なぜならそれはつまり彼が私のことを気にかけてくれている証拠に他ならないのですから……!

そう思うと途端に顔が熱くなるような感覚に襲われましたが、

決して不快ではなく寧ろ心地良さすら感じるほどでした。

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