異世界転生で発注したい人種

ちびまるフォイ

スイッチを押して動くロボット

「はあ……」


「どうしたのよ転生女神」


「最近ぜんぜんダンジョンが攻略されてないのよ」


「なんで? こないだ転生希望者を送ったじゃない。

 それにチート欲張りハッピーセットもつけてたでしょ」


「それはそうなんだけどさ……。なんか居着いちゃって」


「え?」


同僚の女神は転生させたはずの異世界の様子をたしかめた。

そこでは転生者は気ままなスローライフを送っている。


「転生させてもやる気をぜんぜん出してくれないのよ。

それどころか美人をはべらせる今の状況に満足しちゃって

もう世界の命運よりも自分の私生活を重視しちゃってるの」


「他の転生者もそんな感じ?」

「ほぼそう」

「うわぁ……」


「あーーどうしよう。もうすぐ異世界の攻略進捗報告会なのに~~!」


「転生希望者なんてそんなものよ。

一目置かれる存在になりたくて、でもそれが現実にないから

それを求めて別世界を求めているだけだもの。

承認欲求さえ満たされたなら、ほかはどうでもいいのよ」


「またそんな全転生者を敵に回すようなことを……」


「運がなかったってことよ」


「そんなぁ。女神の同期なんだから力を貸してよーー」


「うーーん、そうねえ」


見かねた同期の女神は手元にファイルを取り出した。

そこには世界のあらゆる人間や種族がリストアップされている。


そのファイリングをパラパラめくりながら話し始めた。


「ダンジョン攻略に必要なものってなんだと思う?」


「え……仲間との絆とか。強い武器、圧倒的な力……?」


「ちがうわ。それは敵を倒すのに必要な力。

ダンジョンに必要なのは"勤勉さ"よ」


「そうなの? ふに落ちないけど……」


「どんなに強い人間でも1日でダンジョン攻略は無理。 

ルートを確保して、適宜休憩しつつ、少しずつ探索を進めていく。

それは勤勉さが一番求められるのよ」


「そういわれるとそうかも」


「でしょ。で、それを完璧に体現している種族がいるのよ。ほらこれ」


「これ……ニホンジン=ノ=ビジネスマン?」


「そう。彼らは非常に勤勉で仲間意識も強い。

仲間が帰らない限り、自分の仕事が終わっても帰らないのよ」


「す、すごい仲間意識! 協力が必要なダンジョン向きね!」


「さらに時間も正確よ。彼らの住まう世界では1分の遅れも許されないのが基本」


「なんて精密な……。それじゃクエスト開始に遅れることもなさそうね」


「それに勤勉。体調がどんなに悪くても彼らはけして休まない。

休みを与えても仕事をするくらいには勤勉なのよ」


「なにその異世界向きとしか思えない特徴は!?」


「でしょ。あんまり知られちゃうとみんなこの種族の取り合いになるから

同期女神のよしみで教えてあげたのよ。あんまり言いふらさないでね」


「もちろん。ああ、なんでもっと早くしっておけば!」


「今からでも遅くないわよ。ほら、今ならニホンジンをダース単位で注文できるわ」


「わぁ! 本当ね! どうしてニホンジンはこんなに自殺するのかしら!

これだけ命が失われれば転生者として呼び戻せるわ!」


転生女神はうれしそうに

その日死んだ人を転生コンベアに乗せて異世界へと発送した。


勤勉かつ真面目で努力家なニホンジンたちを大量投入すれば、

まったく進んでいなかったダンジョン攻略もサクサク進むだろう。


そう思っていた。


数日後、転生女神は半泣きで同期に泣きついた。


「ちょっと聞いてよ~~」


「なんで泣いてるのよ。あんなに転生者を送り込んだのに」


「それがぜんぜんダメなの。まるでダンジョン攻略してくれないのよ」


「はあ? そんなバカな。ニホンジンを使ったんでしょう?」


「それはそうなんだけど……」


「彼らはサボることをしないわ。それに休むこともしない。

毎日正確に動いて、勤勉に働く性質があるはずよ」


「それが何をやっても動いてくれないのよ……」


「そんなバカな。ちゃんと人間取り扱い説明書よんだ?」


「うん……。読んだらこんなこと書いてあったの」


女神は取り扱い説明書の一説を読んでみせた。




「彼らは、"ジョウシ・ノ・シジ"を唱えないと動きません。

 そんな魔法どうやって使うの?」

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