2枚目 『捨てた』故郷にて
『この度は弊社を選択していただきありがとうございました。厳選な選考の元、残念ながら今回は不採用とさせていただきました。ご縁が合わなかったことかと思いますが、改めて新たな一歩を踏み出せることを健闘しております。』
「……また、不採用。」
もうただのゴミ当然になった通知書をグシャグシャに丸め、ゴミ箱に投げた。手を離すタイミングがずれ、ゴミ箱の縁に当たり床に落ちる。
「結局ここに戻っても、私には何もないんだよ。」
立ち上がりながら愚痴をこぼし、紙くずを拾う。
「……クソっ!!」
投げつけた紙くずはゴミ箱の中で盛大に暴れた。他のゴミや塵が飛び散るのもお構い無しだ。怒りなのか、ただの八つ当たりなのか、……ここは怒りとしておこう。そうでもしないと私という意味が失くなってしまう、そんな気持ちになるからだ。再びベッドに体を沈め、視線をふと自室の机に向ける。机につまれた封筒の山は、既に『不採用』とされた企業からのものばかり。結局私は故郷でも職を見つけることはできていない。
あの日故郷に帰り、すぐに実家に向かった。駅からバスに揺られて小一時間、中心部から離れた田畑が広がり、少し歩けば海が見えるという場所に実家はある。最寄りのバス停からは徒歩5分。歩きながらでも遠くにうっすら実家の門が見える。「帰りたくない、帰りたくない……」と思う自分の気持ちも虚しく、足は実家の門をくぐった。
玄関の引き戸に手をかける。(……嫌だ、開けたくない、……だったらいっそ今からでも東京に戻れば、……ダメだ、もうあの場所にはいられない、……でもここにも戻りたくはない。)
そんな葛藤していると、ガラガラと引き戸が開いた。
「……!?
目の前には母さんがいた。もう少し気持ちを整理してからでもよかったかもしれないが、逆にこっちの方がもう戻れない状況をつくってくれたと思えば良いのかもしれない。
「……いや、その、何て言うか。」
『ただいま』
例え、帰りたくないと思ってもここは私の生まれた故郷だ。嫌でも挨拶はしておかないと。「ほら、そんな所に立っていないで!」と母に背中を押され、家の中に入った。……入りながら『お帰り』と言ってくれた母の暖かさが、今の私には少しのありがたさと悔しさを感じた。
その後、夜になり仕事から帰ってきた父の三人で食卓を囲んだ。父は私がいることに関しては何も反応しなかった。ただ、これまでの経緯を私が両親に話した時、父は持っていた茶碗を置きながら私にこう言った。
『だから言っただろう、東京なんぞに出たからこういう結果になったんだ。これでわかっただろう。お前は何もかも中途半端で終わらせるダメな人間なんだということを。』
(……だからここには戻りたくなかったんだ。)
箸を持った右手に力がこもる。
(……同じだ。東京での元上司と同じだ。あいつもただ結果ばかりしか見ていなかった。私だって努力はしたさ。同期に負けないように働いたさ。必死になって業務を行ったよ。けど、結果がこうなったんだよ!こうなっちまったんだよ!!その努力を認められないで何が取り柄が無いだ!!!何がダメな人間だ!!!)
もくもくと食事をとる父の事を睨みながら、私は鬱憤を飲み込んだ。「……あんたにも私の努力を認めて欲しかった」、その一言も飲み込んで。
次の日から私はハローワークに通い、求人募集のチラシを見つけると片っ端から面接を行った。結果はお察しの通り、『不採用』と記載された紙を入れた封筒がたまるだけ。……私には何も無いんだ、私は廃人なんだ。ベッドに沈んだ体を起こす気力もなく、ただ枕に冷たい雫を落とすだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます