桜花の画(フォト)

筑波未来

1枚目 私の『居場所』

『君には本当に人間だな。』

私の心は壊れた。

軟弱者だと罵っても良い。臆病者だと笑っても良い。ただ、あのとき言われたこの言葉が私の一番の傷となった。


大学進学を機に地元を離れ、憧れの東京にやって来て10年、夢と希望を描いていた20代の頃の私は、今の私にとってはとても羨ましい景色に見えてくる。大学生の頃の自分はこんな景色で過ごせるものだと確信していた。しかし、現実は非常である。卒業後、就職した職場では目立った活躍は無し。同じ大学出身だった同期はさっさと出世。中には結婚したという地元の同級生が写真を送ってくることもあった。そんな中で私だけが取り残された。いや、残るべくして残っているという表現の方が良いのかもしれない。とにかく、私は売れ残りの商品のように職場でも端の方にただ居るだけの存在になりつつあった。そして、私の心は壊れた。

「お前、何か取り柄は無いのか?」

きっかけは、上司との呑みの席での質問からだった。

「私の取り柄ですか?」

取り柄、そんなもの私には無い。むしろ、取り柄があったらここまで苦悩している自分はいない。何を言っているんだこの人は、と上司でありながらそんな罵声を飲み込み、

「……わからないです。」

「……はぁ、だからだな。」

と私の返答すぐにため息をつかれる。右手に持っていた生ジョッキをゴクゴク飲み干し、バンッと軽く机を叩きながら、

「お前はすぐにわからないですって答えるけどよ、自分の取り柄ぐらい自分で理解しとけよ。」

「……。」

私は何も答えられなかった。いや、答えは出ているのだ。それが本当に私の答えなのかと言われると自信がなかった。両手に持ったジョッキを眺めながら、視線を上げることが出来なかった。シュワシュワと弾ける泡のように私も弾けて消えていきたい。そんな気持ちに刈られながら私は後日、職場に退職届を出して憧れの街を後にした。



『次は平桜、平桜。終点です。』

車内に響くアナウンスが聞こえ、閉じてた目蓋を開く。ゴトゴトと走っていた特急もスピードを落とし、駅のホームに入っていく。車窓には見慣れた町、ただ何年も離れていたので駅前も大きく発展している。

「……帰ってきた。いや、帰ってきてしまった。」

ため息も出ないこの感情、私はこの後どうして過ごしていこう。離れたくて離れた町、憧れの為に旅立った町。


東北に一番早く春を告げる町『平桜へいおう市』。ここが私の故郷である。

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