第2話 暖かい心

何というか傘を貸してくれたお礼に天水が俺に夕食を作る事になった。

こんなに不思議な展開もあるもんだな。

その様な事をしてもらう関係ですら無いのだがな。

思いながら天水を見る。


天水は揚げ物などを作っていた。

冷蔵庫の品を利用したメンチカツだそうだ。

あまり良いものは入って無かったのだがそんな品でよく作れるよな。

俺は食卓の準備をしていた。


「横田くん」

「何だ?」

「メンチカツとお野菜とご飯と味噌汁以外に何か食べますか?」

「...いや。お前に迷惑がかかるだろ。大丈夫だよ。有難う」

「...聞いた限りでは男の子はかなり食べると聞きました。思春期は成長期だと。本当にこれだけで良いのですか?」


そう話す天水。

俺は困惑しながら考え込む。

それから「それじゃあ何か...付属品をお願いできるか」と聞く。

すると天水は苦笑しながら「やはり足りませんか」と言ってくる。

俺は頬を掻いた。


「足りないっていうかやっぱ思春期男子だからな。成長期はもう逆らえない」

「...素直で宜しいと思いますよ」

「素直すぎないか?俺」

「いえ。というか言ってくれた方が有難いです。有難うございます」


天水はそう話しながら少しだけ柔和な顔をした。

それから俺を見てくる。

俺はそんな顔を見ながら「何か出来る事はあるか?」と聞いた。

すると天水は「無いです。お箸とか出してくれて有難うございます」と微笑んだ。


「...」

「どうしました?」

「今ので更にビックリだ。お前、微笑むと更に美少女になるな」

「...私は美少女ではないですよ。外見は悪くないですが内面は歪んでいますから」

「...?」


かなり厳しい感じを見せる天水。

俺は訳が分からずクエスチョンマークを浮かべる。

そうしていると天水はハッとした。

それから俺を見る。


「すいません。変な話をして」

「いや。意外性が見えたよ。お前の」

「意外性?」

「お前の大変さが見えた」


そう言いながら俺は天水に向く。

「お前が正直、どんな人間か分からなかったけど。今ので少しだけでも大変なのが分かった」と言葉を発する。

何たって俺も...ギャンブル依存の父親を持つしな。


「...貴方も大変な人生なのですね」

「俺はお前の人生より遥かに軽いと思うが...まあ確かに俺の人生も重いかもな」

「...そうですか」


天水はそう呟きながら「絶望ですよね。何かしら人生にあったら」と言う。

皮肉の様な冷めた笑みだった。

そんな言葉に「ああ」と返事してから「人生は皮肉祭りだ。そんなもんだよ」と応える。

メンチカツが揚がったらしい。

彼女はそれを盛り付けながら「止めましょう。この話。暗くなりますしね」と話した。


「そうだな。クソくだらない話だ」

「ですね」

「...じゃあ何か別の話でもするか?」

「じゃあテストどうでした?小テスト」

「まあまあだな。お前は...というか聞かなくてもお前は天才だったな」


そうか天水はめちゃくちゃな天才だった。

思いながら天水を見る。

だがそんな天水からは予想外の言葉が出た。


「成績悪かったですよ。今回だけは」

「学年1位の成績者がか?成績が落ちたのか?」

「そうですね。今回は体調が悪かったので。だから悪かったです。成績が」

「体調か...厳しいな」

「そうですね。だけど仕方が無いですよ。こういう日もありますから。10位だったんです」

「...」


俺は苦笑いを浮かべる天水に手を合わせる。

「冷めないうちに食べようか」と言いながらだ。

すると天水はそんな俺の姿に「ですね」とまた柔和になりクスッと微量に笑ってから頷いた。

それから俺は食べ始め...って何だこれ凄く美味しいんだが。


「...お前凄いな。料理...も出来て家事も出来る。それから勉強も出来て体育も出来る...天下無双だな」

「そんなに凄いものではないです。一人暮らしなら当たり前の事ですよ」

「まあ当たり前とは言えどな...」

「横田くんはコンビニ弁当しか食べてない様ですが」

「あ、ああ。うん」

「体壊しますよ」

「塩分高いしな」


そして俺は汗を流す。

それから苦笑いで天水を見る。

すると天水はそんな俺の姿を見ながら「まあ...好きなものを食べるのは良い事ですけど...無茶はしないで下さいね」と言ってくる。

俺は「はい」と母親に叱責される気分を味わった。


「...横田くん」

「ああ。何だ?」

「その。...いや。やっぱり何でもないです」


言い淀みながら天水はご飯を食べる。

俺はその姿に「?」を浮かべながらご飯を食べ始めた。

正直どれもこれも当たりだと思う。

こんなに美味しいものを...食べたのは久々だな。

失踪した母親以来か。


「天水」

「...はい?」

「正直、滅茶苦茶感謝だ。こうして作ってくれて」

「...」

「どうした?」

「いや。人からそんなに感謝された事が...無いもので」


天水は目線を逸らしながら応える。

俺はその言葉に顎に手を添える。

それから俺達はそのままご飯を食べ終えた。

そして俺は天水と一緒に皿を洗ってから雨水を玄関まで見送りに行く。


「今日は有難うな」

「...いえ」

「...一回きりだとしても嬉しかった。感謝だ」

「...その事なんですけど」

「ああ」

「食費を折半してくれたら私はお夕食を作りに来ます」


何でそうなる。

そこまでしてもらう義務はない。

思いながら俺は「それは良いよ。有難う。お心遣いだけで...」と言う。

すると天水は「...これは私からの恩返しです」と言った。


「...しかし傘を貸しただけで」

「それで私は濡れずに帰った。...それだけで人生は違いました」

「...」


俺は天水を見る。

そして天水は「...また明日」と一先ずという感じで手を振った。

それからドアが閉まる。

たったこれだけなのに心臓が...高鳴った。

何故なのか?

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