第3話 監視


良く分からない人だ。

思いながら私は夕食後の帰り道で思った。

彼の部屋と私の部屋。

私の部屋が下の階に有る。

彼の部屋が上にある事を知ったのは一月前だ。


たまたまポストの配達ミスで宅配物が入っていた事による。

その事で私は彼の部屋が上にある事を知った。

私はその為に傘を返しに行った。

すると彼は「そういうつもりで貸した訳じゃ無い」という。

貸したものは返すのが当たり前だ。


「...」


私は一階下に着いてから玄関のドアを開ける。

因みに私には家族が...居た。

性格に言えば姉、母親、父親。

そういう組み合わせである。


私の家は...裕福だ。

だけど私はあの親に資金援助はしてほしくないから頑張ってアルバイトをしてお金を貯めて今に至っている。

あの親は...私を名前で決して呼ばない。

愛情を貰った覚えもない。


その代わりに頻繁に貰う言葉がある。

それは「お前は男だったら良かった」という言葉だ。

実の娘に...言う様な言葉だろうかそれは。

思いながら私は溜息を吐きながらそのまま部屋に上がる。

それから荷物を置いた。


一人暮らし。

もう慣れたけど...今でも思う事がある。

それはお姉ちゃんの安否だ。

実は私とお姉ちゃんは事実上、引き離された。

その理由としては私と居たら馬鹿になるという事だった。


「...」


お姉ちゃんはそれから洗脳される直前に親元から逃げ出した。

そして今も行方が分からない。

で。

私はその身を案じながら今も生きている。

私の家族はお姉ちゃんだけだ。


お姉ちゃんだけが私を(家族)として認識してくれた。

他の奴らは皆、私を家族とは認識しない。

そもそも球が多くあれば良いという感じの認識の様だが。


そんな私だが定期的に連絡を取り合っている人が居る。

名前を渋谷美海(しぶやまりん)という。

私がお姉ちゃんの行方を捜してもらっている同じ同級生の子だ。

美海は私の事を何時も案じてくれる親戚の子である。


私はそんな事を考えながら写真を見る。

そこには破って有る写真が飾られている。

破った部分には洗脳してきた親の顔があったが破り捨てた。

あの親だけは絶対に許さない。


「...忌々しいですね...」


そんな事を呟きながら私は服を脱いだ。

それから私はお風呂に入る事にする。

そしてハミングしながらお風呂に入ってから上がった。



鏡を見るのが嫌いだ。

何故嫌いなのかといえば簡単である。

私の醜さを映している気がするからだ。

だけど身なりを整えるには鏡が絶対に要る。

だから仕方が無く見ているけど。


「私も随分と醜いですね」


そんな事を呟きながら私は鏡に手を添えて真顔になる。

やはり目の前に映っているのは長い髪をしただけの醜い女の子だ。

私はそう考えながらドライヤーなどでお手入れをする。

こんなに長い髪の毛じゃなくても良いけど。

髪の毛は神聖だから。


「...髪の毛に神様が宿る...か」


私はそう呟きながらお手入れをしているとインターフォンが鳴った。

それから慌てて私はドアを開ける。

するとそこに「はいさーい」と美海が立っていた。

サーターアンダギーを持っている。


「美海?どうしたのですか?」

「そりゃ勿論遊びに来たさー?はい」

「...またいっぱいですね。サーターアンダギーが」

「黒糖味に仕上げたさー!」

「ああ。そうなんですね」

「そうよ!」


美海は元気なのに白髪をしている。

何故白髪かといえば単純な理由がある。

彼女の髪の毛はメラニン色素が非常に出にくい病気を抱える。

太陽が合成しにくい。


だからこそ白い髪の毛をしている。

だけど当本人は全く気にならないそうだが。

逆にそれが勇気になっているらしい。


「...美海」

「マリンちゃんって呼んでよ?いい加減に」

「私は周りみたいにそんな呼び方は出来ません」

「呼べない理由は何かな?」

「恥ずかしいです。ただそれだけ」


私はジト目で家に上がって来る美海を見る。

そしてサーターアンダギーをむしゃむしゃ食べながら満面の笑顔を浮かべる。

私はその姿に溜息を吐きながらお茶を淹れる。


それから美海に出す。

律儀に正座をしている美海。

こういう所だけは生真面目だ。


「美海」

「何?」

「...この場所に来たって事は要件が何かあるんですよね」

「そうだね。...横田春樹くんと仲が良いの?」

「...そんな感じに見えます?違います」

「そっか。...実はまあおじさまが色々と監視を強めているみたいでね。だからこそ色々と心配になったさー」

「...私は今はそんな気すら起きませんから」


そう私は吐き捨てる様に言う。

誤差があり過ぎだ。

何所がといえば簡単だ。

男の子が良いとか言っている私を見捨てている親が私を監視している。

これはおかしいのではないかと思うのだ。


何故...監視されているのかがだ。


「...まあおじさまも頭おかしいしね」

「...だからといってやって良い限度がありますから。...最悪ですね」

「まあね」


そして私は眉を顰めて苛つく様な感じで目の前を見る。

窓から外を眺め見た。

私に自由はない。

自由というのは何だろうか。

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