③一週間は短すぎる
さて。
好きな人とのデートを楽しみにする一週間は、長すぎる。
まして初めてのデートならなおさらだ。
けれどそれが、身辺調査と密室の謎解きをするための一週間ならどうなのか。
日数が、圧倒的に足りない。
下手に無駄行動を繰り返していたら、すぐに潰れる。
よし調べるぞと、写真部部室で密かな気合としてファイティングポーズを作った後。
何から始めたらいいんだろうと、私は部室のパイプ椅子を引いて席についた。
暗室を覗くことはできないものかと頭を使っていた集中が途切れないうちに、方針を立てたかった。
なるべく手短に。終わったらすぐ教室を出るつもりで。
なぜなら陽が高くのぼってしまえば部室棟は暑いからだ。
スマートフォンのスクリーンから他のアプリを追い払い、カレンダーを出す。
タイムリミットはデートすることになっている土曜日。
しかし、土曜日に本番を迎えるということは、考える猶予は金曜日までになる。
さらに、場合によっては『うちの身内にそういうことするのやめてほしいんですが』という対応が必要なら、金曜日の実働時間はそちらに割かれるだろう。
最終ラインは金曜日。できれば木曜日までには。
調査期限をそう定めて、私はカレンダーにその期限とデートの予定を並べた。
今この時は先輩から告白された二日後であり、日曜日。つまりぎりぎりで見てもあと五日。
そのうち火曜と金曜は写真部の活動日でもあるから、調査に当てられる時間はもっと短いだろう。
写真部は欠席についてはそこそこおおらかだけれど、先輩側の様子見も兼ねて部活は休みたくない。
様子見と言えば、とまず決まっている予定を今日の日付に入れる。
『実莉にデートが決まったことを報告』
もともと学外で対面したいという依頼だったのだから、これは必須だ。
先輩からの話を聞かせてもらった展開しだいでは、立ち会わせるどころでなくなるかもしれないけれど。
地元でデートするのだから当日はいつでも合流できるように予定を空けてもらい、会わせた方がいいと判断した時点でメッセージを送ればいい。
メッセージを送るよりは直で通話して反応を知りたかったので、帰宅後に自室からかけることを決める。
驚喜するところを聴きたいのが二割、いざ会えるとなって何か新情報を漏らさないかなぁという打算が八割ぐらいだ。
まぁ従姉はほわわんとしている割にだいぶ口が堅いので、期待半分を前提にしての八割だけれど。
できれば、もっと能動的に手がかりを集めたい。
私はカレンダーを閉じるとメモ帳を立ち上げた。
解決に向かって頭を悩ませる方向性は、二つ。
新規のメモに大きく行間を空けて、私はそれを箇条書きした
『密室の謎』
・どうやって暗室の告白が外部に漏れたのか。
・告白を知られたのは誰か。
・告白のことを知ったとして、なぜ実莉にそれを教えたのか
『人間関係の謎』
・なぜ実莉が先輩に近づこうとすると妨害されるのか。その主犯は誰か。
・先輩の交際を隠さなければいけない『一生恨みそうな人』とは誰か。
・どうして実莉も先輩も、そうなるに至った経緯について口が重いのか
……謎の人物、三人ぐらい登場してないか?
いや、告白を把握した生徒と、二人の恐れている生徒が別人だとも限らない。
つまりまだ何も分からないと当たり前の難所に行き当たり、一人きりの部室で渋い顔になる。
それでも、連鎖的に解けそうな余地はだいぶあるのが救いだった。
『志波先輩の交際を知って、すぐに武藤実莉に教える』というのは、二人の接近未遂を知っていなければできない立ち回りだ。
つまり密室について『誰がそうしたのか』のところが分かれば、残りの人間関係についても聞き出せる。
その逆として人間関係を調べていけば『密室』を崩した張本人ともいつかは行き当たる。
この先は密室の解き方について頭を悩ませながら、従姉や先輩と接点ある人達から関係者を特定していく調査になる。
中学の一件以来。女子の群れに入っていくことに苦手意識が無いと言えば嘘だった。
部活動が男女混合ということもあり日常会話ぐらいなら普通にできるようになったが、よく知らない女子に話しかけることに心の壁はある。
特に目つきの剣呑な女子だと(顔つきに関して当人に落ち度はないと理解した上でも)、いくらか萎縮する。
しかし、どのみち女友達がたくさんいる先輩と付き合っていくからには、遠からず関わっていたはずだと腹を括る。
要注意として、二人から他言無用にしてほしいと言われた秘密は守るようにすること。
例えば、『なんで大宮君が志波さん周りのことを聞きたがるの?』と聞き返されたとして『実は俺と先輩は付き合ってて』などと返すのはNGにあたる。
こちらが勝手に調べている以上、デート前に二人の周りに波風をたてるのは極力避けたい。
『課題:【誰に】事情を訊きだすか』
また改行して、そう打ち込む。
大勢に聞いて回るよりは、なるべくすぐに『当たり』の証言を引きたい。
『妨害者』にたどり着くために、学校内のどこに属しているかを絞ってみることにした。
『妨害者について」
ぱっと思いついたことを箇条書きで続ける。
『・おそらく二年生』
推理というほどのものではない経験則だけれど。
学年をとび越えて違うクラスを覗きに行くのは、学校社会では『隣のクラスに遊びに行く』に比べてずっとハードルが高い。
そして当人の心理的ハードルを抜きにしても、一人だけ毛色(ネクタイ)の異なる、別学年の生徒が教室に混ざり込んでいれば目立つ。
視界に入れた生徒の多くが、『何やら後輩がやってきた』、あるいは『先輩がやってきた』という注目をそれとなく向ける。
従姉は、何度かコンタクトを試みたけれど不発に終わったと言っていたわけで。
いつ接触しようとしても妨害を懸念するというなら、休み時間のたびにいつも来訪するわけにいかない他学年の生徒というのは考えにくい。
もっと言えば、実莉は『いじめのようなことはない』とも言っていた。
なら実際に起こっていることがどんな形であれ、それは外から見る分には目立つことではないと思っていい。
いったん生徒間で目に見える排斥が始まってしまえば、どうしてもごまかせないことを私達は二年前の件で知っている。
そして、それはクラスだけでなく部活動についても同じことが言える。
『・写真部に妨害の主要人物がいる可能性は低い』
写真部の部員は二十人少々。
少々とつけたのは、兼部している部員が多く、出席頻度の少ない者もいるからこそだが。
文化部の中ではかなり人数の多い方だ。いつも全員まとまって動くわけではない、という前提つきで。
よく一緒にいるグループは男子同士、女子同士に分かれやすいとはいえ、私だって同じ部の中にやたらと排他的な者がいて気付かないほど鈍感ではない……と思う。
少なくとも部活動の中で先輩と話していて、邪魔されたり、不穏な視線を感じたりといったことは一切ない。
誰かがまかり間違えば誰かが排斥されるという緊張感としても。
自分がそれを向けられている、という寒気としても。
もちろん、問題の人物(あるいは人物たち)が『武藤実莉』か、あるいは『恋人になった生徒』以外には無害なのだとしても。
写真部を楽しんでいる部員として、『いざとなったら自分や先輩を恨んでくる者』がいるとは思いたくない……という本音があるのは、一度写真がらみで人間関係が壊れた者としては甘いのだろうか。
しかし、どのみち『普段から一緒に部活動をしても違和感を出さない生徒』からしらみつぶすより、他のグループから可能性を潰していった方が調べやすいだろうとその行は消さずに残しておく。
まず当たるのは、先輩の同級生のグループと、もう一つの部活、陸上部のグループだ。
『課題:【誰に】事情を訊きだすか』
そして最初の課題へと戻ってくる。
妨害者の手がかりは欲しいけど、妨害者当人に直接ぶつかってしまうのは避けたい。
藪をつついて悪意が出てきたなら、私ができることには限度がある。
先輩周りのことに詳しいけれど、その人自身は妨害者でないと信頼できそうな生徒。
二年や陸上部の事情に通じる交流があり。
できれば志波先輩とかなり仲が良く。
できれば疑いのある二年生以外で。
欲を言えば疑いの少なく面識がある写真部で。
一人、いる。
『そんな都合よく見つかるはずもないか』というノリツッコミのノリをするまでもなく。
というか、あれこれと方針を巡らせる前から『何か知ってるとしたらアイツではないか』とまず浮かんでいた。
冷静に突き詰めてみて、『やはりアイツに訊くのが一番じゃないか』という結論に戻ってきた。
……いや、どうしても話しかけたくない犬猿の生徒、というわけでは決してない。
ただ、個人的な付き合いはあまりないのと、警戒するに足るだけの『立場』があるというだけで。
というわけで、月曜日はその目当ての人に接触することから始めよう。
その生徒の名前をメモ帳の最後に書き足した上で、私は立ち上がって部室の鍵を手にした。
長々と部室にいるつもりはなかったけれど、陸上部の解散と鉢合わせしないぐらいの時間は潰したつもりだった。
そのつもりだったのに、最後にカーテンの外を確かめた時に先輩も誰もそこにいなかったのは少し寂しかった。
◆◇◆◇
私はきっと、すごく運がいい。
好きな女の子から告白されたなら皆そう思うだろうけど、それだけではなく。
従姉は、ずっと先輩がグラウンドにいるところを、密かに見ていたと言っていた。
従姉だけでない。平時の部活では先輩の走りに見惚れてグラウンド付近で立ち止まる生徒は珍しくない。
『付き合っていると知られたらまずい』というのも、是非は別として、それだけ重みのある感情を向ける人がいるという話でもあり。
その上で『友達が多い』――ある程度は誰でも受け入れているというのは、私には真似できない、絶対にキャパオーバーする生き方だなぁという感嘆もあるけれど。
志波沙央から選ばれたいと望んでいる、あるいはかつて選ばれたかった者は、きっと少なくない。
私も、実莉も、先輩のことになると熱に浮かされたようになっていたし、一緒にいた時間を思い出すために相合傘の再現までするぐらいだから。
何も従姉の感情を渡しと同じ恋愛感情だと決めつけるつもりはないけれど、二人で先輩の好きなところを話した時に見えていた感情は、私が先輩に感じているそれと似ていた。
『志波さんにも同じ好意を向けてほしい』という望みは、きっと多くの人には限りなく高いところにある。
というか私だって、情けないけれど本当にいいのか訊いた。
――もう少し慎重に様子見とか、駆け引きとか、考えなかったわけじゃないけど。
――前に、『私は友達を広げがちだから、一緒にいて安心できる人は手放しちゃだめだよ』ってアドバイスされたことがあって
慌てて説明するような早口には、照れ臭さが見え隠れした。それが嬉しかった。
だから、昨晩から考えなかったわけじゃない。
まずは自己紹介からだという奥手な願いだったからこそ、応援できたんじゃないかと。
これまで陸上部でも写真部でもそれぞれの友人グループと楽しげにする先輩を見てきた。
中には、写真部が終わったタイミングを見て迎えに来るぐらいべったりの同級生だっていた。
しかし、むしろ親しい仲ほどあっけらかんと身内感覚で、実莉のような熱っぽさはなかった。
むしろ距離の近い友人ならそんなものだろう。
これまで誰にも見せない顔をしている従姉の方こそ『遅れてきた思春期の一過性』と見なされてもおかしくないと納得もしつつ、
――もし『友達として付き合いたい』と言われたのではなく、『友達とは違う好きかもしれないけど付き合いたい』と言われたら、今ほど応援する気になれたか?
――今ほど応援できなかったというなら、前者の形で頼んできた従姉はいくらかずるいんじゃないか?
私の中のいちばん捻くれた部分が、そう自問しなかったわけじゃない。
『いや、向こうはまず大宮康の交際は応援すると言ったんだから後者の意図は無いよ』と反論できる一方で。
従姉が『先輩と相合傘をしたことがある』と幸せそうに言った時に。
強く羨ましいと思ったのも本音なのだから。
それでも、私の中でまったく迷っていない部分が問いかけるのも確かだった。
――『二人が知り合う機会さえ与えない』ってのは、絶対に違うだろ?
好きになる、ならないは会ってからのことで。
選ぶ権利を持っているのは、先輩なのだから。
『彼氏らしく譲れないところは譲らないようにしたい』という自我もそれなりにあるとして。
『やっぱり友達以上に好きになりました、と言われるのが怖いから紹介しません』というのは、二人ともを信用していないみたいだし、何より自分がしっくりこない。
実莉と志波先輩を会わせたくない生徒も、何かの葛藤があって動いたのかまでは分からないけれど。
……まさか、実莉の向ける感情が見るからに重たいから警戒されている、なんてことは無いだろうな、と。
この時は『まさか』という思い付きとして、その場限りの考えにとどまっていた。
◆◇◆◇
トイカメラとは、名前の通りにおもちゃ屋で売っているものだと思いこんでいた。
家電量販店でも買えると知ったのは、金曜日にプレゼントしてもらった時に、どこで買ったのか尋ねたのが初めてだった。
地元の電気屋では取り扱っていなかったので、通学区域が広がったのは結果的に良かった。
部室での一人捜査会議を終えた私は、制服姿のまま開店時間になりたての家電チェーン店に立ち寄っていた。
通学駅とはまったく逆方向だ。ファーストフード店やショッピングモールが太い道路に並ぶよう点在する、市民の買い物エリア。
地元の別チェーン店とカメラのラインナップが違っているとわくわくする……そのぐらいには趣味を兼ねた冷やかしでもある。
目当ては先輩がプレゼントを選んでくれたという、トイカメラの区画。
校門を出てしばらく歩いたところで、調べることは他にないかと考えるうちに閃いた。
『先輩が告白するにあたってトイカメラのキーホルダーを用意していた』ことを事前に知ることはできない。
プレゼントは、箱に入って包装された状態で学校に持ち込まれたのだから。
だからあの暗室では、『どうにかして盗聴か盗撮しない限り、キーホルダーのことまで分からない』という密室になる。
しかし、『先輩に好きな人ができた気配』をそれとなく察知して、『店でプレゼント用の包装を頼むところ』を目撃していれば。
先輩からじかに聞かなくても、『部活が終わったのに先輩と一人の男子生徒が部室棟を出ていない』と外から把握することで。
盗聴工作をしなくても、先輩から事情を訊きださなくても、告白とプレゼントのことを察して動けるんじゃないかと。
そんな推理が成立するかどうかを確かめに、トイカメラを購入した店に足を踏み入れたわけだが。
「店、でかい……」
家電量販チェーン店というのは、たいてい雑貨屋やモール内のおもちゃ屋とは比較にならないぐらい店舗面積が大きい。
店内の通路も大人が悠々とすれ違えるだけの幅はあり、商品棚に隠れてのぞき見などしていれば他の客や店員から怪しまれることは必至。
色鮮やかなトイカメラがぶら下がっている一角も左右に太い通路が開けているし、そもそも店の入り口からはかなり距離がある。
推理が成立するかについては『微妙……』としか言いようのない間取りだった。
私自身、商品棚に眼を奪われてしまっているから『人に見られていたらすぐ気づくはずだ』とまでは言えないけれど。
覗く側としては、『志波さんが店に入っていった。こっそり何を買うのか確かめよう』という気持ちで店に入っていくにはかなりの無謀さが要る。
友人と連れ立って買い物をしている時に買ったんじゃないか、という可能性も考えたけれど。
『女子高生が連れ立って家電量販店に入るか?』とか、『あれだけ隠したがっていたのに他の友達も見ている前で買うか?』など、それはそれで微妙なラインがある。
この推理ならスジが通る、とは自信を持って言えないのが正直なところだった。
……いや写真部の仲間と連れ立ってカメラを観に行く、という事ならあるかもしれないか、とは思いなおす。
とはいえ、トイカメラをプレゼント包装付きで買おうとすれば、『誰に贈るの?』と気を引きそうなものだ。
カメラをプレゼントにする時点で、『写真という同じ趣味がある人にあげますよ』と言っているようなものなのだから――。
好きな人と同じ趣味を持つ。
そのイメージに、ふと違和感がきざした。
……写真部に入ろう、とは思わなかったんだな、と。
私たちが交際を始めたことがきっかけで、実莉は先輩に向けた好意を明かすことになったけれど。
そもそも私が『志波さんのいる』写真部に入部することになった時点で、思うところはなかったのだろうか。
『高校では写真部に入るつもりだ』と言った時のことを思い出す。
叔母と連れ立って合格祝いを告げにきて、夕食を一緒にした時だったと思う。
半年ほど前のことだから、どんな顔をしていたかは記憶から浮かばない。言われたことは何となく覚えている。
――コウくん、写真、続けたいんだ。
――あのさ、うちの写真部の、二年生になる人で……。
――やっぱり、なんでもない。
写真部に友達でもいるのかな、と。
その時だけそう思って、すぐに祝いの空気でうやむやになった。
あの言葉が先輩を指していた、と100パーセント決まったわけではないけれど。
他に写真部に知り合いがいるとも聞いたことがない以上、先輩のことを言おうとしたものだと仮定して。
武藤実莉は、写真部でも陸上部でもなく、美術部に入っている。
高校に入学してすぐに入部を決めていたし、そこは文芸部じゃないのかと私も訊いた。
文芸部は趣味の話ができなかった、と切なそうに語っていた。
確かに高校の文芸部はライトノベルを好む生徒が多数派だろうし、イーニッド・ブライトンやエミリー・ロッダに浸かっている女子高生の方がマイナーには違いない。
それでも白樺高校では、部活動の兼部や乗り換えは禁止されたりしていない。
もっと言えば、写真部は昔から兼部者が多かったこともあり、『コンクールを目指さない思い出づくり』目的も歓迎、新規参入のハードルは緩い雰囲気がある。
教室で話しかけられないなら、せめて部活動で……という発想を持つことは、できなくない。
単純に部費が倍かかるだとか、写真自体がやりたいわけではないのにとか、遠慮した結果だったのかもしれない。
しかし私が不安になったのは、『写真部でも拗れた人間関係の解決は見込めない』という可能性だった。
――例えば『それまでの人間関係が荒れるけど、彼氏の身内だから我慢して付き合う』……とかにはなってほしくない
あの言い方は、志波先輩と親しい人が嫌がっているから近寄りがたい、というニュアンスがあった。
もし写真部の中で仲良くなったとしても、すぐに『嫌がっている人』に伝わってしまうから諦めたとしたら……。
だとしたら、写真部の部員であっても――
「あのー。大宮くん?」
少女の高い声だった。
耳朶が不意打ちを受けた。
びっくりして変な声を出すところだった。
とっさに口を手で押えて振り向くも、そこに人はいなかった。
「さっきからトイカメラ持って五分ぐらい固まってますけど、大丈夫ですか?」
違う。目線を下げれば、いた。
小さな女の子だ。そして知り合いだった。
背が低い、ではなく小さいと言った方が正しい。
背丈が小学生にしか見えないだけでなく、全てが小作りだから。
手の大きさなんて、握手したら包みこめそうなほどにこぢんまりしている。
両親はきっと誘拐を心配したに違いない。実際、彼女の姉は過保護だと聞いている。
「里見さん…………いや、五分、て。そんなに?」
「そーんなに。試しに携帯で時間見てましたから」
――同じ陸上部の里見さんと特に仲が良くて、部活終わりとか『つかれたー』って感じに肩を貸しあってたり。
――友達の中でも気を許し合ってるんだなーって人は意外とひと握りなのかなって、見ていて羨ましくなる事もあるけど。
里見永遠(さとみ・とわ)。
写真部の一年生。
志波先輩に懐き、可愛がられている後輩。
そして陸上部二年生に姉がいる……『志波沙央の一番の親友』の、妹。
そしてことによると、たった今わいてきた不安が正しければ……『第一容疑者』になり得る生徒の、身内。
疑われているとも知らず、休日に出会った部活メンバーの奇行を面白がるように。
なぜか同学年に敬語を使うその聞き込み相手候補は、従姉のふわふわした微笑みとは雰囲気の異なる。
どこか小悪魔めいた、にはーっと揶揄うような笑顔をしていた。
◆◇◆◇
そんな風にして。
どう話しかけるかと考える手間が省けた安心と、芽生えたばかりの警戒心を抱いて。
私は休日の事故めいた遭遇を、そのまま会話に繋ごうと試みることになったわけだが。
「……じゃあ何か?」
この約一時間後に、彼女からの証言で、私はひっくり返る。
比喩ではなく、その時座っていた椅子からずり落ちる。
「あの二人は、ずっと両片思いだったかもしれないってことか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます