第三話 決意

Part-A

 沖ノ鳥ベースから出発した星系内惑星への定期便ヤマト航空350便には大勢の客が座席に座っていた。ちらほらと軍人も搭乗しているようだ。


 レイの隣にはユイが座っている。今日は軍服ではなく水色のワンピースを着ていた。久々の実家だからか、すごい笑顔で嬉しそうだ。ちなみにレイはいつもの詰襟のまま。


 定期便が沖ノ鳥ベースを離れしばらく移動すると、巨大な輪っかが見えてきた。


 輪っか状の構造物は、直径3kmもある巨大なものだ。それが何十体も連なっている。


 この装置は次元弾道跳躍Dimension Ballistic Leapのための霊符加速機。『かが』の霊符射出機カタパルトを大きくしたもの。軍艦は自力で次元弾道跳躍の準備加速をするが、民間機では霊符加速機を使用する。


 全長100mほどのヤマト航空350便が、霊符加速機をくぐると内側の幾何学模様が輝き始め、機体が一気に加速する。何個もの輪っかを通過し加速が頂点に達したところで、蓄霊凝縮装置Aether Condenserの霊子を解放し、次元弾道跳躍を行った。



 定期便は、一瞬でヤマト州第四惑星カントウ付近に着空touchdownする。


 着いた空間は、直径10kmの巨大な輪っかを複数組み合わせた籠のような球状空間の中心。もっと巨大であれば、恒星を包むダイソン球に似ている。


 この籠状の構造物は、霊符着空機と呼ばれ、空間の歪みを矯正するものだ。本来、次元弾道跳躍は巨大な重力による空間の歪みがある場所では使えない。空間の歪みが大きいと離空着空が安定せず最悪恒星や惑星に突っ込んでしまう。そのため人工的に空間を安定させた場所を用意する必要がある。


 霊符着空機も霊符術Aether Amuletを使用しており、先ほどの霊符加速機と同様に3交代制で、大勢の術士が管理・管制していた。


 霊符加速機と霊符着空機を組み合わせることで、本来は数日かかる星系内外への移動が、一瞬ですむようになっている。



 ヤマト州第四惑星カントウは、海:陸が8:2の青い星だ。大きさは人類発祥の地、地球とほぼ同じ大きさで地軸の傾きも約23.4度斜めに傾いており、場所によっては四季もある。


 霊符着空機から出たヤマト航空350便は、そのまま惑星に降下する。その速度は緩やかであり大気圏に突入しても断熱圧縮は発生せず赤熱化もしない。


 旧来の揚力などによる飛行ではなく、重力制御ができる現在では、反重力で惑星の重力加速を打ち消し機体の推進力でのみ飛行する。


 重力制御は大きく2つの技術で構成されていた。


 一つは反重力。重力を伝えているのは波であり、波であれば打ち消すこともできる。反重力装置は民間にも行き渡っており、農家の荷車にも使われているほどだ。

 もう一つは重力源を発生させ移動する方法。重力源の方向に無限に落下していく。ただ惑星の重力に逆らうにはそれなりの大きなエネルギーが必要。主に無重力空間での長距離移動として使用される。


 ヤマト航空350便は、ゆっくりと地表のハネダ空港に降り立つ。ここは既に皇都の一部だ。


「はー、やっと着いた!」

「結構寒いね」


 空港の玄関を出るユイとレイ。ユイはコートを羽織っており皇都の冬にも適応している。レイはまだ詰襟のままで若干の肌寒さを感じる。吐く息が白い。


 そんな2人を迎える老人がいた。


「おかえりなさいませ。お嬢様。それと星菱レイ様」


 老人は燕尾服をきちっと着込みいかにも執事。という感じ。


「あ、じいや!久しぶり!」

「お世話になります」

「はい、お久しぶりです。レイ様もよろしくお願いします」


 荷物を持ち、じいやに付いていくと黒い高級リムジンが止まっていた。運転手にも手伝ってもらいトランクに荷物を入れ、リムジンに乗り込むとふかふかのシートが出迎える。


 リムジンは少しタイヤで走ると、途中から浮き出し道路を離れる。タイヤを格納し飛行を始めた。


 居住惑星では、道路が殆ど整備されていない。車両が全て反重力で飛行するため不要だ。


 空港の道路も途中までで終わっていた。空中での道はフロントガラスに投影されており架空の道に沿って飛行する。


 リムジンの加速はイオンドライブによって行われる。イオンドライブとは、地球時代に小惑星探査機に使われたイオンエンジンの延長線上にある技術。パワーは段違いだが。


 しばらく飛行していると、眼下に大きなお屋敷が見えてきた。皇国式の家屋で木造であり瓦屋根などで建てられている。屋敷の敷地は広大で見える範囲が全て横田家だ。緑も多い。



 リムジンはスムーズに屋敷の玄関口に停車した。運転手がドアを開けユイとレイが降りる。


「「「おかえりなさいませ、お嬢様。いらっしゃいませ、星菱レイ様」」」


 玄関口では左右にずらっと並んだ女中さんが出迎えてくれた。


「ただいまー!」

「お、おじゃまします……」


 ユイは慣れたものだが、レイは圧倒され引き気味。荷物を渡し玄関に入ると男性が一人出迎えていた。横田家現当主横田ハジメ。ユイの実父だ。


「おかえりユイ」

「ただいまー!お父さん!」

「ははは、長旅疲れたろう。早く着替えておいで」

「はーい!」


 ユイは父親に抱き着いたと思ったら、すぐ奥に着替えに行ってしまった。残されたレイとユイの父親。


「お、お邪魔します。おとうさん」

「……まだ君にと呼ばれるのは早いんじゃないかな?」

「えっ、はい、おじさん……」

「うむ」


 一瞬空気に緊張が走った。さすが五大武家の現当主だ。気迫が違う。


「君はまだ父親とうまくいっていないのか……」

「はい。クソ親父もボクに構っている暇なさそうなので、今は離れた方がよいかと」

「クソってお前……そうか……まあゆっくりしていきなさい。ゲンには私から言っておこう」

「はい。ありがとうございます」


 星菱レイは、横田家の遠縁だ。横田ハジメもレイを小さい頃から知っていて、星菱家の事情もよく知っていた。レイの父親星菱ゲンとも友人らしい。娘に甘いハジメだがレイにもそれなりの気を使ってくれる。


 女中さんに案内され、離れに移動。横田家に泊まるときは、いつも離れを使用しており慣れた畳の部屋で大の字に転がった。


 移動では感じなかった疲れがどっと押し寄せる。


「師範居るかな……」

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