Part-C
人類が、まだ太陽系内でのみ活動していた頃の話だ。
太陽系第7惑星天王星軌道上付近にスペースコロニーがあった。
コロニーと言っても規模は小さく大体30名程が暮らしている。殆どが研究者で一般的な移民ではなく太陽系の外の状況を観測したり研究したりするための施設だ。
その研究所で二人の研究員の間に子供ができた。
それ自体は歓迎されたが、ここで出産となると色々問題がある。宇宙空間では宇宙放射線被曝が心配だ。大人でも被爆量が決まっており、ある程度の期間を過ぎると大気で防護された惑星に戻る必要がある。出産直後の赤ん坊にどの程度の影響があるか分からない。
このコロニーでは構造物である程度の宇宙放射線防護機能があるが、子供への影響がどうなるか分からなかった。ただ今から地球などに戻るには全然時間が足りず、ここで出産するしかない。
しかし、それは杞憂に終わる。生まれた女の子は遺伝子異常起因の病気もせず、標準体重、標準身長ですくすくと育っていった。両親はとりあえず安心したが、育つにつれ別の心配事ができる。身体が丈夫過ぎるのだ。
通常大人は無重力空間で暮らしていると筋力が衰えるため定期的に運動が必要。しかし女の子は無重力状態でも筋力の衰えはなく逆に標準的数値よりも強いくらい。骨密度も変化がなくこれも標準より強い値となった。
健康なのは良いことだが、心配になった両親は地球に数か月かけて帰還し、そこで育て始めた。しかし身体的に強化されている状態は変わらず、同年代の子供と比べ運動能力が高いまま育っている。
このことが宇宙の生活圏での研究しているチームに伝わり、女の子は生活に影響しないレベルで研究対象となった。しかし精密検査でも原因が分からず一旦保留となる。
研究所はサンプルが少ないとして、スペースコロニーで出産するペアを募集するまでした。すると天王星軌道上付近のスペースコロニーで生まれた子供が殆ど、最初の女の子と同じように身体が強化されて育つことが分かった。他のコロニー例えば地球衛星軌道上、火星付近、木星付近では、そのような結果はでない。
この現象を受け、各国はこぞって天王星軌道上付近にスペースコロニーを建築を始め、そこに空前のベビーブームが到来する。生まれた子供は新人類として持て囃された。
各国で研究が続けられ、ときには非人道的なことも行われたらしい。人類が総力を挙げて理由を追求した結果、とある素粒子の存在を仮定。それは19世紀以前の物理学で、光を伝える媒質とされていたエーテルに習って、
エーテリオンは人間の魂より湧き出ていた。古代に魔力、マナ、オーラ、気と呼ばれていたもの。
無から有を生み出す。まさに魔法だ。
エーテリオンは3つの特徴を持っていた。1つは身体強化、2つ目は宇宙放射線からの防護作用、そして3つ目は重力に逆らう動きをすること。どれも驚きに値する特徴だが、身体強化と宇宙放射線からの防護作用は、これからの外宇宙進出に対してかなりのプラスだった。まるでそのために生まれたかのように。
3つ目の重力に逆らう動きとは、例えば地球などの高重力を持つものが空間を歪ませる状態で二次元モデルの平面が凹むが、エーテリオンは凹む空間の歪み方向とは逆方向への力があることが分かった。大量のエーテリオンを解放すると、まるで三次元空間から飛び出すような動きを見せる。
さらに研究が進んだ結果、エーテリオンの性質を利用した
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『かが』は、何度目かの次元弾道跳躍で、本州と呼ばれる星系圏に到達。
本州は、こと座デルタ星団付近にあり、正式にはヤマト州という。
大八洲皇国(United Empire of Great Yamato and Seven states)は、その名の通り八つの州(星系)で構成されている。
人口は12億人。銀河国家群で、地球自由連邦(Earth Liberty Federation)の50億人、汎ペルセウス帝国(Pan-Perseus Empire)の20億人に続いて第三位。国民総生産も第三位という巨大国家で、八つの州の君主が
『かが』の目の前には、直径60kmの巨大な球状宇宙ステーション『沖ノ鳥ベース』が浮かんでいる。沖ノ鳥ベースは軍事基地であり軍民共有の港でもある本州の玄関口。そして『かが』の所属する第04護衛隊の母港でもあった。
長期の練習航海と実戦を行って来た『かが』は一旦ドック入りして検査・修理を行う必要がある。また年明けに行われる観艦式に参加するための化粧直しも必要だ。
と、いうことで1週間ほど艦を開ける必要があり、一部乗員以外には休暇が言い渡される。
当然第401人型機動戦闘飛行隊パイロットの少年少女も休暇となり、実家に帰るもの、親戚友達の所にいくもの、特に予定なく隊員宿舎で休むものなどがいた。
「ええー!?レイ実家帰らないの?」
「うん。どうせクソ親父の挨拶周りに付き合わされるだけだから。宿舎で寝正月するよ」
今日は地球標準歴で12月27日。皇国でもそれに習う。つまり年末年始を挟む休暇となっている。皇国では年末年始のイベントが多く、特に年始三が日は国をあげての祝賀となる。
星菱レイの父親は星菱重工の社長であり、レイはいわゆる御曹司ではある。しかし幼い頃に母親が亡くなると、父親との距離を取って反対された軍人への道を進んでしまう。
そういう事情を知っているユイは深く突っ込むことはしない。ただ別の提案をした。
「あ!じゃあウチにくる?お父さんも歓迎すると思うわよ」
「えー……」
横田ユイの実家は五大武家の一つで、とても大きな家だ。本州に本家があり広い敷地に巨大なお屋敷がある。
皇国では、国民は帝の元、皆平等とされているが、実際は血筋を重視した体制になっており武家や術家のように、有能な武官、術官を輩出する家が繁栄していた。
「いいじゃない。おじい様も会いたがってたし」
「師範か……会いたいな……」
「はい決まり!じゃあ連絡しておくね!」
「え?」
ユイは、こうと決めたら一直線だ。あれよあれよという間に全てが決まっていた。
レイはいつの間にか機上の人に。
『皆さま、今日もヤマト航空350便、ヤマト州第四惑星カントウ行をご利用くださいましてありがとうございます。まもなく出発いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください。ハネダ空港までの飛行時間は3時間30分を予定しております。ご利用の際は、お気軽に乗務員に声をおかけください。それでは、ごゆっくりおくつろぎください』
「どうしてこうなった……」
乗務員のアナウンスを聞きながら頭を抱えるレイだった。
続く
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