第二話 帰還

Part-A

 人型搭載護衛艦DDH-5184『かが』艦内にある第二食堂で、赤毛の少年星菱レイは遅めの夕食を取っていた。


 メニューは焼き魚定食。長期の航行でも新鮮な魚料理を食べられるのは冷凍技術が発達したお陰だ。これまでの技術蓄積に感謝。


 レイは器用に箸を使い、魚の背骨を綺麗に取る。その出来に満足していると背後から声を掛けられた。


「よう、ゼロ」


 声を掛けてきたのは、同僚であり第401人型機動戦闘飛行隊第二中隊所属の三沢ゴウガ3等武尉。レイと同い年15歳の栗色の髪をした少年だ。


「ボクをゼロと呼ぶな」


 しかしレイは振り向きもせず即座に否定した。魚の身をほぐし食べ続ける。


「ああ?今回の実戦も撃墜ゼロだったろうが。訓練でも殆ど撃墜記録なしのゼロだろう?いくらウィングマンだとしても、おかしいじゃねーか。だからお前はゼロだ」

「ボクをゼロと呼ぶな」


 また即座に冷静に否定する。


 ゴウガは漢字だと零となるレイの名前を揶揄してゼロと言いたかったが、レイは頑なに拒絶した。


「ふん!じゃあ、あれだ!金魚のフンだ!横田と一緒じゃないと何もできないくせに!」

「金魚のフン?」

「そうだ!いやだろ!」

「いやそれは別に」

「いいのかよ!」


 レイは本当にどうでもいいように食事を続ける。ゴウガは思わず片手でツッコミを入れた。


 そこに少女が割り込んでくる。


「誰が金魚よ!」


 その少女は腰に手を当て怒りの表情を浮かべていた。


「げ!横田!」


 ゴウガはしまったという顔をする。話題に出した少女に聞かれてしまうとは。


 少女横田ユイは青い目をした誰もが認める美少女だ。スタイルも皇国民としてはメリハリがあり白いセーラー服でも隠し切れない。長く輝くような金髪を青く細いリボンで結わえポニーテイルにしているが、それでも腰辺りまで伸びている。


 そんな美少女に怒りの顔をされると迫力が違う。そして何より第一中隊隊長であり階級も上。


「レイに文句があるならアタシが相手になるわよ」

「いえ!横田2等武尉に対してなにかあるわけでは!」


 思わず直立不動で敬礼をしてしまうゴウガ。しかし彼はさらに恐怖の対象を見つけた。


「ゴーーーガーーー?何レイ君に絡んでるのかなー?」


 二人目の少女がさらに割り込んで来た。


「げげ!姉さん!!」


 ゴウガと同じ髪色の少女は、三沢ゴウガの双子の姉、三沢ナユ2等武尉。


 彼女も栗色のショートヘアの美少女でユイと同じく白いセーラー服に身を包んでいる。ちなみに男子は白い詰襟だ。金ボタンではなくファスナーだが。

 なんでセーラー服と詰襟なのかは皇国の伝統としか言えない。


「レイ君をいじめようとするとは情けない。三沢家としてもそんな子に育てた覚えはないわよ」


 ゴウガは思わず『姉さんに育てられた覚えはない』とか言いそうになったが自重した。


「そんなつもりはないです!姉さん!」

「ほーお?」


 ゴウガが二人の少女に挟まれて脂汗を掻いていると、警報と共に艦内放送が流れる。


『これより第3次次元弾道跳躍Dimension Ballistic Leapを開始します。各自所定の位置についてください』


 艦内放送を契機に周りの乗員は慌ただしく動きだす。


「ご馳走様でした」


 レイは周りのことは何もなかったように手を合わせ食器を片し始める。ゴウガ、ユイ、ナユも硬直状態から立ち直る。


「あら、もうそんな時間?ナユ部屋に戻るわよ」

「分ったわユイ」

「た、たすかった……」

「後でオシオキね?ゴウガ」

「はい姉さん……」


 4人の少年少女はそれぞれに宛がわれた個室に向かう。


 飛行科のパイロットは自室で待機となっている。個室とはいえかなり狭い。ベットと作業机でいっぱいだ。そこで寝るか椅子に座って待機する。


 各自待機場所で、超光速航法の次元弾道跳躍Dimension Ballistic Leap開始を待つ。

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