Part-C

 第401人型機動戦闘飛行隊第一中隊の隊長であり、第一小隊の隊長でもあるコールサイン『ブルーリボン01』の少女横田ユイ2等武尉は、先行して中隊全機が集合するのを待っていた。


 コックピットは座席と2本の操縦桿以外の装置はない。実はこのコックピットは、仮想空間で座席も自分の体も仮想の物体だ。

 自分が乗ったときと同じ服装、パイロットスーツを着ている。


 パイロットスーツは、宇宙服にもなる体にフィットしたスーツ。そして実際の体は操魂球Cockpit Sphereと呼ばれる直径3mの赤い球体の中。操魂球はHFの胸の中心近く、人間でいうと心臓の位置にある。

 操魂球にパイロットの体を溶け込むようにさせて搭乗する。中は異空間でHFの強烈な加速でも生身への影響はない。



 ユイが仮想空間で味方中隊の位置などを確認していると、コールサイン『ホワイトアイ』の人型早期警戒機から通信が入る。


『ブルーリボン01。こちらホワイトアイ。敵HFを捕らえた。数は9機』

「ホワイトアイ。こちらブルーリボン01。敵機了解」


 彼女からの情報は、事前に伝えられた『そうりゅう』からの情報と一致している。『そうりゅう』の乗員は、巫術に優れた十代の少女で構成されているそうだ。自分の年よりも若い娘もいるらしい。さすが通称巫女艦。

 現在、敵側には欺瞞情報が流されているはずだ。


『敵機は3グループに分かれている。アルファGr、ブラボーGr、チャーリーGrと呼称。位置と方位、速度は霊網術Aether Networkで共有』

「ブルーリボン01。了解」

『じゃあ、がんばってね』

「ありがと。交信終わり」


 人型早期警戒機の少女横須賀リン2等術尉とは士官学校からの友達だ。術官として、すごく優秀であり、いきなり早期警戒機パイロットに抜擢されるほど。


 リンからの情報を元に、敵HFを各小隊にターゲット割り当てを決める。


 そうしていると、味方HFが一機接近してきた。ユイの僚機、コールサイン『ブルーリボン02』だ。すばやく編隊位置に着く。


「02。こちら01。状況はどう?」

『こちら02。問題ない』


 幼馴染であるパイロットの少年星菱レイから、そっけない返事が返ってくる。


「初の実戦よ。緊張してない?」

『初の実戦はそっちも同じだろ。交信終わり』


 一方的に切られた。


 まあ信頼している僚機なので心配はしていない。こちらも初の実戦なのはその通り。軽口で自分の緊張を和らげようとしていたこともバレてそうだ。


 秘匿個通だったが、ちょっと軽率だったか。でも多少は緊張が解れた。



 しばらくして、中隊全機が所定位置に着いた。16機のHFで編隊を組む。


「中隊全機。こちらブルーリボン01。戦術情報リンクから把握していると思います。第一小隊が、アルファGr。第二小隊が、ブラボーGr。第三小隊がチャーリーGr。第四小隊は全体のバックアップ。小隊長は隊員へ個別割り当てを行うこと」


 各小隊長から了解の返答がある。ユイは深呼吸して宣言した。


「これは訓練ではなく、初の実戦になります。でもやることは、これまでの訓練と変わらないわ!各自健闘されたし!以上!ブレイク!」


 中隊は各小隊に分かれて編隊を解き該当空域に分かれていく。


 光速の70%で進むHFは、青い燐光の尾を引いて、まるで彗星のようだ。


 16本の彗星の尾が散らばる。


 第一小隊の担当はアルファGrで、3機の敵HFが真っ直ぐこちらに向かっている。


「03。こちら01。アルファ1は、こちらで。アルファ2をお願い。先に撃墜した方が、アルファ3へ」

『03、了解!』


 第一小隊のメンバー『ブルーリボン03』のパイロット海田ガイから元気な返事がくる。僚機は『ブルーリボン04』の信太山ケイ。


 短髪茶髪の元気少年ガイと、黒髪おさげの大人しめの少女ケイは、一見ちぐはぐなようだが、いざ戦闘となれば完璧な連携を見せるので頼もしい。


 あちらも幼馴染同士なのは偶然だが。



 敵HFとの接触まで後90秒。向こうは速度変化なし。3機編隊で先頭の1機アルファ1が少し突出している。


 こちら4機に対しても真っ直ぐ向かってくるのは、霊電子戦の欺瞞情報で少なく見えているのか。それとも舐めてるのか。


 ブリーフィングで海賊と説明があったためか、なんとなくヒャッハーって声が聞こえる気がする。


「ブルーリボン01。エンゲージ!」

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