Part-B

「よーし!5番エレベータ上げろー!!」


 整備班長の声が響き渡り、巨大なエレベータが動作する。格納庫は、ハチの巣を突いたような大騒ぎだ。

 いきなりHF1個中隊16機を一気に発艦させる作業となった。もちろん当初の訓練ではなく実戦として。


 整備班はベテランばかりだが、少数とはいえ来たばかりの新人もいる。


「班長!HFの周りで変な光が!」

「どうした」


 甲板に上がったHFを映像で確認していた新人整備員が、驚いて班長に声を掛けた。

 HFの周囲にキラキラした光の粒が見える。外は真空なので空気の屈折などではない。


「ああ、これか。アイドリング状態で彗燐光すいりんこうが見えるとはさすが零式だな」

「彗燐光?」


 HFを中心に球形状の燐光が見える。小さな粒子が発光してはすぐ消えるを繰り返していた。


「他国ではブルーウィスプともいうらしいが、霊力場Aether Force Fieldとの境で霊子が光子へ相転移するときに一瞬だけ観測できるやつだ。本来であればHFが亜光速くらいで鮮明になるんだが、零式は出力が大きいから、この状態でも見えるんだな」

「へー」


「ほら関心してないで次の準備だ」

「はい!」


 エレベータで上がったHFと呼ばれる人型兵器は、片膝立の状態から立ち上がり飛行甲板へ一歩踏み出す。立つと40mもの高さがあった。


 人の形としては若干細身で、男性とも女性とも見える中性的な体形。金属の装甲板で身を包み、頭は鎧兜に似た装甲を纏う。顔は目だけが見える仮面を被り、口や鼻は見えない。

 両肩には小さ目の四角盾、太古の鎧武者の大袖おおそでに似た装甲板が付いていた。


 皇国のHFは伝統的に古代の鎧武者のような形をしているが、零式は洗練された形状で全体的にスリムな印象だ。



 飛行甲板の所定位置に着いたコールサイン『ブルーリボン02』の少年パイロット星菱レイは、コックピットで球状モニタ全面に表示されている情報を確認し、発艦準備の最終確認をしていた。初陣だが訓練で何度も行っている。その動作はスムーズだ。


 HFの腕や手の指が正常に動くか試す。HFの操作は自分の体を動かすように思考するだけで違和感なく動作する。



 『かが』全体の艦形としては六角柱に似ている。この時代でも使用されている鉛筆の形が近いだろう。全長約800mの鉛筆だ。


 艦橋のある甲板には主砲、副砲などの兵装が並んでおり、隣の面は飛行甲板、次の面はまた兵装甲板、飛行甲板と並んでいる。兵装甲板、飛行甲板は交互に3つづつあり、そのうちの飛行甲板一つからHFが発艦しようとしていた。


『ブルーリボン02。こちらレインボータワー。進路クリア。飛行甲板2番からの発艦を許可する』

「レインボータワー。こちらブルーリボン02。了解。発艦します」


 管制室から発艦許可が出るが、カタパルトを使用しての発艦タイミングはこちらに任されている。


 全通飛行甲板の前方を確認し、前傾姿勢でミリタリーパワーに出力を上げた。


 そのタイミングで、飛行甲板上に加速霊符と呼ばれる赤く光る円環がいくつも浮かび上がる。


 霊符とは空間に表示される幾何学模様の集まり、いわゆる魔法陣。加速霊符は円環状に浮かび上がり、HFの前方に十数個並んでトンネルを作っていた。円環一つ一つをくぐるときに、物質に対して運動エネルギーを付与。一気に加速させるのが加速霊符だ。


 円環が高速回転し加速霊符による強烈な前向きの力が掛かり始めた。飛び出さない様にHFの足を踏ん張る。


「ブルーリボン02。発艦」


 限界まで来たところで足の力を抜くと、霊符の連なるトンネルをくぐり、艦首方向に射出された。速度は一気に光速の50%まで上がり発艦する。


 発艦方向に赤方偏移した光が一瞬だけ輝く。

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