第29話 照れ隠しはおやめください
「そういえばライト様、お金の方はどうされていたんですか?」
唐突にプレラ様が聞いてきた。
案外、話題の転換が激しい方だ。
食に関してはそこまで疑っていないというのに。
「今は貯蓄でなんとかしていますよ。もっとも、そんなにお金のかかる生活はしてな、やめてください。それが理由で雑草を食べてた部分は少ししかありませんから落ち着いてください!」
「それが理由で食べてたんじゃないですか!」
「やめてくださいプレラ様。おやめください!」
普段は冷静なプレラ様が僕の現状を憂いて、とんでもない暴挙に出ようとしていたので、僕は慌ててそのお体を止めた。
収入がないから雑草を食べていた節はあるが、とはいえそれが全てじゃない。
ただ、これからインバ・モスの調査や王都へ帰る算段をつけるためにはお金の問題が絡んでくることだろう。
「これまでは貯蓄でなんとかなったかもしれませんが、これから先もそれでいいということはないでしょう?」
「それは、その通りです」
「では、冒険者らしく依頼を解決してみてはいかがです? わたくしの依頼でお金を差し上げてもよいのですが、わたくしもそこまで多くのお金をもらって出てきたわけではないので」
「いや、流石にそんなダメ人間みたいなことはしませんよ。しませんって」
じっとりとした視線をぶつけられ、僕は思わずその視線から逃げるように目線をそらした。
雑草食べて食いつないでいたから、相当なダメ人間評価を受けてしまったようだ。
仕方ないと思う部分もあるが、ちょっとショック。いや、かなりショックだ。
って、こんなところでダメージを受けている場合じゃない。
「えっと。そもそもの勘違いとして、あの冒険者って発言は方便であって職業の名前じゃないんですよ。お話ししませんでした?」
「だとしても、問題を解決してお代をもらうこと自体は悪い考えじゃないと思いますよ?」
「ええ。普通の戦士や魔法使いならそれでもいいかもしれませんね。ただ、僕は戦闘職じゃないんです。それに、商人でもありませんから、物売りにも向いていないんですよ」
「そのように言っていますが、大量の倒れた魔物が隣の小屋に並べられていたのですが……」
「あっ……」
そうか。そういえば料理用の食材も第二棟である倉庫で管理されていたのだったか。
となると、あのヤギの群れを見られたというわけだ。見られたものは仕方ないけど、どう言ったものか……。
「あれはですね。僕の実績です」
もうそういうことにした。
「そうでしょう?」
「はい。もちろん僕にも応用できる技術はありますとも。それにこの森です。村の人たちに危害を加えずに依頼を受けることも考えています」
「考えているんじゃないですか。それならそうと言ってくださいよ。まるで、廃案のような調子で語られては困ります」
「あはは。すいません」
とはいえ、今のところはノルンちゃんやそのご両親との間で話があるだけである。それも、ボランティアのようなものだ。お金をいただける話ではない。
「結局のところ、現在進行形でお金になっているのは薬草採取と簡単なお手伝いです」
「はじめの一歩としては十分なのでは?」
「そう思うことにしています」
「現在進行形でお金になっていないものもありそうな物言いでしたが」
「ええ。後は気休め程度の精神魔法で治癒することとポーションの販売ってところですね。ただこの二つは、この辺りじゃあまりほしいという人がいないので、看板を出しているだけになってます」
「この際、わたくしがパトロンになってお金の管理はわたくしの仕事にしてしまいましょうか?」
先ほどまでの食事で、生活に関しての信用がガタ落ちになっているのを感じる。
「あの。何か勘違いされているかもしれませんが、今までほとんどお金を使っていないので、蓄えだけはある程度残っているんですよ。稼げていないだけですから、そこまで切羽詰まってないですから」
「ですけど、稼げていないということは、これからお金は減るだけということでしょう?」
「う……」
「でしたら、このままでいいというわけにはいかないじゃないですか。何かしらの収入がないと、思考も鈍るでしょうし」
「まあ、不安は不安ですけど……」
返す言葉もなかった。
とはいえ、研究に特化できると浮き足だっていたため、見通しが甘かったのも事実。
こうして実際に森へ放り出されてみると、考えてもみなかった問題に苛まれまくっている。
「僕個人としては全力が出せれば、とか考えていたんですけどね」
「お姉ちゃん、ここまででも魔法の力セーブしてたの?」
「そりゃそうだよ。だって僕の力って精神系魔法だけど、影響範囲は肉体にも……」
「……?」
テーブルに上半身を伸ばした少女が不思議そうに首をかしげる。僕のことを見上げてきているのは、いつの間にやってきていたノルンちゃんだった。
「遊びに来たよ。お師匠様」
「取り直しても同じだよ。ノルンちゃん、また来たの?」
「ダメ?」
困ったようにうるうるとした目で言われては簡単に否定もできない。
「ダメじゃないけど、よく来るなと思ってさ」
「暇だからね」
「子どもは忙しいと思うけど……」
ただ、実際仕事をする年齢になるまでは特にやることがないのも事実だろう。
もしくはノルンちゃん、嫌で逃げ出しているのをごまかしているだけかもしれないが。
「まあいいや、それでノルンちゃん。僕が力をセーブしていることが何か気になるの?」
「気になるよ。だってお姉ちゃんの力、色々とすごいもん。伝説の魔法使いみたいだもん。それでもまだまだ何かあるなら、もう伝説越えだもんね」
「そうですよ。ライト様は生ける伝説ですから」
「何を教えているんですかプレラ様は」
ノルンちゃんと村を守るオオカミのガルラじゃないが、プレラ様とノルンちゃんも仲がいい。これはもしかしたら、プレラ様の人心掌握術だけじゃなく、ノルンちゃんの人と打ち解ける能力なのかもしれない。
そんなバカな思考を頭を振って追い払い、思考を現実へと引き戻す。
「それでも、たとえ力を解放したとして、実際は使う先がないんだよ」
「遠出もすればライト様のお力に見合うような相手はいますよ?」
「そういうことは勇者の仕事でしょう? 悪事を働く魔王の討伐なんて、僕には出過ぎた真似ですよ」
「そうでしょうか? そこで認められれば国にも戻れますし一石二鳥な気がしますが」
「東方の魔王にそんな悪い魔王残ってましたっけ?」
「お詳しいですね。今はもう和平を結んだ国しか残っていないはずですよ。ですから、遠出になります」
「移動費がかかるじゃないですか」
何をするにも金金金か。
こんなことなら、さっさと金策を第一に考えておくべきだった。仕事があるって案外素晴らしいことだったんだなあ。としみじみ思い知らされる。
「魔王は知らないけど、でも、いくつかうわさならあったはずだよ」
「へーうわさ」
「うん。魔物とか何とか色々言ってたよ」
「え、どんな! 詳しく教えて!」
僕の食いつきに、ノルンちゃんは子どもらしいきょとんとした表情を浮かべてから、にっこりと年相応に笑った。
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