第14話 安易に助けるから……
「これからは気をつけるから弟子にして」
「いや、それとこれとは話しが違うって」
「でも、危険な時はお姉ちゃんが助けてくれるでしょ?」
「間に合えばだからね?」
「なら、間に合うように弟子にしてよ」
好きなことを言ってくれるノルンちゃん。そんな彼女を御しながら小屋まで戻ると、倒れた彼女のご両親を見かけたようで、
「パパ! ママ!」
と僕の手を引いたまま二人に向かって駆け出した。なぜ僕の手を離さない?
少し混乱しつつも、かけていた魔法を解除する。それによって、二人がのそのそと起き出した。
その後、簡易的に自体の説明を済ませるなり、
「大変申し訳ございませんでした! どうか、ご無礼をお許しください!」
「本当にありがとうございました。このお詫びは後日させていただきますので!」
とかなんとか、これまでの非礼を詫びてきたので、
「全然気にしてませんよ。いいんです。当然のことをしたまでですから。あの、落ち着いてください。いや、本当に気にしてませんから!」
と、大人の対応? をしておいた。
結局、何度も何度も謝ってくるノルンちゃんのご両親を説得することに骨が折れた。どうやら、一度こうと決めたらなかなか考えを変えないタイプの人らしい。
それから、ノルンちゃんを村まで送り届けてもらい、そこで今回の一件は無事解決となった。
なんだか越してきてからも、色々な人に絡まれるせいで、好きなように実験したり、まともに実力を試したりということができていない。
「はあーあ。見知らぬ子どもなんて、ほっとけばいいものをな……」
それができたら苦労しない。
世話好きなところは魔法局時代から変わっていないのかもしれないな。
と、それが昨日の話。
今日は、今日こそは半日無為に過ごすようなことはしなかった。朝から実験をしようと、軽めの朝食を済ませて小屋を出た。そこまではよかった。そこまでだった
小屋を出ると、あっという感じで、なんだか驚いたような顔をしたノルンちゃんが立っていた。
「き、奇遇だねお姉ちゃん。今からお出かけ?」
小首をかしげながらそう聞いてきたノルンちゃんは、なんだか少しいつもと雰囲気が違うような気がした。
どことなく、これまで見てきた元気なノルンちゃんとは別人の感がある。
髪型も髪色も顔立ちも、ノルンちゃんを構成する要素は変わっていないのはずなのだが……。
「ノルンちゃん、どうしたのその服」
「あ、ふふ。気づいちゃった?」
なんだか嬉しそうに、くるくるっとその場で回ってくれたノルンちゃん。まるで僕に着ている服を見せるような動きをしてから、えへへと僕に対してはにかんだ。
「どう? どう?」
「どう?」
うーむ。どうと聞かれるとどうだろうか。
なんだか少し上質そうな布を使っているように見える。
衣服一つで印象が変わるとは思っていなかったが、なるほど、どうやら新しいものに変えてもらったらしい。
そういえば、僕も姫様から色々ともらっていたものの、結局未だ身につけていない服が多数ある。これまで使っていたものを大雑把にリメイクしたものでどうにかしてしまっていたから気づかなかったが、ふむ、考えを改めるべきか。
「昨日の一件でちょっとボロボロになっちゃってたもんね。新しいのにしてもらったんだ!」
「違うよ!」
「違うの?」
「違くないけど、でも、違うの! これはそういうのじゃないの!」
ぷくーっと頬をふくらませて、なんだか不服そうに僕のことをにらみつけてくるノルンちゃん。
どうやら怒ると人をにらむのは家系のようだ。似るものだなあ。
などと感心していると、今度は胸をそらしてノルンちゃんはポーズを取るようにした。
「ん!」
「似合ってるよ?」
「ううううう! 嬉しいけどそうじゃないの!」
どうしてわからないの! と悔しそうに地団駄を踏んでいる。せっかくのキレイな服装が台無しだが、原因は僕にあるのだろう。いかんせん察しが悪いらしい。
ただ、ノルンちゃんを探す時じゃないが、わざわざ新しい服を着る理由など僕に見つけられるはずもない。
昨日の今日で変わったことなど……昨日のアレか? たしかに、ノルンちゃんを連れ戻してからは丁寧な対応に変わっていたけど……。
「もしかして、僕のところに来るから、わざわざおしゃれしてきてくれたってこと?」
「……そうなの!」
急に叫ぶと、ノルンちゃんはしおらしくなった。
「……ほんとは、ママから夜まで動かさないようにって言われてるのと、その後の楽しみな予定もあるからだけど……」
何やらぶつぶつ言っているが、つまりは僕のところへ来るだけのことに、わざわざ正装してくれたということだろうか。
「嬉しいけど、ここはそんな大層なところじゃないことは知っての通りだよ?」
「そんなことないもん! お姉ちゃんのところは特別だから、いつものカッコじゃ失礼だって言ってたの!」
「言ってたの、って誰が?」
「……と、とにかく!」
ノルンちゃんらしくもなく、まるで何かを誤魔化すように、彼女は大きな声を出した。
そして、エスコートでもするように彼女は僕の手を取って第三の建物、軽くしか見せなかった実験用の施設を指差す。
「あの中を案内してほしいな」
甘えるようにねだられた。
何を隠しているかは知らないが、全く、この子には敵わないな。
「いいよ」
「やったー!」
僕は観念して、その建物の中を案内した。
多く並んだガラス類。雑多に処理した草の数々。効果を確認したいと思っているポーションもどき。
危ないものには触らせず、どれが何なのかを懇切丁寧に説明した。
「とまあ、ここは実験する場所なんだよ」
「実験なの?」
不思議そうな表情で僕にそう聞き返してきた。
「じゃあ、お姉ちゃんは魔法をどうやって練習してるの?」
「ああ、それもそうか。知りたかったのはその部分ね」
「うん! お姉ちゃんの弟子だから」
「弟子、かどうかは置いておいて。僕の魔法は基本的に対象がいて使うものだからね。草に対して使って、効果の推測をしたりとか、魔物に対して使った後でポーションの効果を確かめたりとかかな」
「なんだか思ってたのと違うね」
「でしょ? 僕はね。そんなしょぼめの魔法使いなんだよ」
ふっと笑いながら言うと、ぶんぶんとノルンちゃんはその首を左右に振る。
「そんなことないよ。そんなことない! わたしのことだって助けてくれたし、冷静じゃなかった人たちを冷静にするだけで済ませてくれたもん」
「ノルンちゃん?」
嬉しいことを言ってくれるけど、やはり今日は今朝から様子がおかしいような気がする。
何がおかしいのか、付き合いが短くてわからないが。
「もう、いいかな? もういいよね」
我慢できないといった様子で、ノルンちゃんはソワソワしたように部屋を見回した後、僕のことをまっすぐに見据えた。
「どうしたの?」
「あ、あのね」
なんだか言いにくそうに口ごもりながら、彼女は続ける。
「村でお姉ちゃんを歓迎することになったの。だから、わたしが連れてくるようにって言われてたんだ。お姉ちゃんは、来てくれるよね……?」
不安そうに、不確かそうに彼女はおずおずと僕の顔をのぞき込んできた。
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