第13話 捜索と救出
さて、ノルンちゃんを探すことになったが、ここまで色々と魔法を雑に使ってきたけども、ノルンちゃんの魔力がわかるほど僕は魔力探知に優れていないことは露見していたはずだ。
とはいえ、ノルンちゃんに害を加えようとする敵に対して、都合よく精神系魔法で撃退できるほど、僕の魔法は便利じゃない。そんな闇雲な力の使い方はできない。
そもそも、いじめっ子やご両親へ取った対処は、本来的にはあまり褒められたやり方じゃないからな。
「ただまあ、子どもの足だ。今の僕よりも小さいのだし、そう遠くまではいけないはず」
ご両親の言葉を信じるならば、今朝までは村にいたのだろうから、半日かけて移動できるような場所ということだろうか。
いや、ノルンちゃんはこの辺に慣れているような言い方をしていたか。とすると、僕が半日で行ける範囲よりも広いと考えた方がよさそうだ。
そこまで考えて僕は頭に手をやった。
「ほぼ手がかりなし。手分けができればいいんだけど……」
何せ僕には信用がない。人の力を頼れる状況にないってこと。
なら、今あるものでどうにかするしかないだろう。
思い返せ。ノルンちゃんは何かヒントを残していなかったか。
ヒント。置き手紙、のようなものはなかった。遊ぶ約束はしたものの、また僕の小屋まで来てくれるという話だったし……。
「どんな子かなんて……いや」
そうだ。彼女の欲求。魔法への好奇心。それはずっと見せてくれていた。
あの母親だって言っていたじゃないか。弟子になりたいと口にしていたと。
それはつまり、僕のことをペテンや詐欺師と言っていたが、何かができるということは実感していたからこそ僕に矛先が向いたということなのだろう。
「でも、それだけじゃわからないよな」
ヒントではあるが、あくまでヒント。答えに結びつけるには情報、選択肢が多すぎる。
できることならもっと絞りたい。
「魔法の練習? いや、僕は教えていない。幻覚? ノルンちゃんは見えていなかった。草か? いったいどうして。だとしたら」
だとしたら、残されているのはやはり、印象的なもの。
使い魔、か?
これだって不確定だ。だが、人ひとりの気配よりは断然探知しやすくなる。
僕はそこで、可能な限り広範囲に魔力探知を適用する。
ざわざわと草木が揺れるが多少のプレッシャーには我慢してもらおう。
人の命には変えられない。
「見つけた」
多分、アレの近くにいるのがノルンちゃんだ。
「しかしどうして……」
いや、考えるのは後だ。
僕は頭を振って駆け出した。多少は慣れてきた森を走る。
魔力探知の反応を信じ、一点がけの大博打。
おそらく、僕に疑いを向けなければ村の人たちは簡単に見つけられたことだろう。
だが、見つけたのが僕でよかった。
そうでなければ、犠牲はおそらく一人じゃ済まなかった。
「……え、なんで。なんで動けないの……立てない……何で、なんでなんでなんで?」
四つん這いの姿勢になりながら、ボソボソと声を漏らす少女。
服がほつれており、その様子から冒険していたことがわかる。ツインテールで茶髪の女の子。
「立て!」
僕の言葉に少女は地面に伏せた。
「え、あれ?」
不思議そうにする少女、その上空、先ほどまで彼女の体があった空間を魔物がものすごいスピードで通過した。
僕はそれを見てから魔物とノルンちゃんの間に割って入る。
「インバ・モス……」
言葉を発さない、まるで目のような特徴的な模様の羽を持つ大きな蛾のような魔物。インバ・モス。
そいつが僕のことを警戒するように様子をうかがってきていた。
「彼女に手を出して、タダで済むと思うなよ?」
僕の言葉に羽を広げた魔物は、ドサリとその場で地面に落ちた。
それと対になるように、ノルンちゃんは体を起こす。
「あ、あれ? なんとも、ない……?」
「反射したんだよ。使ってきた魔法をね。だからノルンちゃんにかかっていた魔法も解除された」
「ど、どういうこと?」
「あの蛾は人に魔法をかけるタイプの魔物なんだよ。意思の通りに動けなくなる魔法。だから、ノルンちゃんは僕が『立て』と言った時、正反対に動いちゃったでしょ?」
「あ。うん。気づいたらその場に伏せてた」
「そういうこと。あの魔物はそんな正反対な動きをさせる魔法を使うんだ」
それだけじゃない。インバ・モスはこんなところにいるはずのない魔物だ。生息域は王都西方。東方にいるわけがない。かつてあった僕の村とともに、養殖されていたインバ・モスは死んだはずなんだから。
本来なら、調査のため生きたまま持ち帰る必要があるのだろうが、今はそんなことをできる場面でもない。
地面でびくびくと痙攣したような蛾。怒りに任せて朽ち果てさせたいところだが、それではノルンちゃんも巻き込みかねない。
「ノルンちゃん。ちょっとあっちを向いててくれるかな」
「うん?」
彼女が目をそらし、目をつぶったのを見てから、僕は小物入れに入っていた短剣を取り出して、インバ・モスに突き立てた。
インバ・モスのその体が形を一つも残さずに姿を消した。
「ふう……」
「お姉ちゃん!」
すかさず飛びついてくるノルンちゃんを受け止めつつ、僕はその額を軽く叩いた。
「あう」
「無茶しちゃダメだよ。どうしてこんなところに来たのか知らないけどさ。僕が来てなかったら危なかったんだからね」
「……ごめんなさい。でも、めずらしい魔物がいたから、お姉ちゃんに教えてあげたくって」
額を押さえつつ涙目で見上げられては、もう何も言えまい。
「いいよ。大丈夫。心配しただけだからさ。ノルンちゃんはなんともない?」
「うん! お姉ちゃんのおかげで元気だよ!」
「それはよかった。さ、早く帰ろう」
「ありがとう!」
パアッと顔を輝かせるノルンちゃんの頭を撫でてから、僕は手を差し出した。すると彼女は、その手を握り帰してくれる。
魔物からは何も回収できなかったな。
一体どうしてこんなところに……。
そんなことより、ノルンちゃんを家に帰してあげるのが先決か。
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