第3話 毎日の習慣

 黒猫が庭に住み着くようになってから我が家には習慣ができた。1つ目は、誰かが黒猫に餌をあげる事。猫用のチュールではなくちゃんとした食事或いは実家で食べきれなかった食事を再利用して与える事。2つ目は…これは私と兄だけだが、黒猫に構う事。

猫じゃらしなどで遊んでみようと思い、そういうおもちゃなどを購入してみたが、それよりも早く撫でろ、膝に乗せろ欲がすごく強い為、犬猫用の毛が付きにくいズボンを新たに一着買った。ツルツルしていて上りずらそうだっだが、あの猫は結構な年寄りのはずなのに、平気で人の肩にまで登ろうとする。薄着だと、腕部分が痛かった…。一応動物病院でワクチンを接種したりはしていたので病気がない事はわかっていたが、それでも爪が伸びていて痛かった。

一度決心して、膝にのせてから爪切りをしてみた。驚いたことに、実家の犬よりも爪切りに抵抗を見せず、あくびをしていた…猫の欠伸もストレスから来るものだろうとは思っているが、とても人を信頼していた。爪を切り終わると、撫でろと言わんばかりに頭を胸にこすりつけてくるので、あぁ上着洗濯しないとなぁと思いながらよく撫でた。耳の付け根がお気に入りでよく嬉しそうに口を開いており、面白い顔だった。

何というか、銭湯に来て湯船に浸かった人間のような…そんな温かさがあった。

冬も終わり春が来た頃、黒猫とは毎朝実家から5分間くらい一緒に散歩しながら職場に向かった。とてもいい仔で私の歩幅に合わせて歩き、偶に早くなっては振り向く。そういう仔だった。

リードなども何もつけていないのに、人と適度な距離間で歩き、過ごせるこの黒猫はとても賢いと思った。他の人や動物が来たら、距離をとりやり過ごしてから合流する。出勤の通勤時間が楽しくなった理由の一つに黒猫が居た。

 あの黒猫にいい加減名前を付けないとなぁと考えた。私は毎回クロと呼んでいたが、他にも黒猫は居るわけで…でも私が呼んで答えてくれる黒猫は目が金色のあの仔だけだから、これも立派な名前かと再認識し、「ありがとう。クロ今日の食事は魚にするからね」

と猫に対し会話をする。ちゃんとあの仔は返事をしてくれた。鳴き声は無いが…口を開けてにゃあと鳴く仕草をしてくれる。それで満足だった。今思えば、喉の病気だったんじゃないかと、疑わなかった自分を恥じるばかりだが、あの仔はよく食べた。だから痩せてはいなかったし、とても健康的なツヤツヤの毛並みだった。

クロが庭に居ついてから半年。

 庭の段ボール箱の中で黒猫は亡くなった。

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