第38話 お互いの気持ち
彩花と琴音さんが出掛けた翌日。ここ最近はどこかに出掛けることが多かったが、今日は特に予定が入っていない日だ。
時間がたっぷりあることだし、久しぶりに作ったことないスイーツでも作るか。
今思えばスイーツ作りを始めたのは彩花が甘いもの好きで、美味しそうに食べてくれるのを見て作りがいがあると思ったからだ。
料理は一人暮らしするために必要だと思って始めたが、スイーツに関しては彩花がいたからだった。
(タルトでも作ってみるか……)
冷蔵庫に入っているものを確認し、閉めようとすると後ろから抱きつかれた。後ろを振り返るとそこには彩花がいた。
「彩花?」
「たく、好きな人いる?」
「急な恋ばな……どうしたんだ?」
そう言えば彩花と恋愛の話ってあんまりしたことなかったな。いや、こういう話ってそもそも男女でしないか。
「も、もし、たくに好きな人がいたらその人がどういう人か気になるから……」
「……まぁ、いるけど」
「……いるの!?」
照れながら答えた俺に彩花は驚き、なぜだか慌て出した。
「えっ、誰? どういう子? 私が知らない間に仲良くしてた子?」
「お、落ち着けって……」
名前を言う前に彼女のことを見ると彩花は、顔と耳を真っ赤にさせた。
「もっ、もしかして……私?」
「……そ、そうだよ。家族として、幼馴染みとして彩花のこと好きだから」
「! わっ、私もたくのこと大好きだよ」
「知ってる」
「えへへ、両想いだね。これに名前書いちゃう?」
そう言って彩花は1枚の紙を俺に見せた。よく見てみると婚姻届と書かれており、俺は彼女からひょいっとその紙を取り上げた。
「まだ結婚できないから」
「まだってことは結婚できる歳になったらしてくれるの?」
「そういう意味で言ったわけじゃありません」
「む~」
頬を膨らませて俺にぽこぽこと叩いてくるが、あまり痛くはない。
「てかその婚姻届どうしたんだよ」
「これ? お母さんからもらったの。いつか使うだろうからって」
「えっ、琴音さんが……?」
もしかして、あの時、彩花のこと好きですという発言を聞いて琴音さんは近い将来結婚すると思ったのだろうか。だとしても付き合ってもいないのに婚姻届は早くないか?
「婚姻届は置いといて……たくは何作ろうとしてるの?」
「タルトだよ」
「タルト! 私も作りたい! 手伝ってもいい?」
「うん、いいよ」
彩花とタルトの生地を作り、フルーツ乗せて完成すると紅茶と一緒に食べることにした。
ソファへ座ると彼女がいつもより近いことに気付いた。近くに座ることはいつものことなのだが、今日はとても近い。
「彩花、どうかしたのか?」
「たくは……雨咲さんとどういう関係?」
「急な質問だな」
「気になるから……」
奏とは中学が同じでよく話すようになったのは高校からだ。
「奏とは友達だよ」
「……ほんと?」
「うん」
「私とは?」
彩花との関係は何度か考えたことがある。幼馴染みと一言では言い表すのも違うと。
「幼馴染み……後、妹?」
妹と言うと彩花はポコポコと俺の胸を優しく叩いてきた。
「それ、昔お母さんが言ってたやつだよね」
「覚えてたんだ……」
「覚えてるよ。たくがお兄ちゃんで私が妹」
本当の家族ではないが、俺と彩花は小さい頃、家族のように仲が良かった。
(これからも一緒にいたい)
「彩花、伝えたいことがあるんだが、俺は将来、彩花と本当の家族になりたいと思ってる」
「……えっ、それって……」
彩花の肩にそっと手を置き、彼女から少し離れると俺は真っ直ぐと彼女のことを見た。
「彩花のことが好きだ」
幼馴染みとして、家族として好きと伝わったかもしれない。そう思ったその時、彩花は涙を流した。
「彩花?」
「ご、ごめん……嬉しくて。私もたくのこと好き、大好き……ずっとたくの側にいたい」
「うん、俺も」
彩花がもう一度胸に寄りかかったので、体に手を回しぎゅっと優しく抱きしめた。
温かくて安心して、このままこうしていたい。多分、今、一番の幸せを俺は感じている。
「彩花。俺とお付き合いしてくれませんか?」
「! もちろん。これからもよろしくね、たく」
「こちらこそよろしく、彩花」
***
小さい頃。俺の家族と彩花の家族で旅行へ行った。日中は観光し、夜は旅館で大人は大人で楽しそうに話していた。
子供がその場にいても楽しくはないので、俺と彩花、葉月は先に布団へと入っていた。
彩花と葉月は同じ布団へ入り、仲良さそうに話していた。
「ねー、彩花。恋ばなしようよ」
「恋ばな? 葉月ちゃんは恋してるの?」
「ふっふっふっ、まぁーね」
「へぇ~どんな子なの?」
葉月に好きな人がいる話は始めて聞いた。というか話に入っていない俺は聞いてもいいのだろうか。
彼女達がいる方へ背を向け盗み聞きにならないようにしていたが近いので会話が聞こえてくる。
「真面目で頑張る人だよ」
「そうなんだ」
「彩花は? 彩花は匠のこと好きなんじゃないの?」
「ちょ、彩花、姉貴! 聞こえてるから話すならもっと小さい声にしてくれないか?」
聞くのが怖かった。彩花に好きじゃないと言われるんじゃないかと思ったから。
「え~匠も恋ばなしたくなった?」
「なぜそうなる」
もう寝よう。寝たら会話は聞こえてこないし、彩花が俺のことをどう思ってるのか聞かなくていい。
目を閉じて眠りにつこうとすると後ろから誰かにぎゅっと抱きしめられた。
「たく。私はたくのこと好きだよ」
「……い、いきなりだな」
「ふふふ、たくは私のことどう思ってる?」
「どうって……嫌いではないよ」
「む~、好きか嫌いの2択で答えて欲しいな」
「……好きだよ」
素直に答えると彩花は、パァーと顔を輝かせて嬉しそうにした。
***
3月28日。たくの家に来てから中々勇気を出せず声をかけることができません。
昔のように話したいけど、小さい頃、私はたくとどう話していたのか思い出せなくて、どう接していたかも忘れてしまった。
会っていなかった期間が長すぎるせいなのか、たくと話すのがこんなに難しいとは思わなかった。
どうしたらまた小さい頃のように話せるのかな。
5月3日。たくと一緒にお出掛けした。二人っきりで最初は無言が続いたけど、最後には小さい頃の話で盛り上がっていつの間にかたくと話せていた。
その日の夜ご飯は一緒に作った。いつもは当番制でたくが作ってくれるが今日はたくと一緒に作りたい気分だった。
7月13日。夏休みがもうすぐ始まる。たくとどこかに行きたい。けど、誘って断られたらと思うと怖かった。
7月20日。夏休み前にたくが海に行こうと誘ってくれた。久しぶりの海、楽しみだな。
7月30日。たくと海に行った。また来たいねと話したけど、来年、たくの隣にいるのは私ではないかもしれないと思うと少しモヤッとした。
8月7日。花火大会があった。たくと見に行ったが、人が多くてはぐれてしまった。けど、たくは私のことを見つけてくれた。たくといるとドキドキする、安心する。この気持ちってもしかして、恋なのかな……。
8月9日。こゆちゃんに相談に乗ってもらった。するとそれは恋だとズバッと言われた。
私はたくに恋をしている
10月1日。好きだと気付いたら告白。けど、怖くてできない。たくにもし断られたら今の関係でいられなくなる気がしたから。
今はこのままでいよう
3月30日。久しぶりに日記を開いた。これからまた再開するつもりだったけど、これを最後にします。
これからは──────
***
「おめでとうございます。如月さんとお付き合いできたようで」
春休み明けてすぐ始業式で奏と偶然、会い、言っていないはずのことを彼女は知っておりお祝いの言葉をもらった。
「彩花から聞いたの?」
「……ふふっ、お二人が仲良く登校されているところを見かけましたので」
「あ……なるほど」
「2人の仲をこっそり応援していた私としてはとても嬉しいです」
こっそり応援していたときいてバレンタインの時やこの前、家に来たときの奏の言葉を思い出す。
(応援してくれてたのか……)
「では、私は行きますね」
奏が立ち去っていくと後ろから誰かに肩を叩かれ、振り向くとそこには彩花がいた。
「クラス発表見に行こ?」
「あぁ、そうだな」
今日から2年生。1年は彩花とはクラスが違っていたので今年は同じクラスになりたい。そう願い、クラス替えの紙を見に行き、自分の名前を探した。
「あっ、一緒だ! たく、一緒だよ!」
「そうみたい。それよりたくって……」
家での呼び方を学校でされたので驚くと彩花は、顔を真っ赤にしてなぜかペチペチと俺の胸を優しく叩いてきた。
「聞かなかったことに……」
「別にたくでいいけど」
「ダメ……たくって呼んだら家みたいにダメダメな私になるから」
「そ、そう……」
名前の呼び方で家と学校を切り換えているのは初めて知った。学校では抱きつくのを我慢してるのもダメダメな自分にならないためなのかな。
クラスがわかり、2人で教室へ向かい、中に入ると小雪さんと俊が手を振ってこちらへやって来た。
「わっ、こゆちゃんも一緒なんだ!」
「うん。今年もよろしくね、彩花」
「こちらこそよろしく。俊くんもよろしくね」
「あぁ、よろしく」
4人一緒のクラスになるとは思っていなかったので驚いたが素直に嬉しい。何より大切で大好きな彼女と同じクラスなことが。
彩花のことをじっと見ていると彼女はこちらに気付き、ニコッと笑いかけてきた。
「匠くん、どうしたの?」
「ううん、何でもないよ。彩花と学校でも過ごせてこの1年は楽しくなりそうだなって思っただけ」
「私もそう思う。たく、これからはずっと一緒にいようね」
「うん」
一度離れてしまったが、彼女とはまた再会できた。再会したときはもう昔の頃のように戻れないと思っていたが、俺と彩花の関係は変わっていなかったと俺は思う。
「たく、大好きだよ」
「うん。俺も」
★終わった感ありますが、残り1話あります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます