第34話 友人とお花見 

 3月下旬。テレビのニュースでよく聞くのは桜がいろんな場所で開花されているというニュースだ。


 去年はたまたま通りかかった場所の桜を見る程度でお花見はしなかったが、今年は俊の提案により俺と俊、彩花、小雪さんの4人でお花見をすることになった。


 各自一品食べ物を持ってくるとなっていて俺はそのために朝からいろんな種類のサンドイッチを作っていた。


 ちなみに彩花が起きるより早くに作ったものなので彼女はサンドイッチということは知らない。そして俺も彩花が何を持ってくるのかは知らない。


 当日の朝にキッチンで作っている様子はなかったが、一点、気になることがあった。それは冷蔵庫に見覚えのない箱だ。中は見ていないがもしかしたらそれが彩花が持ってくるものなのかもしれない。


「たく、この服でいいかな?」


 家を出る前に必要なものを準備していると彩花が自分の部屋から出てきた。


「彩花がそれでいいならそれでいいんじゃないかな」


 服には詳しくないので彼女のことを見ず、そう答えると彩花は背後から前に周り、俺の前に立った。


「変な格好してない?」

「! し、してないよ……」


 近い。元々、俺との距離が近いことは知っているがここ最近、だんだんその距離が近づいていっている。


「そっか、じゃあこれで決まり」


 嬉しそうな表情をした彩花は俺から少し離れると思ったが、後ろに手を回し急に抱きついてきた。


 ふんわりとしたいい匂いと柔らかいものが当たり、俺は固まった。


「あ、あの……彩花さん……」

「ん~なに?」


 ん~なにじゃないよ。俺が困ってるのわかっててやっているのがすぐにわかる。困らせてなにがしたいんだろう。


「離れてもらいたいんですけど……」


「む~たくが足りないからまだ離れない」


「俺が足りないってなんだよ……。俺と彩花は家族だけどさ、やっぱりこういうのはよくないと思う。恋人同士じゃないし」


 家族であっても俺と彩花は本当の家族ではない。だからくっつきすぎるのは良くないと思う。


「わかった。けど、たまにならいい? たくとぎゅーしたら元気出るから」

「たまに……」


 たまにってことはまた抱きつくってことだよな。俺が油断してるときに。


「まぁ、たまになら……」

「やったっ」


 良くないと言いながらたまにならって何だよ……と自分で突っ込みたくなった。




***




 お花見する場所はお花見スポットと言われる大きな広場。俊が先に着き、場所取りをしてくれていたのでそこに彩花と一緒に向かった。


「俊、ありがとう」

「いえいえ。おはよ、匠、彩花さん」

「おはようございます、俊くん。いい場所ですね」


 彩花は桜を見てうっとりしていた。


 レジャーシートは俊が大きいのを持ってきてくれていたのでそれを使わせてもらうことに。


「そう言えば小雪さんは?」

「こゆちゃんは……あっ、来た」


 彩花はレジャーシートの上に荷物を置いて、小雪さんのところへ駆け寄って、彼女と一緒にこちらに来た。


「お待たせ。俊くん場所取りありがとうね」

「おはよう、小雪さん。座って座って」


 みんな揃ったところで、各自持ってきた食べ物を紹介することになった。


 最初は俺でバスケットに入れてきたサンドイッチを見せるとみんなから「おぉ~」と声が漏れた。


「美味しそうだね」

「うんうん。たくのサンドイッチは美味しいんだよ。私、ちょー好き」

「彩花さんがそこまでいうなら楽しみだな」


 サンドイッチなんて具を挟むだけで誰でもできそうな気がする。美味しそうといってもらえたので見映えはいいということだろうか。


 次に紹介したのは小雪さんだ。彼女は卵焼きと唐揚げを作ってきていた。


「一品って言われてたけど、卵焼きだけだと寂しいかなって……」

「小雪さんも料理上手だね」

「とっても美味しそう」

「匂いからして絶対に美味しい」


 次に紹介したのは俊だった。なぜだか出しにくそうな雰囲気で出したのはいろんな種類が入ったピザだった。


「俺はみんなみたいに作ったわけじゃないんだけど……」


 なるほど、俊は、みんな家で作ってきたものだったので買ってきたものを出しにくかったのか。


「美味しそうじゃん。彩花、ピザ好きだし良かったな」

「うん、好き!」

「私も好きだよ」


 俊はピザの他にも飲み物を持ってきてくれていた。俺と彩花は飲み物に関してはすっかり持ってくるのを忘れていたので有難い。


 最後に彩花が持ってきたものを紹介することに。俺も知らないので気になる。


「私はデザート系です。プリンとゼリーを作ってきたので好きな方を食べてくださいね」


 そう言ってプリンとゼリーをみんなに見せる中、俊は何か考えている表情をしていた。




***




 みんなで楽しくお花見した後は、談笑し、そして夕方になる前に解散となった。


 家に帰った彩花は疲れたのかソファーにくだぁ~と寝転がっていた。


「そんな疲れたことしてないと思うんだけど」

「たく、癒してほしいな」

「よくわからない注文は受け付けてません」

「むむっ」


 にしても無防備すぎる。大きめのタボッとシャツ1枚しか着てないし。ズボンかスカートを着てほしい。


 ギリギリ見えていないが、そのシャツはワンピースじゃないんだそと言いたい。


 で、1番言いたいことは俺の服を勝手に着ないでくださいだ。


「早めにお風呂入ろっかな」

「ん、いいんじゃない?」

「たくもね」

「……ん、何で?」

「ふふっ、一緒に入りたいから」

「入らないから」


 洗濯物を畳ながら突っ込むと彩花はソファに寝転んだままぷく~と頬を膨らませていた。


「彩花、畳むの手伝ってくれないか? 自分のもの自分でな」


 タオルや服は触れるが、彩花の着ているものは触っていいものなのかわからないので寝ている彼女を呼ぶしかない。


 タオルを畳み、重ねていると後ろから何かが乗っかってきた。


「来たよ」

「後ろから抱きつくんじゃなくて畳んでください」

「はーい」


 俺から離れると彩花は俺のとなりに来て自分の服を畳んだ。


「たくが私のお嫁さんになったら一緒に入ってくれる?」

「どれだけ俺と入りたいんだよ」

「たまにあるじゃん。一人で入るのが寂しくなるとき……」

「俺はない。1人の方がゆっくりできるし」

「むむむー」


 昔から彩花の両親は仕事で忙しくて家で1人でいることが多かったから寂しいと聞くとどうしても俺が側にいなければと思ってしまう。


(俺、また過保護っぽいこと考えてる……)


「寂しいならこうしてたらいい?」

「!」


 彩花のことを真っ正面からぎゅっと抱きしめる。彼女からこうされても俺からはしたことはほとんどないため彩花は驚いていた。


「うん、寂しくなくなった……。たく、好き」


 彼女はそう言って俺の体に手を回してぎゅっと抱きしめた。

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