第33話 水族館デート
「何か石みたい……」
最初に見かけたのはオオサンショウウオ。彩花は、じっーと見ていた。
その後、近くにいたイワナ、ヤマメ、オイカワ、コイを見て回る。
「あっ、たく、オットセイだよ」
次のコーナーに何がいるのか見えた彼女は俺に教えてくれた。
隠れ家みたいなスペースに入り、オットセイを近くで見る。その後はアザラシがいるところに来て、チューブ状の水槽に近づき見る。
「大きいね……」
「だな。目が可愛い」
「わかる! 何かどう可愛いか説明しにくいんだけど可愛いよね」
アザラシの水槽から離れ、少し歩いた先にはカフェがあった。家を出たのは11時頃だったので、そろそろお昼にしてもいいかもしれない。
お昼にしようと彼女に提案するため横を見るとさっきまで手を繋いでいた彩花がいなかった。
もしや迷子かと思い辺りを見回すとカフェの看板の前に立っている彩花がいた。
メニュー表を見ていたのでどうやら俺と同じことを考えていたようだ。
「彩花、ここでお昼にしよっか」
後ろから彼女に向けてそう言うと彩花はパッと後ろを振り返り、笑顔で頷いた。
カフェのメニューは、水族館らしいメニューでアザラシホットドッグ、オオサンショウウオ肉まんなどがあった。
アザラシホットドッグは、ケチャップがかかったノーマルなものとチーズがあったので、それを1つずつ頼み、可愛いからと言ってオオサンショウウオ肉まんを1つ頼んだ。そして綺麗だからと言ってマドラードリンクも頼んだ。
「わ~綺麗……」
マドラードリンクは、オオサンショウウオのアップルソーダ味、ペンギンのブルーソーダ味、イルカのレモンソーダ味と3種類あり、彩花は、ペンギンのブルーソーダ味を選んでいた。
透明のプラスチックの入れ物に2層に別れたドリンクが入っている。どうやらこれをマドラーで混ぜるようだ。
「じゃあ、混ぜてみるね……」
マドラーでドリンクを混ぜると全体が綺麗な水色へと変わった。
「綺麗……」
「うんうん、写真撮ろうかな」
飲む前に彩花はスマホでブルーソーダの写真を撮った。
「そう言えば、たくは、写真投稿したりするアプリやってる?」
「そういうのは疎くてやってないよ。アプリは入れてあるけど」
スマホは連絡、調べもの、動画を見るくらいにしか使っていない。ゲームは好きだが、スマホでやろうとは思わず、テレビゲームしかしない。
「じゃあ、私と共有しようよ。2人だけのアルバム作りたいから」
スマホの画面をこちらに向けて彩花は、ニコッと笑う。
(2人だけのアルバム……)
「共有ってどうやってやるんだ?」
「ふふっ、教えてあげるよ」
彩花は、椅子を俺の隣に移動し、肩がくっつくところまで寄ってきた。
ふわっとしたいい香りがする。何か香水でもつけたのかな……。
「このQRコードを読み込んで……うん、できた。さっきの写真追加するからたくもいい写真あったら追加してね」
「あぁ……。さっそく今、2人で撮らないか?」
「…………」
「彩花?」
「はっ、ごめん。たくから写真撮ろうなんて言われたことなかったからビックリした」
確かに写真を撮ろうなんて自分から言ったことなんて今までなかったな。自分の写真を撮ることがあまり好きじゃないから。
「食べる前に1枚撮るか?」
「うん、たくと撮りたい」
写真を撮ると彩花が、共有アルバムに追加してくれた。食べようかと言おうとすると目の前にいる彩花が撮った写真にうっとりしていることに気づいた。
「たくとのツーショット……」
(そんなに嬉しかったのかな……)
「よしっ、たく、食べよっか」
「うん、食べよ」
俺はまずケチャップがかかっているアザラシホットドッグを手に取り、食べ始め、彩花はブルーソーダを飲んでいた。
「美味しい。たくも飲んでみて」
「ありがとう」
彩花からブルーソーダをもらい、口の中がなくなり一度、ウーロン茶を飲んでからもらうことにした。
「ほんとだ、美味しいな」
炭酸だから飲みすぎるとお腹に溜まりそうだが、好きな味だ。
彩花に返そうとすると「あれ、これ、間接キスでは?」と思い、手が止まる。
何か普通にもらって飲んでしまったが、彩花は間接キスに気付いているのだろうか。
「たく、顔真っ赤だけど大丈夫?」
そう聞かれた瞬間、ピタリと額に冷たい感触がした。彩花の手だ。
「! だっ、大丈夫…………」
明らかに大丈夫じゃない時の反応をしてしまった。椅子から転びそうだったし。
「たくが食べてるケチャップの方はどう?」
「ケチャップかチーズの違いだけで同じだと思うけど……」
欲しいのかなと思い、彼女にアザラシホットドッグを渡そうとすると彩花はそれを受け取らず、口を近づけてパクリと一口食べた。
(えっ……)
予想していなかった事態に固まったまま彩花のことを見ると彼女は幸せそうに食べていた。
「美味しい、ケチャップも合うね」
「…………あぁ、そうか」
これは驚きへのドキドキか、それ以外のドキドキなのか。彩花を好きだと自覚してからの俺はどうも変だ。
「たくもこっちのチーズ食べる?」
「いいの?」
「うん、シェアするつもりで頼んだから」
「ありがとう」
彩花からチーズのアザラシホットドッグを受け取ろうとすると彼女は顔を近づけてきた。
「彩花……?」
「ケチャップついてる。たくは子供だなぁ」
「……あ、ありがと」
ティッシュで取ってくれた彩花にお礼を言うといつもと逆だなぁと思った。
「今、私の方が子供っぽいとか思ったでしょ? たく、いつも私のこと心配するし」
「心配なのは見ていて危なっかしいからだ」
「むむむ、否定できない……」
頬を膨らました彼女はオオサンショウウオ肉まんを手に取り一口パッと食べた。
買ったものを全て食べ終え、少し休憩してから次は多種多様ないきものがいる大きな水槽へ。
「綺麗だね……」
「そうだな」
何も話さず綺麗な水槽を見ていると彩花にそっと優しく手を握られた。
はぐれないために繋ぐと言っていたのに忘れていた。
半分、手を繋ぎたい気持ちでいながら俺は握られた手を優しく握り返す。
「次来るときもたくと一緒がいいな」
「……俺も」
彼女の隣にいたい。1番近くで俺は彼女のことを見ていたい。
「家族だから次も来れるよ、2人で。きっと」
「家族……そうだな……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます