3章 幼馴染みという関係

第31話 姉はいつも突然訪問

『彩花とパジャマパーティーしたくなった。だから泊めて?』


 2ヶ月ぶりに来た姉の葉月からの家に泊めてほしいメール。このメールが来たということは、多分いる。


 下のエントランスにいるだろと返信するとバレたと返ってきた。


「やっぱりか……」


 俺と彩花が絶対に断らないことをわかっているから。泊まりたいメールにダメと言ったら諦めて帰るのだろうか。


 エントランスのドアを開けてあげると彩花はソファから片手にポッキーを持って話しかけてきた。


「誰か来たの? 私、部屋に籠っておくけど」


 彩花は男子友達が来たのかと思ったのか、ソファから立ち上がろうとする。


「ううん、姉」

「葉月ちゃん! もしかして、泊まり?」

「うん、彩花とパジャマパーティーしたいってさ。急すぎてよくわからないけど」

「この前、話してたパジャマ見せてくれるのかな。楽しみ」


 彩花には葉月がなぜ急にパジャマパーティーをしたいと言い出したのかわかっているようだ。


 ピンポーンとインターフォンが鳴ったので、玄関へ向かい、鍵を開けるとリュックを背負った葉月がよっと挨拶してきた。


「あれ、眼鏡匠だ。どったの?」

「今日は外出るつもりないからコンタクトしてないだけ」

「つまり今日はおうちデーね。お昼はまだ?」

「まだだよ。何か家にあるもので作る予定でいたけど」


 葉月と話していると後ろからトタトタと走ってくる音がして振り向こうとすると彩花に抱きつかれた。


「葉月ちゃん、いらっしゃい」

「やっほ彩花。今日もたくにベッタリで可愛いね」

「ベッタリすぎるけどな。彩花、離れてくれないか。お昼にしよう、姉がピザ買ってきたみたいだから」

「なぜピザ買ってきたことがバレた!?」


 ピザの匂いが袋から漏れてるんだよと心の中でツッコミ、抱きつかれたまま俺はキッチンへと向かう。


「彩花、3人分のお皿とコップとか用意して」

「うん、用意する!」


 引っ付いていた彩花はパッと離れて、準備に取りかかる。その間、葉月はお泊まり用の荷物を置きに行っていた。


「彩花、嬉しそうだな」


 先程からニコニコしているので、葉月が来てくれたことに嬉しいのだろうと思った。


「うん、嬉しいよ。じゃ、運ぶね」

「ありがとう」


 彩花が行った後、キッチンでピザを切っていき、それをリビングにあるテーブルへと運ぶ。


 何かのパーティーみたいだなと思いながら彩花の目の前に座ると後ろからなぜか姉に頭をチョップされた。


「匠は彩花の隣でしょ?」

「何そのお決まり……葉月が彩花とソファに座るから俺は地べたにしたんだけど」

「ダーメ、ソファは匠と彩花が座って。私は、椅子に座るから」


 ほらほらと無理やり立たされ、ソファへと連れていかれる。葉月の力は強く、振りほどくことができなかった。


 ソファへ座ると隣に座る彩花と目が合う。すると、彼女はニコッと笑いかけてきた。


(! 何だろう最近、彩花の笑顔にドキッとしてしまっている)


「さて、食べよっか」

「うん、食べよ」


「「「いただきます」」」


 葉月は違う種類のピザ2枚とポテト、そしてオレンジジュースを買ってきてくれていた。彩花と住み始めてから既にできあがったものを食べることがあまりなくなりピザを食べるのは久しぶりだ。


 ピザは作ったことがないから機会があれば作ってみようかな。


 ピザを食べ、ポテトを摘まもうとしたその時、葉月はふと思ったことを口にした。


「そういや、何で匠と彩花は同居してるんだっけ?」

「……言ったことあったよな?」

「あれ、そうだっけ?」

「言ったよ。彩花母に頼まれたんだ。一緒に住んでほしいと」

「あーそうだったそうだった。彩花と住みたくて了承したんだっけ?」

「違うわ!」


 違うと否定すると彩花がうるっとした目でこちらを見てきた。そして、俺の肩にトサッともたれ掛かってくる。


「たく、やっぱり私と……」

「いやいや、一緒に住みたくないとか思ってないから」

「ほっ、それなら良かった」


 ほっと胸を撫で下ろした彩花は、背もたれから背中を離し、ポテトを摘まみ、先端を加えた。


 自分で食べるのだろうと思ったが、彩花はポテトを口に加えたままこちらを向いた。


「えっーと……」

「わっ、彩花、やるなぁ~。たく、食べちゃえ食べちゃえ」


 葉月はニヤニヤしながらオレンジジュース片手にこちらを見てくる。


「やらないから。ほら、食べて食べて」

「む~」


 長いポテトは短くなっていき、彩花は頬を膨らませた。そんな顔しても食べないよ。


 昼食を食べ終えると3人で家で過ごし、夕食はハンバーグを食べた。その後は、お風呂で彩花と葉月は仲良く一緒に。


 俺がお風呂を出るとリビングには彩花と葉月はいなかった。声がしたのでおそらく彩花の部屋でパジャマパーティーとやらをしているのだろう。


 俺は眠くなるまで1人でリビングで読書でもしていよう。




***




(やばっ、集中しすぎてた)


 本を閉じて顔を上げて時計を見ると11時だった。本を読み始めてから3時間が経っている。


 眠たくなってきたしそろそろ寝ようかとしたが、彩花の部屋から葉月が出てきてリビングへ来た。


「匠、まだ起きてたんだ」

「ん、もう寝るよ」

「……匠、ちょっと話さない?」

「話?」


 当然どうしたのだろうかと思ったが、葉月と話すことなんて一人暮らしを始めてからほとんどしていない。


 隣に座った葉月は、背もたれにもたれかかり、そしてこちらを見た。


「匠、悩んでることあるでしょ?」

「!」

「やっぱり。彩花のことでしょ? お姉さんに話してみな。相談のるからさ」


 葉月はずっとこうだった。俺が悩んでいたらすぐに気付いて話を聞いてくれる。


「俺は……彩花が好きなんだ」

「ほほう、やっと気付いたか。で、好きだから告白するの?」

「……しない」

「どうして?」


 俺にとって彩花は大切な家族みたいな存在。だからこそ告白して関係が変わってしまうのが怖い。今、彩花とこうして暮らしていることがいいと思うからこそ。


 彩花に好かれてるとは思っている。けど、それは勘違いかもしれない。好きでも恋愛的意味と幼馴染みとして好きという意味もあるから。


「彩花とは今のままでいいんだ。告白して関係を変えたくない」


「……そっか。匠がそう思うならそうすればいいと思うけど、彩花のことも考えてあげないとね」


「……彩花のこと……か」


 彩花とはこのままでいたい、だから告白しないという選択は本当に正解なのか。葉月の最後の言葉がひっかかり、これからずっと今まで通りでいるのはダメな気がして、あることを決意した。




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