第30話 雨咲さんとパフェ

 3月14日ホワイトデー当日。バレンタインに彩花と雨咲さんにチョコをもらったので、今日は2人にお返しを渡す予定だ。


 彩花には夕方渡すとして、雨咲さんには今日パフェを食べに行くのでその時に渡そう。


 出かける準備を終えるとソファに座ってぐだぁとしていた彩花に声をかけた。


「彩花、友達と遊びに行ってくる。夕方には帰るから」

「んー、いってらっしゃい」 


 まだ半分起きてないなと思い、苦笑いしながら彩花の頭をポンポンと叩いてから家を出た。


 雨咲さんとの待ち合わせは2駅先にあるショッピングモール。電車に乗り、改札を降りるとその場所はすぐにあった。


 平日だからかいつもより人が多い。ショッピングモールに集合と決めたが、こんなに人がいるのに探し回っていては時間がかかってしまう。


 連絡先の交換はしているので、到着したことをメッセージで伝えると彼女も着いていたようで2階にあるイスに座っていると返事が来た。


 彼女のいるという場所へ向かうとイスに座っている人を見つけた。


 白のロングスカートに薄ピンクのカーディガンを着た雨咲さんを後ろから声をかけた。


「雨咲さん、おはよ」

「……あっ、おはようございます、永瀬くん」


 ゆっくりと振り向いた彼女はイスから立ち上がり、スカートを気にしてから俺に向かって微笑んだ。


 彼女と休日に会うのは初めてだ。制服が見慣れているため私服は新鮮だ。そう感じるのは俺だけでなかったようで、雨咲さんは口を開いた。


「永瀬くんの私服初めて見ました。カッコいいですね」

「そ、そうかな……。雨咲さんは、大人っぽい私服だね。似合ってる」

「ふふっ、ありがとうございます」


 何だろう。学校では普通に話せるのに今、緊張して上手く話せている気がしない。


「さて、行きます?」

「うん、あっ、その前に雨咲さんに渡したいものがあるんだ」

「渡したいものですか……?」


 覚えているうちに渡しておきたいので、手に持っていた小さな紙袋を彼女に手渡した。


「ありがとうございます……。誕生日ではないのですが、もしかしてホワイトデーのお返しですか?」

「うん、美味しいチョコもらったからね」

「……嬉しいです。中を見ても?」


 どうぞと手のひらを出すと彼女は紙袋の中に何が入っているのか確認した。


「マグカップとイニシャルの入ったハンカチ。とても素敵です。大切に使います」


 そう言う彼女は嬉しそうな表情をして紙袋を大切そうに両手で持った。


「じゃ、行こっか」

「えぇ、行きましょう。テレビで特集されるほど美味しいパフェらしいですよ」

「へぇ、それは楽しみ」


 パフェが食べられる店は、エスカレーターで今いる2階から1つ上に上がり、少し歩いたところにあった。


 オシャレなところで、男子1人で入るのには少し勇気がいる場所だ。


 店員さんに向かい合わせに座れる席へ案内されるとメニュー表を開いた。


 一通り最後まで見てみたが、メニュー表のほとんどがパフェだ。ドリンクもあるが、パフェの種類の方が多い。


「マンゴー、チョコ、苺……季節限定とかはなくどんなものでもありますね。永瀬くん、決まりましたか?」

「んー、悩むなぁ……」 

「ふふふ」


 手を口元へやって、メニュー表をじっーと見ていると雨咲さんは小さく笑った。何か変だろうかと思い、顔を上げる。


「雨咲さん?」

「あっ、すみません。永瀬くんがパフェ選びに真剣だったのが可愛いなと思いまして」


(可愛い……かな?)


「私はこのチョコマシュマロパフェにします。どうされます?」

「俺は……苺抹茶にしようかな。押すね」


 呼び出しボタンを押すとすぐに店員さんは来て、注文した。



***



 たくが友達と遊びに行っている間、私も友達のこゆちゃんと会っていた。場所はファーストフード店。お昼を一緒に食べようということで集まっていた。


 私とこゆちゃんは、ハンバーガーとポテトのセットを食べ、最後にデザートのチョコパイを食べる。


「ん~美味しい……」


 一口食べるの外はパリッ、中はとろけるあま~いチョコ。口の中が甘い香りで広がっていく。


「美味しいね。そう言えば、匠くんとはどう? 何か進展はある?」


 クリスマス、バレンタインと様々なイベントがあったが、どうなのかと気になったこゆちゃんは、私にそう尋ねるので、進展はあったか思い出す。


「…………ない。進展がないのは匠くんが鈍感なのもあるけど、私のアピール方法が下手なのかな」

「いやいや、彩花は十分、匠くんにアピールしてるよ」

「そうかな……」


 進展……あっ、でもたくから抱きしめられた……嬉しかったなぁ。


 思い出すと自然と口元が緩み、ニヤニヤしているとこゆちゃんにじっーと見られていた。


「こっ、こゆちゃん?」

「ふふっ、彩花って顔に出やすいよね。匠くんと何かあったんだね?」

「! なっ、何もないよ?」

「も~可愛いなぁ~」


(顔に出やすいか……今度から気をつけよっ)


 デザートのパイを食べ終えると店を出て、ショッピング。そして夕方、こゆちゃんとはそこで別れ、私は、スーパーへ向かう。


 今日は肉じゃがにしようかな。いや、ハンバーグ……あれ、さっきハンバーガー食べたからダメだ……ん~夕飯どうしよう。


 たくが喜んでくれそうな夕食のメニューを考えていると前からたくと同じクラスの雨咲さんが歩いてきているのに気づいた。あちらもこちらに気づいたようで手を振ってくれた。

 

「こんにちは、如月さん」

「こ、こんにちは……雨咲さん」


 この前、会ってから話していなかったので、緊張してしまう。たくがいたら背中に隠れていただろう。


「今からどこかに行くところですか?」

「スーパーに……」

「そうですか。では、新学期に会えましたらまたお話ししましょうね」

「は、はい……」


 雨咲さんが手を振ったので、私も小さく手を挙げて振った。


 同い年なのに大人っぽいなと思うと同時に仲良くなるには時間がかかりそうな気がした。


(仲良くなりたいと思うけど、すぐには無理だと思うのはなぜだろう……)


 スーパーへ寄り、家に帰ると灯りがついていた。玄関にはたくの靴があり、私は、キッチンへ荷物を置いてからすぐにリビングへ向かった。


「たく~」

「うぉっ、また体当たり」


 ぎゅーと抱きつくと、たくは頭を優しく撫でてくれた。


(たくといる時間が1番安心する……)


「あっ、そうだ。彩花にホワイトデーのお返し渡したいんだけど……」

「お返し……そっか、今日はホワイトデー」


 春休みに入ってから日にちと曜日を気にすることなく過ごしていたため忘れていた。


 たくから離れると彼は自分の部屋に行き、戻ってくると大きな袋を持っていた。その袋をたくから受け取り、中を確認すると大きなクマのぬいぐるみが入っていた。


 紙袋から取り出し、ぎゅっとクマのぬいぐるみを抱きしめてみた。


「大きなクマさん……ありがとう、たく」

「! どっ、どういたしまして……」


 クマのぬいぐるみを抱きしめながらチラリと横を向くとたくの顔が赤いような気がした。


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