第28話 君への気持ち

 玄関には女の人の靴。キッチンには可愛らしいクマさんのコップ。永瀬くんの趣味かもしれませんが、彼の家には女の人が住んでいる可能性がある。


 私、雨咲奏は、彼の家を出て、スーパーの袋を持って家へと向かう。


 彼が一人暮らしというのは嘘です。これは可能性ですが、幼馴染みの如月さんと住んでいるのかもしれません。


 永瀬くんは隠しているようですし問い詰めませんが気になります。


 気になるといえば永瀬くんは、如月さんにチョコをもらえたでしょうか。こちらは明日、彼に会った時に聞いてみましょう。


 さて、私の想いは彼にどう届いたでしょうか。友チョコだと思われた可能性が高いですが、それはそれでいいのです。


「受け取ってもらえるだけで私は……」





──────中学2年生の夏




 

 校外学習があったその日。班が同じある女の子がどこかで大切なヘアピンを無くしてしまった。


 自由時間は後数分。この時間が終われば後は先生の元へ行って、学校に帰ることになる。つまり探すとしたら自由時間の間だけ。


「大切なものなのに……」


 その子は泣きそうな顔をして、暗い顔をしていた。


 それを見て班の中ではみんなで探そうと言う者とヘアピンぐらいと言って探す気はない者がいた。


「もう結構歩いたし見つからねぇーだろ。自由行動後少ししかないから諦めろよ」

「そうそう、みんなで探しても見つからないって」

「はぁ!? 男子ほんとっ最低」


 女子と男子の言い合いが始まってしまった。この時間が1番無駄な気がして、間に入って言い合いを止めようとするとそれよりも先に動いた人がいた。


 その人はそう、永瀬くんです。彼も男子と同じで探さない者だと勝手に思っていましたが、どうやら違ったようです。


「青木、渡辺も探そう。人が多い方が見つかる確率は上がる」

「いや、けどさ……」

「けどさ、何? クラスメイトが困っているのに助けないのか?」

「うっ……それは……」


 私が男子に言いたかったことを彼は言ってくれた。男子にも探させるような言葉を。


「あーもうわかったよ」

「永瀬に言われたらな」

「ありがとう」


 探すことに協力的じゃなかった男子2人だが、永瀬くんの言葉によりみんなで探すことになった。


 私は、どうしても伝えたいことがあり、彼の横に移動した。


「ふふっ、先程の永瀬くん、カッコ良かったです」

「えっ、何かしたっけ?」

「みんなで探そうと彼らに言っていたところです。永瀬くんが言わなかったら私が言うつもりでした」

「あー、俺は探したくない奴は別行動でいいんじないかと思ってたんだけど、班行動してなかったら先生に怒られて面倒だと思ってね」

「なるほど、確かに面倒ですしね」


 彼と顔を見合わせてクスリと笑う。


 この日をきっかけに私は永瀬くんとよく話すようになった。彼は優しくて、他の男子とは少し違う、私は彼に惹かれました。


 高校ではまさかの同じ学校になり、これは運命だと思いました。隣の席になり、話す機会も増え、私はもっと彼のことが好きになった。


 ですが、彼には幼馴染みの如月さんがいる。2人は付き合っていませんが、恋愛に発展しそうな雰囲気がある。


 彼に幼馴染みがいることには驚きましたが、それよりももっと驚いたことがあった。それは彼の家に如月さんも住んでいること。


 女性のものが置いていて、キッチンにあったカレンダーに彩花という文字が書かれてあった。


 永瀬くんが如月さんを好きであるかもしれない。けど、まだ付き合っていないのならチャンスはある。


「幼馴染みだからといって負けません」





***




(終わったぁ~)


 学年末試験最終日。全ての試験が終わり、うんと背伸びをしてから帰る準備をする。


 ここ最近、徹夜で勉強していたせいで寝不足だ。家に帰ったら寝ようかな。


 イスから立ち上がり、リュックを背負うと雨咲さんが声をかけてきた。


「永瀬くん、試験お疲れ様です」

「雨咲さんもお疲れ」

「はい。あの……時間があるのでしたらクレープを食べに行きませんか?」

「クレープ……」


 本心を言うと凄い食べたい。ここ最近、頭を使いすぎて甘いものを欲していた。


 すぐにうんと頷きたいところなのだが、雨咲さんと二人っきりで行くというのは緊張する。なぜなら彼女とはいつも学校で話したりするが外に出掛けたり、休日に会ったことはこれまで一度もないからだ。


「甘いものはお嫌いで?」

「いや、好きだよ。俺で良ければ今からクレープ食べに行こっか」

「はい、行きましょう」


 一緒に帰るつもりだったが、用ができたと行って俊には先に帰ってもらった。そして彩花には帰りが遅くなるとメッセージで伝えた。


 雨咲さんと2人で学校を出ると駅前のクレープ屋さんへ向かう。

 

 緊張して何も話せないと思っていたが、雨咲さんが話題提供してくれたおかげでいつも通り楽しく話すことができた。


「永瀬くん、この前はありがとうございました」

「この前……あぁ、雨の日のことか。こちらこそ、ありがとう。もらったマカロンとっても美味しかったよ」 

「それは良かったです」


 ホワイトデーに何かお返しがしたいが、何がいいか今聞いてみようかな。


 ストレートに聞いたら遠慮しそうだしここは何かほしいものはあるか聞く感じで……。


「雨咲さんは、今、欲しいものとかある?」

「欲しいものですか?」


 あっ、急すぎたかもしれない。もっと自然に聞くことはできなかったのだろうか。欲しいものを急に聞いたら相手は何かあると思ってしまう。


「そうですね、マグカップが欲しいですね。この前、お母様が割ってしまって」

「えっ、お母さん大丈夫だった?」

「はい、大丈夫でしたよ、怪我はしてません。お気に入りのマグカップでしたので残念です」


(マグカップか……)


「どんなマグカップだったの?」

「猫さんのマグカップでした」

「猫……猫好きなの?」

「えぇ、好きですよ」


 マグカップについて聞きすぎると怪しまれそうなので、不自然なく猫の話へと変える。


(よし、お返しはマグカップにしよう。猫といえば彩花も好きだよな)


 後は彩花だが、何にしよう。帰ったらさっきのように聞いてみよう。


 クレープ屋さんにつくとさっそく注文する。空いていたためすぐに食べることができた。


「美味しいです」

「うん、こっちも美味しいよ」


 女子と2人でクレープを食べていて何だか放課後デートをしているみたいだ。雨咲さんの隣に俺は似合わないけど。


「私の食べますか?」

「えっ……?」

「美味しいですよ。遠慮なさらずどうぞ」

「……あ、ありがとう」


 かじりつくわけにはいかないのでスプーンを使って彼女のキャラメルカスタードクレープを一口もらった。


「お礼に雨咲さん、いる?」


 今度は自分のチョコブラウニークレープを差し出し、食べないかと彼女に尋ねた。すると彼女はコクりと頷いた。


 どうぞと取りやすいようにすると彼女はスプーンで一口すくい、パクっと食べた。


「美味しいです」

「良かった。今日は誘ってくれてありがとう、雨咲さん」


 ニコッと笑いお礼を伝えると、彼女はふんわりとした笑みで微笑んだ。


「永瀬くん、良ければこれから私の家に来ませんか?」



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