第26話 雨の日はおうちでゆっくり

 現状報告。今、俺の手は柔らかいものを掴んでしまっている。誰かさん、こういう時、どうしたらいいですか。


 と、頭の中で問いかけても相手がいないので、答える人は当然おらず。


 手を離そうとしても彩花が俺の腕をガシッと掴んでいるので不可能。無理やり離すこともできるが、それで彼女に怪我させてしまうかもしれないと思うとできない。


「彩花……!」

「ふにゃ~眠い……」

「……寝るなら歯磨きしてからな」


 急に背中を手に回して抱きついてきたから驚いた。歯磨きをさせるため洗面台へ彼女を連れていく。


 歯磨きは何とか自分でやってもらい、自室までは背負って連れていくことに。


「はい、着いたぞ」

「ふにゃ~、たくいい匂い」

「嗅がないでください」

「いや~」


 ベッドへ彩花を寝転がせると彼女はすぐにすうすうと寝息を立てて寝始めた。


 アルコール入ってたからこうなったんだよな。誰かからもらったのか、それとも自分で買ったのか知らないが、今後は食べるの禁止した方がいいと明日にでも彩花に言っておこう。


「お休み、彩花」


 そっと優しく布団をかけてあげてから俺は静かに部屋を出た。





***




 何かやってしまった気がする。朝、起きると私は、昨夜のことを思い出した。


 昨夜、チョコを食べてたくに運ばれてベッドで少し寝た私は、歯磨きをするため一度起きた。簡単に言うと昨夜はこうだったが、チョコを食べて、たくにこの部屋へ運ばれるまでに何かとんでもないことをしてしまったような……。


「たくに遠回しに聞いてみよ……」


 ルームウェアから私服に着替えた私は、顔を洗いに洗面所へ。すると、電気がついていた。


 たくがいる。いつもなら後ろから抱きついておはようと言うが、今日は恥ずかしくてできそうにない。


「たく、おはよ……」


 あれ、いつもどう言ってたっけ。こんな感じだったっかな……。緊張してあまり声が出なかったが、たくは私のことに気付き、タオルで顔を拭いてから後ろを振り返った。


「お、おはよ、彩花……」


(おかしい!)


 絶対に昨夜、私はたくに何かしてしまった。何したんだろう。キス……しちゃったかな。それだったらヤだな。ファーストキスは、ちゃんとしたいし。


 ハグだったらいつもしてるから驚きはするかもしれないが、次の日までこんな反応は続かない。


(それか、や……ヤっちゃったとか!?)


 うぅ、何でチョコたくさん食べちゃったんだろう。美味しかったから止まらなかったと言っても言い訳にしかならないけど。


 昨夜のことをよく思い出しながらたくの隣に並び、髪の毛を1つにまとめてから顔を洗う。


 タオルで拭き、顔がさっぱりすると私は、たくに聞くことにした。


「昨夜、私、たくに困らせることしちゃった?」

「!!」


 やっばりビンゴ。何していたのか覚えてないけど、たくを困らせちゃったみたいだし、謝らないと。


「ごめんね、たく。あのチョコで酔っちゃうとは思わなかった。今後は気を付けるね」

「う、うん……」


(ほんと、何したんだろう私……)





***




 今日は、雨なので家で俊とオンラインゲームをして過ごすことにした。


『よしっ、やっと勝った! たく、このバトルゲーム上手すぎるわ』

「俊が弱すぎるんだよ」


 通話した状態でゲームをしていると肩に何かもたれ掛かってきた。何かと思い、コントローラーを持ったまま横を向くとそこには彩花がいた。


 彼女の俺の肩にもたれ掛かり、ふにゃ~としていた。ゲームの邪魔しに来たのかな。


「彩花、もう1戦やるから離れてくれる?」


 俊と通話中なので小声で彩花にお願いすると彼女は、む~と頬をぷくりと膨らませてポスッと俺の膝に頭を置いてきた。


(彩花さん、やっぱりこれ邪魔しに来てますよね?)


「お~い彩花さん」

『……ん? もしかして、ゲームしながらイチャイチャしてる?』

「してない!」

『へぇ~、まぁ、彩花さんが今近くにいるんだな。ゲームやめるか?』

「何でだよ」


 その後、何度お願いしても彩花が起き上がることはなかったので、このままの状態でゲームをすることにした。


(もしかして彩花、俺と何かしたいのかな……それかおやつの時間だから何か食べたくてリクエストしに来たのか)


『わ~、負けたぁ』

「変なところでやられたからだよ」

『だなー。よし、もう1戦』

「あーうん、その前にちょっと待っててくれ。電話一旦切るぞ」

『おぉ』


 俊との電話を一度切り、コントローラーを手を伸ばして届く距離にあるテーブルに置いてから俺は寝転んでいる彩花を見た。


 さらさらの髪を触るとピクリと体が動き、起き上がった。


「たくがゲームに勝てるよう近くにいたけど効果あった?」

「いや、集中できなかったんだけど……」

「そっか、集中できなかったのならごめんね」

「……シフォンケーキでも作るか」

「! 食べたい!」

「ふっ、そういうと思った」


 彩花の反応があまりにも早かったので笑ってしまった。


 俺はシフォンケーキを作ることにし、俊には電話で彩花が変わりに相手になることを伝えた。


『彩花さん、匠に俺の分も作ってって伝えてくれる?』

「来ないとありませんね」

『それは残念だな。雨じゃなかったら行くのに。彩花さん、俺の分も食べてくれ』

「はい、俊くんの分は私が食べますね」


 リビングの方から彩花と俊が楽しそうに話ながらゲームをしている。楽しそうだなぁと思い、自分はシフォンケーキを作る。


 ケーキだけでは足りないので出来上がってからすぐに紅茶を淹れて一緒に彼女のいるところへ持っていくことに。


 テーブルへ置いてソファに座ると彩花は、俺に抱きついてきた。


「勝った! たく……匠くん、俊くんに勝ったよ!」


 満面の笑みだ。勝ったことが本当に嬉しかったんだろうな。くしゃりと彼女の頭を撫でて上げると彼女はまた嬉しそうに笑う。


「やったな、俊」

『おう。またやろうぜ彩花さん』

「はい、是非」

『じゃあ、明日学校で』


 俊との電話を切ると彩花は、コントローラーを持ったまま俺の肩に寄りかかってきた。


「私、たくにゲームより私に夢中になってもらえるよう頑張るね」

「?」




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