第23話 イルミネーション

「ん~」

「どうした?」


 クリスマス当日。お昼を食べ終えた後、彩花は俺の部屋に来て何かを探しているようだった。


「あの、俺の部屋キョロキョロされると気になるんですけど」

「気になる……やっぱり、たくも男の子だし、そういうのあるよね」

「何が!?」


 急に失礼しますとか言って現れ、俺の発言を謎に解釈し始める彩花。一体、何しに来たんだ。


 じーっと彩花を観察していると今度は下にしゃがみこみ、ベッドの下を見ていた。


「あれ、おかしいな……」

「何がおかしいんだよ」

「だって、高校生男子ってベッドの下に女の子が載った雑誌とかあるんでしょ?」


 何を探してると思ったが、そういうやつを探していたのか。何のためか知らないが。


「言っておくが、俺はない」

「ほんと?」

「本当だ。で、何で急に俺がそれを持ってるか確認しに来たんだ?」

「たくの好きな女性が知れると思って」

「はぁ……」


 俺の好きな女性を知ってどうするつもりなんだ。


「たくは、どういう女性が好き?」


 いつの間にかメモとペンを持っており、彼女は興味津々に俺が答えるのを待っていた。


 これは答えるまで部屋から出ていってはくれないし、何度も聞いてきそうだし答えるのが1番だな。


「優しい人」

「優しい……他には?」

「頑張り屋さん」

「頑張り屋さん……他は?」

「努力家」

「努力家……じゃあ、胸が大きい人と小さい人どっちがいい?」

「そうだな……む───いや、待て。どんなこと聞いてんだよ」


 最初の方は、俺の好きな人について挙げていったが、最後の質問はおかしい。流れで答えてしまうところだった。


「よし、これでたくの女性の好みがわかったよ。ね、たく。夜にイルミネーション見に行かない?」

「イルミネーションって、駅前の?」

「うん、そうだよ。一度も見に行ったことないから見に行きたいなって」


 なぜ俺なのかと思ったが、そう言えばクリスマスは一緒に過ごすって話したんだった。


「うん、行こっか。夕食を食べた後に」

「やった!」 


 嬉しそうに笑う彩花は、ベッドへ寝転び、寝ようとしていた。


「彩花さん、ここはあなたのベッドじゃないですよ」


 トントンと体を優しく叩くと彩花は、「ん~」と唸って、俺の手を握ってきた。


(ダメだ、このまま寝る展開しかみえん)


「今すぐ起き上がらないと───」

「起き上がらないと何かしてくれるの?」

「えっ?」


 彼女は寝転んだまま俺のことをじっと見つめてきた。


 俺は今すぐ起き上がらないと今日のおやつは何も作らないからなと言うつもりでいたが、彩花から何か期待されているような気がした。


「一緒にちょっとだけ寝てくれたら起きれる。たく、横来て?」


 両手を広げて待つ彩花を見て俺は少し考えてから足をベッドに上げて隣へ寝転がった。


「……わかった。ちょっとだけだからな」

「やったっ、たくとお昼寝~」

「しないからな。寝転がるだけだ」

「む~」

「はいはい」


 頬を膨らます彼女の頭を優しく撫でると彩花は、頬をふにゃりと緩ませた。


(ほんと頭撫でるといつも……可愛いんだよなぁ)


 彼女のその表情が見たくてついつい頭を撫でていると彩花からじっーと見られていることに気付いた。


(はっ! つい触りすぎた……)


 慌てて手を離すと、ほんのり顔が赤いような気がする彩花に服の裾をぎゅっと握られた。


「遠慮せず触っていいんだよ? 私、たくにならどこ触られてもいい……」

「!」


 俺にならって、そういうことを男に言ったらどうなるか彩花はわかって言ってるのか……。


 ぎゅっと拳を握り、深呼吸してから俺は彼女の頬をむに~と触った。


「そういうこと他の男には言うなよ」

「! ふふっ、たくにしか言わないよ」

「そうかな、彩花、危なっかしいし……」

「むむむっ、たくがまた保護者になってる」

 

 ぷく~と頬を膨らましている彼女を見て笑うとそれにつられて彩花も笑う。一緒に寝転がるなんて小さい頃に戻ったみたいで懐かしい気持ちになるのだった。





***




「わぁ~キラキラ!」

「テンション高いのはいいけど迷子になるなよ」


 夕方を過ぎた頃。クリスマス特別メニューを夕食を作り食べてから俺と彩花は、駅前のイルミネーションを見に来ていた。


 いつもよりテンションの高いのはいいのだが、小さい頃のあることを思い出すと迷子になりそうで心配だ。


 また保護者みたいになってると思いつつ彼女の後をついていく。


 イルミネーションを見に来ているのは家族や友人、そして恋人など様々な人が来ていた。


(俺と彩花は、どういう風に見えてるのかな……)


「たく、写真撮ろっ!」

「あぁ、わかった。じゃあ、スマホ貸して」

「たくも撮るんだよ。一緒に撮ろ?」

「お、おう……」


 写真撮ってという意味かと思ったが、どうやら俺と一緒に撮ろうという意味だったらしい。


 腕にぎゅっと抱きつかれ、俺と彩花は、イルミネーションを背景に何枚か写真を撮った。それにしても距離が近すぎる。


「ふふっ、後でたくに送るね」

「ありがとう」


 嬉しそうに撮った写真を確認する彩花を見て、ドキッとした。


 ここ最近、彩花のことを見てドキッしたり、見とれてしまうことがある。俺はどこかおかしいのだろうか。

 

 下を向いて少し心を落ち着かせ、顔を上げると目の前にいたはずの彩花の姿がなかった。


「えっ、まさか……」


 迷子という文字がすぐに頭に浮かび、俺は、慌てて周囲を見渡す。


(どこ行ったんだよ……)


 電話をかけてどこにいるか聞こうとすると後ろを振り返って少し先のところに俺がプレゼントしたマフラーをつけた人が見えた。急いで向かい、後ろ姿を見て彩花だと確信すると名前を呼んだ。


「彩花!」

「たく!」


 彼女は、うるっとした目で俺の胸に飛び込んできた。


「人の波に押されちゃって」

「人多いしこうなるなとは思ってたよ。けど、彩花がそのマフラー巻いてたからすぐに見つけることができた」

「! たくからもらったプレゼント巻いててよかった。あっ、たくも私がプレゼントしたマフラーつけてくれてる。温かい?」


 背伸びして両手で俺の頬を触る彼女は、顔を近づけてどうかと尋ねた。

 

「温かいよ。手も温かいな」

「ふふっ、手袋してたからぬくぬくだよ。たく、手出して?」

「手?」


 よくわからず手を出すと彩花はその手をぎゅっと握ってきた。


「人多いから、帰るまでの間だけ手、繋いでもいい?」

「知り合いに会ったらどうするんだ?」

「その時はその時で」


 夜だし、人の顔があまりハッキリ見えないから大丈夫だろうと思った俺は、彼女の手を握り返した。


「……まぁ、はぐれた方が嫌だしな。帰るまでだけだからな?」

「うんっ!」

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