第22話 抱きついていい条件

「私のは俊くんのですね。可愛らしい綺麗なコップです」


 彩花は俊からのプレゼントが当たったようで、もらったコップをうっとりと見つめていた。


「いいね、透明なコップ。私は彩花からのプレゼント。わっ、お菓子セットとメモ帳だ」


 小雪さんが喜んでくれているのを見て彩花は、嬉しそうな笑顔だった。


「たくは、こゆちゃんから?」

「うん、小雪さんから」


 小雪さんからもらったプレゼントを開けるとそこにはハンドクリームと使いやすそうなシャープペンシルが入っていた。


「ごめんね、ハンドクリームとか困るよね」

「ううん、ありがとう。嬉しいプレゼントだよ」


 プレゼント交換会をやってみて思ったことがある。誰に渡すか決まっていればいいが、誰の元へ渡るかわからない場合、プレゼント選びは難しいということ。


 交換会が終わると俺が今朝から作って冷やしていたケーキを食べることになった。


 ケーキは彩花からのリクエストがあったので、チーズケーキにすることに。


「いや、凄すぎるわ。パティシエでも目指すのか?」


 ケーキを包丁で分けていると俊からそう聞かれるが、俺はパティシエを目指すつもりは全くない。


「目指してないよ。けど、まぁ、カフェでもいて作った料理を誰かに提供したいなとは思ったことがあるけど」


「へぇ~、もしそれが実現したら絶対に食べに行くわ。なっ、彩花さん」

「うん、絶対行く。たく、食べてもいい?」

「どうぞ。2人も食べていいよ」


 分けたケーキを彩花、小雪さん、俊に渡し、それから自分の分を取った。


(作りすぎたな……)


 作りすぎた分は冷蔵庫にでも置いて明日のおやつにでも食べよう。




***



 夕方頃になると俊と白石さんは、家に帰った。彩花がいるので寂しさはないが、2人がいなくなるといつもの感じに戻った気がした。


 小雪さんからもらったプレゼントを置きに自室へ入り、置いてからすぐにベッドへ寝転がった。


(彩花へのプレゼントは、明日にしようかな……)


 プレゼント交換会用に買いに行った時に、俺は彩花へのプレゼントも買った。


 あのプレゼントを渡したら彩花はどんな顔をしてくれるのかとても楽しみだな。


 目を閉じてそのまま寝そうだったが、コンコンとドアをノックされて目が覚める。


 彩花だろうと思い、どうしたかとドア越しに聞くとそっーと扉が開いてひょこっと彼女は顔を出した。


「たく、寝てたの?」

 

 ゆっくりと起き上がった俺を見て寝ていたのだろうと思った彩花は、ゆっくりと中へ入ってきた。


「ううん、ちょっと寝転がってただけ。どうかした?」


 ベッドから降りて足を下につけて座ると、目の前にいる彼女は、目線を下に向けながら話し出した。


「じ、実はたくに渡したいものがあるの……」

「渡したいもの?」

「うん……この前、ショッピングモールにプレゼント交換会のためのものを買いに行った時、たくに渡す分も買ったの。喜んでくれるかわからないんだけど……」


 彼女は、手に持ち後ろに隠していた袋を俺に手渡した。


「これは……」

「マフラーだよ。たく、持ってないでしょ?」


 誕生日でもないのにと思ったが、これがクリスマスプレゼントだとすぐに気付いた。彩花も俺と一緒で同じことを考えていたんだな。


「ありがとう、彩花。実は俺も渡したいものがあるんだ」


「私に?」


 明日に渡すつもりでいたが、タイミング的に今の方がいいだろう。


 机に置いていたものを彩花へ渡すと嬉しそうに中に入っているものを取り出した。


「マフラー?」


 自分がプレゼントしたものと一緒で驚いた彼女は、ゆっくりと顔を上げて俺のことを見る。


「まさか彩花からマフラーをプレゼントしてくれると思わなかったよ」

「私もビックリ……。ありがとう、たく」


 彼女はぎゅーと嬉しそうにマフラーを抱きしめてから自分の首に巻いた。


「えへへ、どうかな?」

「!」


 ニコッと笑う天使のような笑顔に俺はまたドキッとした。体が広がるように熱くなっていく。


「に、似合ってる……」

「! ふふっ、これから毎日使っちゃおうかな」


 喜ぶ顔が見たくて、嬉しそうな顔が見たくて、用意したプレゼント。喜んでもらえると自分まで嬉しくなる。


 彼女からもらったマフラーを見ていると彩花は、俺の隣に座り、腕にぎゅっと抱きついてきた。


「たく、明日のクリスマスは一緒に過ごそ? 外は寒いから家で」

「うん。明日の夕食は、俺に任せてもらえない? シチューを作ろうと思ってるんだ」

「たくのシチュー! 食べたい、任せます!」


 小さい頃、クリスマスは、いつも俺と彩花の家族で集まって過ごしていた。その夜にはいつもシチューを作って食べていた。


 多分、俺も彩花もクリスマスといえばシチューを食べる日だと思っているだろう。


「じゃあ、明日の朝は彩花に任せる」

「うん、わかった」


 

***



「いつまでこうしてるんだ……」

「寒いもん。くっついてたら温かい」


 あれから数分経過した。彩花は、俺の腕にくっついたまま離れない。


 柔らかいものが押し当てられ、俺はずっと無でいたが、やはり限界が来る。


「あのな、彩花。付き合ってもない人に抱きつくのはよくないと思うんだ」

「じゃあ、付き合う。たくと抱きつきたいし」

「ダメです」

「ふにゅ」


 軽くチョップすると彩花は、ムスッとした顔で俺のことを見てくる。


 抱きついたいだけに付き合うのはどうなのか。たまに彩花は危ない発言するから怖い。俺が男だとわかっているのか。


「昔は一緒に寝てくれたし、抱きつきオッケーだったのに今のたくはダメばかりだね……私のこと嫌いになっちゃったの?」


「! き、嫌いだったら明日のクリスマス、一緒に過ごすとか言わない……」


 確かに小さい頃は一緒に寝たり、抱きつかれても何も言わなかったが、今はもう高校生だ。小さい頃とは違う。


「やっぱりたく、すき」

「ちょ、また抱きつくな」


 離れたくても物凄い力で抱きついてくるので離れられない。


 このすぐにハグする癖は直してほしいものだ。俺が困る。


「じゃあ、どうしたら抱きつくのオッケーになるの?」

「何してもダメです」

「む~、昔はたくからハグしてくれたのに……」

「そんな記憶はないんだが?」


 まぁ、したことがないと言えば嘘になるのだが、俺からハグすることなんてほとんどない。


「……わかった。これなら俺がどんな気持ちかわかるだろ?」


 このままヤられっぱなしなのは嫌なので彩花を力強く抱きしめると彼女から「ひゃっ」と声がした。


「た、たく?」


 これで抱きしめられる方がどれだけドキドしてるか彩花もわかるだろう。


「ど、どうだ?」


 急に何やってるんだろうと我に返ったが、恐る恐る俺は彼女に尋ねる。


「幸せ」

「!」


 やり返すはずがこれじゃあ、俺だけがまたやられただけじゃないか。


 これ以上やっても意味はないのでバッと手を離し、彼女から離れると彩花はまたムスッとした顔になるのだった。

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