第17話 不意打ち

 お化け屋敷を出るといろんなショップを見つけたので、そこに立ち寄ることになった。


「たく、見てウサギ」


 トントンと肩を叩かれたので後ろを振り替えるとそこにはうさみみのカチューシャをした彩花がいた。


 満面の笑みでこちらを見るので俺はまたドキッとさせられた。相変わらず彼女の笑顔に弱すぎるよな。


「可愛いし似合ってる」

「ほんと!? ふふっ、ありがと」


 彩花は、カチューシャを外し、元の棚へ戻し、別のコーナーを見始める。


 お土産として何か買って帰りたい気持ちはあるが、今買ってしまうと荷物になってしまう。買うのは後にした方がいいだろう。


 どれにするかを選ぶだけ選び、俺と彩花は何も買わずにショップから出てきた。


 出るとさっき午前中に乗ったジェットコースターに乗りたいねという話になり、もう一度乗りに行くことに。


 その後は、まだ行っていなかった乗り物へ乗っていき、この遊園地にある乗り物の半分以上乗っていた。


「もうこんな時間……楽しい時間はあっという間だね」

「そうだな」


 遊ぶのに夢中になるのは久しぶりだ。気付けば夕方になっており、そろそろ帰らなければならない。


「たく、最後に観覧車乗ってもいい?」

「うん、乗るって話してたしな」


 帰る前に最後、観覧車に乗ることに。乗り場まで行き、並んでいなかったためすぐに乗ることができた。


 今日乗った乗り物は凄い早さで動くものが多かったが、観覧車はゆっくりだ。


 彼女とは向かい合わせに座り、ゆっくりと上に上がっていく中、外の景色を眺める。


「観覧車、久しぶりかも」

「私も久しぶり……今日は楽しかったね」

「うん、思ったよりも楽しめた」


 子供の頃より楽しめないだろうと思ったが、自分自身とても楽しんでいた。また彩花と2人で来ることが出来たならいいな。


「たく、隣に座ってもいい?」


 彼女はあまり対面を好まない。対面だと距離を感じるからだそうだ。


 首を縦に振り、コクりと頷くと彩花は、ゆっくりと立ち上がり俺の隣に座った。そして彼女が肩にもたれかかったその時、ふわっとしたいい香りがした。


 座るところに手を置いていると、手の甲にそっと小さな手が乗せられた。驚き、ゆっくりと彼女の方を見ると名前を呼ばれた。


「たく」


 吸い込まれるような瞳に目が離せない。しばらく見つめあっていると彩花が顔を近づけた。そしてその瞬間に頬に柔らかいものが当てられた。


(いっ、今……)


 ゆっくりと手を頬に当ててさっき起きた出来事を思い出そうとすると彩花が大きな声を出した。


「わっ、見て綺麗だよ」

「……ほんとだ」


 彩花に言われて外の景色を見て気付いた。頂上過ぎてしまったが、高い位置からの景色はとても綺麗だ。


 外の景色を眺めていると後ろから服の裾をクイクイと引っ張られた。後ろをゆっくり振り返るとそこには顔を真っ赤にした彩花がいた。


「さ、さっきのは愛情表現だから……」

「愛情、表現……抱きつく以外にもあるんだな」


 不意打ちの愛情表現は心臓に悪すぎる。心臓がいくつあっても足りる気がしない。


 観覧車が1週回り、下へ到着するとお土産を買うために俺と彩花はショップの方へと向かった。


(俊にも何か買ってあげようかな……)


 お菓子で美味しそうなものを手に取り、そして自分用も買うことにした。


 ショップを堪能した後は、遊園地を出て、夕食は帰ってから料理をするのも面倒なので食べて帰ることにした。


 食べて家に着いた頃にはもう外は暗く、かなり疲れていた。高校生になってから日頃、あまり運動していないせいだろう。


「疲れた……けど、楽しかった」


 ソファに座り、今日あった出来事を振り返り、楽しい気持ちに浸っていた。


「たく、お風呂沸かしておくね」

「ありがと」


 彩花は、俺と違って元気そうだ。そこまで疲れていないということだろうか。


 彼女は、お風呂を沸かした後、俺の隣に座り、ぎゅっと腕に抱きついてきた。


「どうしよう、たく……」

「ん? 何かあったのか?」


 暗いトーンで話すのでお風呂に何か問題でもあったのかなと思っていると彩花はもう一度ぎゅっと俺の腕に抱きつく。


「思い出したら怖くなった……」

「えっ?」


 何のことかはすぐにわかった。おそらく思い出したことはお化け屋敷のことだろう。


「お風呂入れないかも、だから今日は一緒に──」

「入りません。頑張って入って」

「ムリ……」


 恋人関係ではないただの同居人と一緒にお風呂になんて入るわけにはいかない。彼女が怖いからと言って1人で入れないとしても。


 ポンポンと彼女の頭を触り、安心させようとしたがダメだった。


 一緒に入ることは断り、その代わり彼女が入っている間はお風呂場の外で俺は待っていることになった。

 

 外で座って待っている間、シャワーの音がして、変な妄想をしそうな気がして、イヤホンをして音楽を聞くことにした。


「たくーいる?」


 本当にいるのかと確認してきたので俺はイヤホンを外しているよと返事をする。


「ほんとにほんと?」

「ほんとにほんとだよ」


 声が返ってきた時点でいると信じるものではないだろうか。いることをわかってもらうためにコンコンと扉を叩くと彩花が扉を開けた。


「ちょ! 何で開けてんの!」

「えっ、だって、コンコンってしたから何かあるのかなって……」


 後ろを向いて座っていて良かった。今、振り返ったら彩花の……いや、想像するのはやめよう。


「何もないから引き続きお風呂どうぞ」

「う、うん……」


 ドアが閉まり俺は、ふぅとため息をつく。そして再びイヤホンをつける。


 そして何とか彩花がお風呂に入り出るとその後に俺が入ろうとしたのだが、彩花も入ろうとしていた。


「ゲームしてたら気が紛れるんじゃないか?」

「ゲーム……」


 俺から離れ、テレビゲームをしにいく彩花。これで何とかお風呂に入れる。


 お風呂から出ると彩花と一緒にゲームをし、怖い気持ちはなくなったんだろうと思っていた。


「じゃあ、お休み」

「……うん、おやすみ」


(彩花、大丈夫かな……)


 彩花は自室へ入り、ドアを閉めるとベッドの上に座り、スマホで猫の動画を見ることにした。だが、1人になるとまた思い出してしまった。


 動画を見るのをやめ、部屋を出ると隣の部屋へ向かった。


「たく、一緒に……もうねちゃったのかな」


 部屋が暗く、彩花はゆっくりと中に入り、そして起こさないように布団の中に入った。



 





          

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