第15話 幼馴染みでも

「むむむ、あり得ない展開」


 寒くて外に出れない休日。俊から『この前、如月さんと手繋いでいたの見たぞ』とメッセージが来ているのに気付き、マジかと思っているとソファに座って漫画を読んでいる彩花がボソッと呟いた。


 小説は読むが漫画はあまり読まない彩花だが、どうやら友達の白石さんに借りた漫画らしい。


「どうした?」

「あっ、たく。ね、聞いて」

「はいはい、どうしました?」


 隣に座るとグッと俺の方へ寄ってきて、漫画のあるページを開いて見せてきた。


「この男の子、幼馴染みの子じゃなくて最近仲良くなった同級生を選んだの。どう思う?」


「どう思って……好きになったから選んだんだろ?」


 この漫画は1ページ見ただけで恋愛ものとわかった。あまり詳しくはないが、これは三角関係ラブコメというやつだ。


 どうやら彩花は、男が幼馴染みではなく最近仲良くなった女子を選んだことに不満らしい。


「幼馴染みは小さい頃からずっーとこの男の子が好きなのに何で結ばれないんだろう……」


 確かに付き合いが長い方が互いに相手のことを知っていて恋愛関係に発展しそうだけど、最近の話って幼馴染み同士はあまりくっつかないんだよな。


「幼馴染みよりもその最近会った女子の方が魅力的だからじゃない?」

「魅力、的……。私、頑張る!」

「お、おう……」


(何を頑張るのかな……?)


 疑問に思いつつ俺はあることを思い出し、ソファから一度立ち上がり、引き出しに入れていたチケットを取り出した。


「そうだ。この前、ショッピングモールで抽選会があって遊園地のペアチケットが当たったんだけど、彩花いる?」


 俊と2人で遊園地というのもあまり想像できないので彩花に遊園地のチケットを渡すと彼女は受け取った。


「遊園地? もらっていいの?」

「うん、俺は行く人いないし」

「……じゃあ、私と行く?」

「彩花と?」


 まさかの提案に驚く。彩花にもらってもらい、友達と行くと言い出すかと思っていたが、誘われるとは。


「うん、たくと遊園地行きたい。ダメ?」

「……俺でいいなら。2人で行こうか」


 友達と行ってきたらと言うこともできた。けれど、彩花と遊園地に行ったら楽しいだろうと思った。


「うん、行こっ。いつにしよっか、明日にする?」


 俺と遊園地に行けることがとても楽しみなのか彩花は嬉しそうにニコニコしながらスマホでスケジュールを確認する。


 楽しみと思うのは彩花だけではなく俺もだ。彩花と遊園地に行くのは今回で2回目。1回目は、小さい頃に家族で行った。


(2人ってことは遊園地デート……)


 いやいや、付き合ってないからデートとは言わないか。


「私は明日空いてるよ。たくはどう?」

「俺も大丈夫。明日にしようか」

「うんっ! 楽しみだな」


 彩花は両手を合わせて微笑む。嬉しそうな表情をする彩花を横から見ていると俺まで笑顔になる。


「そう言えば、この遊園地、私、行ったことないけど、たくはある?」

「ううん、俺もない」


 遊園地自体、その彩花と行った遊園地以外行ったことがない。友達と行くとなったらショッピングモールやカラオケ、ファーストフード店とかそういうところだ。


「なら2人とも初めてだね。たくは確か絶叫系乗れるんだっけ?」

「うん、乗れるよ。彩花も乗れたよな?」

「乗れるよ、ちょー得意。よしっ、遊園地行くと決まったら服決めないと」


 彩花はバッとソファから立ち上がり、明日、着ていく服を決めに自室へ走っていった。


 早すぎてはないかと思ったが、事前準備は必要だろう。デートではないが、ダサい格好にならないよう先に服を決めておこうかな。


 


***




 翌日。徒歩で行ける場所ではないので駅まで歩き、電車に乗った。休日だったため電車は混んでおり、彩花は、離れないように俺の服の袖をぎゅっと握っていた。


 彼女はドアの方にいてその前に俺が立っている。誰かに押されたり、急ブレーキでバランスを崩した時に彼女の方へ倒れないよう、気を付けようとしているので変なところで体力が削られる。


 体勢にきついと感じていると目の前にいる彩花が心配そうに顔を覗き込んできた。


「たく、大丈夫? 私の方、寄ってきていいよ」

「だっ、大丈夫……彩花こそ大丈夫か?」

「私は大丈夫。人いっぱいだね、遊園地も混んでるかも」

「そう、だな……」


 大丈夫とは言ったが、この状況が後10分も続くのか。耐えられる気がしない。


「次は────」


 アナウンスが鳴り、もうすぐ駅に止まる。確か次の駅は人がたくさん乗ってくるはず。


 そしてその予感は当たり、電車が止まるとたくさんの人が降り、そして降りた人の倍の人数が乗り込んできた。


 背中を押され、俺は彩花の方へ自然と寄らなければならなくなり咄嗟にドアのところに手をついた。


「! ご、ごめん……」

「ううん、もっと寄っていいよ。知らない人と距離近い方が嫌でしょ?」


 そう言った彩花は俺の服から手を離し、今度は俺の背中に手を回し、ぎゅっと抱き締めそして自分の方へ寄せた。


(ち、近っ!)


 確かに彩花の言う通り、知らない人と距離が近いより知っている人と距離が近い方がいいけど、この距離だと俺がドキドキしていることが彩花に伝わってしまう。


 どこ見てたらいいかわからないし、ずっと柔らかいものが体に当てられてるし、理性がゴリゴリに削られている。


 そんな状態が何分も続き、数分後。駅に到着し、満員電車から解放された。


「疲れた……」


 まだ遊園地にも着いていないのにもうヘトヘトだ。一方、隣にいる彩花は満面の笑みだった。彼女の笑顔を見ていると癒され、疲れが吹き飛んだ。


 改札を抜けて遊園地がある方へ歩いていると彩花が急に俺の腕に抱きついた。


「たく、見てみて。ここから見えるよ」

「ほんとだ、観覧車が見えるな」


 ここに来る前に一応、今回行く遊園地にはどんな乗り物があるか、食べるところはあるか詳しく調べた。


 今回の目標は彩花を楽しませることとさして自分も楽しむこと。せっかく来たので帰りに楽しかったと思える1日にしたい。


「彩花」

「? どうしたの?」

「今日は楽しもうな」

「……うん、楽しもっ」




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