第14話 寄り道

 11月下旬。彩花が放課後、ファーストフード店に寄り道して夕食を食べたいそうで、今日は学校から家に帰らず、俺と俊がよく行く店へ行くことに。


 学校は4時に終わり、この時間帯から夕食は早いので1時間程ショッピングモールで遊んでいた。


 俺と彩花だけが行くのではなく俊と彩花の友人である白石さんもだ。


 4人でショッピングモールで遊び、5時頃に目的の場所へと向かった。到着すると先に空いている席を探した。


「あっ、4人席空いてるよ」

「ほんとだ。彩花と永瀬くんは隣同士で座る?」

「いや、男女で。俊、そっちな」


 彩花が頬を膨らませながら俺の目の前に座っていたが、気にしないでおこう。


 決して彼女と座りたくなかったわけではない。彩花と隣同士になったら抱きつかれる予感しかしないからだ。


「じゃ、みんなで注文しに行くのはあれだから2人行って、2人はここに座っとこっか」

「賛成。先に彩花と永瀬くん、行ってきたら?」


 白石さんにそう言われて彩花はすぐに席を立ち、俺の手を取った。ここは断る理由もないので彩花と一緒に1階へ降りて注文することに。


「後で払ってくれればいいからまとめて注文しよう。彩花、どれにするか決まった?」

「うん、チーズハンバーガーとポテトとアイスティーのセットで」

「わかった」


 彩花が注文するものを覚え、2人分の注文をまとめてした。トレー1つに全て乗ったので俺が持つことに。先頭に階段を上がっていると彩花がお礼を言う。


「たく、持ってくれてありがと」

「どういたしまして」


 彩花に持たせたら嫌な予感しかしない。この前、持つよと言って彼女に任せたらグラス落としそうだったし。


 2階へ到着すると俊と白石さんがいるテーブルへと向かいトレーを置いた。


「お帰り、匠、如月さん。よし、次は俺と白石さんで行くか。2人は先に食べて」


 俊はそう言って白石さんと1階へ行って注文をしに行った。


 先に食べていていいということで俺と彩花は先に食べることにした。


「はむっ……んんっ、美味しい」


 ハンバーガーを一口食べ、幸せそうな表情になった彩花を見ているとこちらまで幸せな気持ちになる。


 ポテトを摘まみながら彼女のことをじっーと見ていると彩花が顔を覗き込んできた。


「たく、私の口元に何かついてる? ケチャップかな?」


 俺がじっーと見ていたので何か口元についていると思った彩花は、ティッシュで取ろうとしていた。


「ううん、大丈夫。チーズハンバーガー美味しい?」

「うん、美味しいよ。たくのてりやきはどう? そっちも美味しそう」

「一口食べる?」

「いいの?」


 食べかけだったら一口食べないかと言っていないだろうが、まだ一口も食べていない。


「うん、どうぞ」

「ありがと、たく。たくもチーズの方食べてみて、美味しいから」

「ありがとう」


 完全に2人で来たみたいになっており、ハンバーガーを交換し、2人の空間を作り出していると俊と白石さんが帰ってきた。


「やっぱり仲良いよね、2人。付き合ってるんじゃないかって思うぐらい」

「だよな。まぁ、2人は幼馴染みって言うけど」


 俊と白石さんは、イスに座り、各自、買ったものを食べ始める。


「たく……みくん、てりやきも美味しかった。後でデザートのアイス買いに行こ」

「ん、俺も買いに行こうと思ってたから一緒に買いに行こっか」


 いつも不思議に思うことがある。彩花は、友達の前では俺のことをたくとは呼ばず匠くんと呼ぶ。別に嫌ではないのだがなぜなんだろうか。


 下の名前を呼ぶことにこの前苦戦してたみたいだけど、普通に匠くんって呼べてるんだよなぁ。


 4人で楽しく話しながら食べた後、解散となり、俊と白石さんと別れると彩花にぎゅっと優しく手を握られた。ゆっくりと彼女の方を見るとニコッと天使のように微笑んだ。


「みんなで放課後こうして食べるのいいね。何だか青春っぽいことしてた」

「まぁ、うん、そうだな」


 手を繋いでいたら恋人同士だと誤解されるから離してといつもなら言うはず。けれど、握られた彩花の手は冷たかったので離すことができなかった。


「彩花、寒くないか?」

「ちょっとだけ……夜だと日中と違って寒いね」


 冬も近づきだんだんと気温が低くなってきている。寒くて当然だ。


 一度手を離し、俺は着ていたジャケットを脱ぎ、彼女の肩にかけた。


「たく?」

「寒いなら着てくれ。嫌なら肩にかけるぐらいでいいから」

「……ありがとう」


 ニコッと微笑んだ彩花は迷わずジャケットを着て俺の手を取った。


「えへへ、どうかな? ちょっと大きいけど」

「……い、いいんじゃないかな……。言っておくけど、貸すのは今日だけだからな」

「ふふっ、わかってるよ」


 彩花にはこう言ってないとまた勝手に着られそうだ。


「ね、昔もこうして手繋いだよね。たくと手繋いでると安心する」

「そうだな。怖いことがあった時だけ握る力強かったの覚えてる」

「えっ、そうなの?」

「うん、凄かった」

「そうなんだ。たくと出会ったのって5歳の頃だっけ。もう10年経つね」


 10年か……早いな。最初、彩花は人見知りで俺と話すことさえ難しかったのにいつの間にかベッタリで近所の人からは兄妹みたいと言われてたっけ。


 懐かしい気持ちに浸りながら彼女がつけているヘアピンをチラッと横目で見た。


『探してるものってこのヘアピン?』

『? あっ、それ私の……』

『はい、どうぞ。大切なものは絶対に手放すなよ』

『う、うん……ありがとう』


(小さい頃からずっとつけてるってことは大切なものなんだよな)


「あっ、スーパーあるよ。寄っていく?」

「うん、明日のお弁当に入れるもの買いたいから寄りたい」

「わかった。じゃ、行こっか」


 このスーパーなら学校から離れていて誰かに見られることはないと思い、俺は手を繋いだまま、スーパーの中へと入った。






          

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