第13話 愛情表現

「あれ、スープ?」


 お昼休み。彩花がカバンから出したものを見た小雪は、紫色のステンレスカップを見る。


「うん、ここ最近は寒いから温かいものをってことで匠くんが買ってくれたの」


 私が紫色のステンレスカップの蓋を開けるといい匂いがした。


「おぉ、永瀬くんやるなぁ。温かいままなの?」

「うん、触ってみる?」


 冷めていないのかと気になっているので、私は、小雪にステンレスカップを触らせる。


「わぁ、温かい。凄いね、私も買ってみよ」


 このステンレスカップは、中に入っているスープの温度を保ち、今朝入れたものでも冷めることはない。


 お弁当を食べる前にスープを飲み、体を温めた。


 たくが今朝、作ってくれたところを想像していると顔がニヤついてしまった。


「彩花、お顔がニヤけてますよ」

「ふふっ、嬉しくて。たくが作ってくれたお弁当にスープ……幸せ」


 冬になる前は私が2人分のお弁当を作っていたが、冬になってからはたくが作ってくれている。


 朝から2人分作ることになって負担になっていないか心配で前に大丈夫かと聞いたが、作るのは嫌いじゃないから大丈夫だよと彼は言った。


 ずっとたくのお弁当を食べていたいが、春になったらまた私が朝、お弁当を作ろう。




***




 家に帰ると甘い香りが広がった。この匂いは多分、パウンドケーキだ。


 玄関で靴を脱ぎ、キッチンへ顔を出すとたくが私のことに気付いた。


「たく、ただいま」

「あっ、お帰り彩花。パウンドケーキ作ってるんだけど食べる?」

「食べる!」


 即答したのでたくにクスッと笑われ、カバンを置いてくること、手を洗うことと言われた。


 たくってやっぱり保護者みたい。私が手を洗わず食べるわけないのに。


 言われた通りカバンを置いて、手を洗ってからリビングへ向かい、パウンドケーキができるまでソファに座って編み物をすることにした。


 編み物はあまりしたことがないが、やっていてとても楽しいし、完成したものが見たいので頑張れる。


 集中して編み物をしていたため、パウンドケーキが目の前のテーブルに置かれたこともたくが隣に座ったこともすぐに気付かなかった。


「わっ、たく。いつの間に……」

「結構前からいたよ。パウンドケーキどうぞ」

「いい匂い……ありがと」


 編み物をやめてたくが作ってくれたパウンドケーキを食べることにする。


「いただきます」


 一口パクっと食べると口の中に甘い香りが広がった。いつもたくが作ってくれる味だ。


「美味しい。たくのパウンドケーキは、やっぱり美味しいね」

「ありがと。夢中になってたみたいだけど、編み物?」


 たくは、私の横に置かれているやりかけの編み物を見て尋ねてきた。


「うん、マフラー作りにチャレンジ中。完成したらたくに見せるね」

「うん、楽しみにしてる」


 パウンドケーキと共に用意してくれた紅茶が入っているティーカップを手に取り、飲む。


「んっ、この紅茶好き。ハチミツ紅茶?」

「うん、正解。友達が美味しいから是非飲んでみてほしいって勧められたんだ」

「友達……」

 

 宇都宮くん……ではなさそう。となるとこの前、たくと話していた雨宮さんって子かな。


「そう言えば、スープはどうだった? 冷めたりしてなかった?」

「大丈夫だったよ、温かかった。こゆちゃんが私も買ってみようかなって言ってた」

「そうなんだ」


 パウンドケーキと紅茶という組み合わせはとても合っており、気付けば完食していた。


 たくもパウンドケーキを食べていたので、まとめて私がキッチンへ皿とティーカップを持っていく。


「お皿洗うね、作ってくれたお礼に」

「ありがとう」


 たくにはソファに座ってゆっくりしてもらおうと思っていたが、彼がこちらに来た。


「たく、どうしたの?」


 お皿を洗いながらこちらへ来たたくは、カウンターテーブルに手をついた。


「この前、白石さんに永瀬くんって彩花のことどう思ってるのかって聞かれたんだ」

「こゆちゃんに?」

「うん。彩花は、俺との関係って何だと思う?」

「関係……幼馴染みっていうのは何か違う気がする……たくはそのこゆちゃんの質問にどう答えたの?」

「…………」


(たく?)


 黙り込み、たくの顔を見ると目をサッとそらされた。私には言いたくないことをこゆちゃんには言ったのだろうか。


(きっ、気になる……)


 食器を洗い終え、たくの背後に回り、後ろからぎゅっと抱きしめた。


「彩花?」

「答えてくれるまで離さないよ。何て答えたの?」

「……かっ、家族……」

「! そ、そうなんだ……嬉しい」


 私はたくと恋人関係になるのが目標だけど、家族という関係は悪くはない。ただの幼馴染みという関係じゃない。私とたくは、家族か……ふふ、いい。凄くいい。


 背中にピトッとくっつき、しばらくニヤニヤしているとたくがリビングへ行こうとする。


「答えたから離れてくれるんじゃないのか?」

「あっ、ごめん。たくにぎゅーとするの好きだからつい」

「ついって……」


 小さく笑みを浮かべ、たくから離れると私はソファに座り編み物を再開する。


 たくが隣に座り、幸せ空間に浸っていると私はあることに気付きハッとした。


 待って、家族と言われて喜んでいる場合じゃない。私は、たくと家族……まぁ、いずれ家族になりたいんだけど、まずは、お付き合いから始めたい。


「たく!」

「うおっ、急な体当たり」


 何も考えずたくに抱きついてしまった。そしてまた体当たりしてしまった。


「どうした? 怖いことでも思い出したのか?」


 たくは、私の心配をしてくれて、頭を優しく撫でてくれる。こういう優しさが私は好きだ。昔から変わってない。


「ううん、たくのこと好きっていうアピール。たく、大好き」


 彼をぎゅっと抱きしめるとたくの耳が赤くなった。


(照れてる……可愛いなぁ)


「たく、今、何考えてる?」


 耳元で小声で話すとたくは、少ししてから口を開いた。


「何って……そうだな、彩花は小さい頃から俺に抱きつくことが多いなと思った」

「ふふん、私なりの愛情表現だから」

「そうだったんだな、それは初耳だ。それよりくすぐったいから耳元で囁くのはやめてくれ」

「ふふっ、ごめん」


 むぎゅ~とたくにしばらく抱きついていると彼が私に聞いた。


「彩花は今、何考えてるんだ?」

「私? 私はね……たくのことかな。たくのこと好きすぎて毎日たくのこと考えてる」

「それ授業に集中してないやつだ」

「ふふっ、確かに」


 本当のことだけど多分、たくは、私が冗談で言ってると思ってるんだろうな。まぁ、そういうところも含めて好きなんだけど。






             

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