第10話 安心

 小学生5年生の頃。俺の家の家族と彩花の家の家族でキャンプに行った。この時も彩花は俺にベッタリでどこへ行くにも2人で行動していた。


 夕食が終わり、大人達は、まだ起きているそうで、俺と彩花は先にテントの中に入ることにした。


 彼女は、暗いところが苦手で俺の腕にくっついて、歩く。


「たく、怖い……どこかに行かないでね」

「どこかってどこだよ。俺は、彩花から離れるつもりはないよ」


 彼女は怖がりだから1人にするわけにはいかないと思っていたからこう言ったのだが、彩花には違う意味で伝わってしまった。


「それ、告白?」

「違うよ。ほら、テント入って」 


 ファスナーを開けて、彼女を先にテントに入れる。本当は、俺と彩花は、別々のテントで寝るつもりだったが、俺の母さんと彼女の母さんから彩花と寝てほしいと頼まれた。断ることもできなかったので、彩花と寝ることに。


「たく、楽しいお話しよ」

「楽しい……難しいな。姉の話でもいい?」

「聞きたいっ!」

「ん、じゃあ───」


 楽しい話なのかわからないが、彩花は、楽しそうに話を聞いてくれた。さっきまで怖がっていたが、今は、大丈夫そうだ。


 話が終わった頃には彩花は、うとうとして眠たそうだった。


「寝るか?」

「んん……寝る前になでなでしてほしいな。してもらったら安心して寝れる気がする」

「何だよそれ……」


 そう言いながらも俺は、彼女の頭に手を置いて優しく撫でた。


「ふふっ、安心する……たくもやってあげようか?」

「俺は……ってまだ答えてないんだけど」


 答える前に彼女に頭を撫でられる。嫌ではないので俺は撫でてもらうことにした。




***




「ふふっ、いい……」


 家に帰ってくると彩花は、リビングのソファに座り、嬉しそうにスマホで何かを見ていた。


 小さい頃のキャンプのことを思い出しながら干していた洗濯物を回収し、畳み終えた俺は、何を見ているのか気になり彩花の隣に座った。


「何見てんの?」

「!! だっ、だめ、たくには見せれない」


 隣に座ったらいつもなら肩に寄りかかってくるのに初めて逃げられた。別に近寄ってほしいわけじゃないが、悲しくなる。


 それより俺には見せられないものって何だろうか。怪しいサイトに入ってないだろうな。また過保護と言われそうだが、心配だ。


「俺に見せられないものって?」

「い、言えない……言えるは、私が好きなものってことだけ」


 彩花が好きなものか。思い付くのは猫だが、猫の写真を俺に見せられない理由がわからないしな。猫はないだろう。


 他にあるとしたら彩花が好きな人だろか。俺に好きと言いつつ他に好きな人ができて、それを俺が怒るかもしれないと思ったから見せられないと言った。これだ!


「彩花の好きな人の写真でも見てたのか?」

「!!」


 俺の質問に彩花は、図星なのかビクッと体が動いた。


(これは、当たりなのか?)


「み、見てない……とにかく、たくには教えられない」

「そっか」


 まぁ、無理やり聞くのもあれなので、追及するのはここまでにしよう。


 テレビでも見ようかなと思い、机の上にあるリモコンを取ろうとすると、彩花がいつものように肩にトサッともたれ掛かってきた。


「彩花……?」

「たく、頭撫でてほしい……」

「急だな。何か寂しいことでもあった?」

「……ううん、撫でてほしいだけ」


 ふふっと小さく笑う彼女の頭を優しく撫でると、彩花の表情がふにゃりと緩む。もういいかなと手を止めると彩花は、俺の服の袖をぎゅっと握ってきた。


「たく、もっとして……」

「っ!」


 上目遣いでお願いしてくる彩花に俺はドキッとして心拍数がどんどん上がっていく。

 

「ちょ、ちょっとだけだからな……」

「ふふっ、ありがと。昔、たくがこうして頭撫でてくれたよね。私、たくに触られるの好き……ふゆっ!」

  

 頭を撫でていたが、軽くチョップすると彩花は、頭を手で擦る。


「そういうことは簡単に男に言うもんじゃありません」

「む~、なんでよ……ほんとなのに……」

「ほんとでも駄目です」


 ほんとに心配だ。彩花が、いつか変な男に勧誘されてそれを受けそうで。


「ね、たく……夕食は、何食べたい? たくの好きなハンバーグにする?」 


 冬になって当番が変わったので、夕食を作るのは彩花だ。


「おぉ、食べたい。チーズものせてほしい」

「わかった。愛情込めて作るね」

「う、うん……ハンバーグ作るなら俺も手伝っていい?」

「うん、いいよ。ちょっと早いけど今から作ろっか」


 ソファから立ち上がり、キッチンへ移動して2人並んで立つ。役割分担してハンバーグをつくっていると彩花は、嬉しそうに微笑んだ。


「たく、こうしてると何だか夫婦みたいだね」

「そう……かな……?」


 横にいるエプロン姿の彩花を見て、やっぱり彼女には似合うなと思った。


「ね、今日、話してた女の子って友達?」

「話してた……あー、雨宮さんのことか。まぁ、友達かな。席が近くてよく話すんだ」

「へぇ……」

 

 さっきまでニコニコの笑顔だったが、彩花の表情が、暗くなった。


「たくは、その人のこと好きなの?」

「えっ、いや、恋愛感情とかはないよ」

「そっか……」

「……あの、彩花さん……怒ってます?」

「プイッ」


(可愛い……いやいや、よくわからないけど、怒らせてしまった)


 何か機嫌が直るようなことはないだろうかと考えたその時、冷蔵庫にあれが入っていることを思い出した。


「彩花、食後にプリンあるよ」

「食べる! たく、好き」

「危ないから前見て」

「はーい」


 調理中に抱きつこうとするので危ないと思い、注意する。まぁ、何とか機嫌を直したようで良かった。




***




 お風呂上がり、テレビでホラー映画をやっていたので見ることにした。


 俺はホラー映画が好きな方だ。だが、怖いのが苦手な彩花がいるので2人で暮らすことになってからはやっていても見ていなかった。


 彩花は今お風呂なので、出てくるまでの間なら見ても大丈夫だろう。


 10分ほどホラー映画を見て、CMに入ったところでタッパーにいれたご飯を冷凍庫に入れていないことを思い出し、ソファから立ち上がってキッチンへ向かうことに。


 タッパーを冷凍庫に入れて、閉めたその時、大きな声で名前を呼ばれた。


「た~く~!」

「彩花!?」


 浴室から走ってきた彩花は、俺にぎゅっと抱きつく。バスタオルを巻き付けているが、服を着ていないことに気付いた。


「むっ、虫みたいなのがいる!」

「ストップストップ! わかったから一旦離れて!」


 彼女の肩をガシッと掴み、離れさせると彩花は、自分が今、ほぼ裸に近いことに気付き、顔がみるみる赤くなっていく。


「た、たく……見た……?」

「……すみません」





             

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る