第9話 嫉妬
冬になり、外は気温が低く、外に出掛けるのが嫌になる。だからと言って学校に行かないでいい理由にはならないので、彼女を起こさなければならない。
「はい、起きて」
「寒いから、やっ」
嫌と言われてもこのままベッドの中にいたら学校に遅刻する。
寒い日が、続く中、彩花が起きてこないので朝食と学校へ持っていくお弁当は俺が作るようになった。代わりに彩花が夕食の当番だ。
「寒すぎて布団の中から出たら凍る……」
「凍らないから。ほら、起きて」
布団から出て、凍るなら俺も今、凍っているはずだ。
「ん~、ハグしてくれたら起きれるかも」
「はいはい」
中々、起きてくれないので何でもいいから起きてくれと思い、彼女の側へ行くと彼女にぎゅーと抱きしめられた。
そして何とか彼女は、起きて朝食を一緒に食べる。その後は少ししてから家を出た。
学校へ行くときは、彩花はあまりくっついてこない。理由はわからないが、おそらくいつ同級生に会うかわからないからだろう。
「寒いね……たく、手貸して」
「手?」
意味がわからないまま手を出すと彩花は、その手をぎゅっと握ってきた。
彼女の手は、ひんやりとしていたので、優しく握り返した。
「温かい……たくも手袋ないんだね」
「う、うん……まだいらないかなと思って家に置いてきた」
「そうなんだ。私は、持ってないから放課後買いに行こうかな」
彩花と話しながら歩き、駅に着くまで手を繋いでいた。だが、駅に着くと彼女は、俺から手を離す。
駅には、会社員や学生とたくさんの人がいるからだろう。
電車に乗り、駅に着くと彩花とは別れて俺は、俊と学校へ行くことに。
学校へ着き、自分の席に座ると隣に座る女子に話しかけられた。
「おはようごさいます、永瀬さん」
セミロングの綺麗な髪を持つ彼女は、
「おはよ、雨咲さん。急に寒くなったよね」
「そうですね、先週まではジャケットが必要ありませんでしたけど今日は着てきている人が多いようです」
教室を見渡すと登校してきている人は皆、セーターの上にジャケットを羽織っていた。
「俺も今日は寒くて着てきたよ。ここまで寒いとさすがにね……」
「ふふっ、ですね。今日は、お昼に温かいお味噌汁を持ってきたんです」
「お味噌汁?」
どうやって持ってくるんだろうと思っていると雨咲さんは、カバンからピンクのステンレスカップを取り出した。
「こちらです。触ってみてもいいですよ」
彼女からピンクのステンレスカップを受け取り持ってみるととても温かかった。手が温まり、彼女に返すと今度は蓋を開けてくれた。すると、いい匂いがした。
「持ち運びできるんですよ。オススメです」
「へぇ~、俺も買ってみようかな」
彩花、寒がりだから温かいスープがあると嬉しいんじゃないか? 雨咲さんオススメのステンレスカップ、買ってみようかな。
「えぇ、是非。ところで、先ほどから廊下から誰かがこちらを見ていますけど、お知り合いですか?」
雨咲さんにそう言われて後ろを振り向くと廊下でこちらを見ている彩花がいた。
「彩花だ……雨咲さん、行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
椅子から立ち上がり、彩花の元へ行くと彼女は頬をぷく~と膨らませていた。
「彩花、どうした?」
「じぇら……知らないところで女の子と仲良くなってる……。たく、日本史の資料集貸してほしい。持ってきたと思ったけどロッカーになかった。家に置いてきたみたい」
「わかった、ちょっと待ってて」
確か、カバンに入れていたはずと思い、自分の席に戻り、日本史の資料集をカバンから取り出すと、それを持って彩花に渡しに行く。
「ありがと。授業終わったら返しに来るね」
「うん、わかった」
資料集を貸りたら帰っていくと思ったが、彩花は何か言いたいことがあるのかこの場から離れない。
「彩花……?」
「今日、一緒に帰らない? こゆちゃん、用事があって早く帰るから」
彼女は、クイッと服の裾をぎゅっと掴んで、上目遣いで俺のことを見る。
「あー、駅まで俊もいるけどいい?」
そう聞くと彼女は、満面の笑みで強く頷き、手を振って立ち去っていった。
「うん! じゃあ、またね」
(物凄い嬉しそうだったな……)
自分の席に戻ると雨咲さんが、椅子に座ったまま少しこちらへ近づいてきた。
「永瀬さん、彼女いたんですね」
どうやら雨咲さんは、彩花を彼女だと思ったらしい。
「彼女じゃないよ。幼馴染み」
「幼馴染みですか、それは初めて知りました。あの方、如月彩花さんですよね。学年1位の」
「うん、そうだよ」
彩花はこの学校ではちょっとした有名人だ。いつもテストで満点に近い点数を取り、1位を誰にも譲らないほど賢い。
ほんと、彩花は凄い……。彩花は、俺にとって幼馴染みであり、憧れだ。
***
放課後。一緒に帰る約束をしたので俊と彩花のクラスの教室の前で待つことに。
「俺、邪魔じゃね? 2人で帰ったら?」
「大丈夫、俺たちそんな関係じゃないし」
気を遣ってくれたかもしれないが、俺と彩花は幼馴染みで恋人関係ではない。
「高校になって、5年振りに再会……小さい頃の匠がどんな子だったか気になるから如月さんに聞いてみたいなぁ」
「絶対に聞くなよ」
「へいへい」
しばらく俊と2人で待っていると教室から何人か出てきた。出入口を見ていると彩花が出てきて、俺と目が合った。
満面の笑みで俺の名前を呼び、こちらへ来るはずだったが、俊がいるのを思い出し、ハッとしていた。
「こんにちは、宇都宮くん」
「やぁ、こんにちは、如月さん」
学校での彩花は、基本親しい人以外には敬語だ。家とは別人に見える。
3人で帰ることになり、学校を出ると俊が彩花に謝った。
「いや~悪いね。ラブラブなところにお邪魔する感じで」
「ラブラブ!? えっと、あの、私とたくは、そんな感じではないですよ。幼馴染みです」
ラブラブと言われて、彩花は顔を真っ赤にさせて、俊の言葉を否定した。
この3人で帰るのは初めてだが、俊がいたので会話が途切れることなく駅までずっと話していた。
「じゃ、ここでな。如月さん、ちょっと」
俊は、反対側の方向なのでここで別れるが、彩花に手招きして、何かこそこそ2人で話していた。
(何話してるんだ……)
話し終えたのか俊は、俺に手を振り、改札を通っていった。
「お待たせ、私達も帰ろ?」
戻ってきた彩花は、何だか嬉しそうな表情をしていた。
「俊と何を?」
「少しいいことを教えてもらっちゃった。もしかして、宇都宮くんと話しているの見て嫉妬してくれたり……」
「してない」
「むぅ~」
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