第7話 誕生日

 店を出てしばらく近くでやっていた子供向けイベントを上から見ていると後ろから彩花の声がした。


 後ろを振り返るとそこには彩花と知らない男性がいた。


 知り合いだったらいいが、初対面だったら距離が近すぎやしないか?


「ねぇ、ここのショッピングモールに美味しいスイーツが食べられる店ってどこかある?」

「美味しいスイーツですか? それなら───日向?」


 俺は黙って彩花の手を取り、その場から離れるように早歩きで歩く。


「ああいうのは危ないから聞かれても答えたらダメだ」

「えっ、でも、あの人困った顔してたし……」

「困ったふりしてるだけだから。彩花、可愛いから変な人に声かけられただけで───」

「かっ、かわっ!」


 手を引かれて俺についていく、彩花は、言葉を遮り、声を出した。


 もうあの男の人とは距離が取れたと思い、立ち止まって、後ろを振り返るとそこには顔を真っ赤にさせた彩花がいた。


「えっ、もしかして彩花、熱ある?」

「!」


 心配で彼女の額に手のひらをピタッと当てると彩花は、体をビクッとさせた。


「たっ、たくは、過保護すぎ……けど、そんなところが好き……」


 彼女は、手のひらに当てていた俺の手を取り、自分の頬へ当てた。

 

「あ、彩花さん、ここでこういうのは……」

「ここじゃないならいいの? じゃあ、家に帰ったら私の頬、スベスベしてほしいな」

「どんなお願いだよ……本屋行きたいから行ってもいい?」


 今読んでいる本が読み終わったので、新しく買いに行きたいと思い、彼女に聞く。


「いいよ、行こっ」


 本屋は、今いる1つ上の階なので、エスカレーターに乗って上がることに。


 今日は、休日で人が多い。家族で来ている人や友達、恋人同士で来る者。いろんな人が来ていた。


 彩花は、いつもこういうところに来たらいつの間にか違うところへ行ってしまい、はぐれてしまうのでここを出るまでは見ておこう。いや、こんなことしてるから過保護とか言われるんだよな。


 本屋に着くといつもよく行くコーナーへ行き、面白そうな本がないか探した。


「たくっていつもどんな本、読んでるの?」

「俺は、ミステリー小説かな。どんな展開になるか予想しながら読むのが好き」

「へぇ~、なら今度オススメ教えて欲しいな。私もたくが好きなもの、好きになりたいから」

 

 えへへと笑う彼女の横顔を見て、俺は、本を見に来たのに彼女に見とれてしまっていた。


 好きなものを好きになりたい……か。同じ趣味を持てるのは嬉しい。


「じゃあ、家にある本を貸すよ。読みやすいオススメの本があるから」

「うん、わかった。楽しみにしてる!」


 


***




 翌日。昨夜は、彩花とショッピングモールへ出掛け楽しくてすぐに寝てしまった。目が覚めたのは、朝の8時。


「寝すぎた……」


 部屋の外から物音がしていたので彩花が起きているのはわかった。


 今日は、彩花の誕生日。早く起きて祝うつもりだった計画が台無しだ。


 はぁ~、と深くため息をつき、ベッドから起き上がる。寝間着から普段服へと着替えてから彼女へのプレゼントを後ろに隠して寝室を出た。


 彼女の名前を呼んでリビングへ行くと彼女に抱きつかれた。


「彩花……!?」

「たーく! おはよ」


 朝から抱きつかれるのは心臓に悪すぎる。眠たかったが目が覚めた。


「おはよ。彩花、誕生日おめでとう」


 後ろに隠していたプレゼントを前に持ってきて、彼女に手渡す。


「! あっ、えっ、もしかしてプレゼント?」

「うん……開けていいよ」


 そう言うと彼女は、パァーと顔を輝かせて、ソファに座ってプレゼントの中を確認し始める。最初に取り出したのは大きな猫のぬいぐるみだった。


「わっ、猫ちゃん! かわい~」


 彩花は、猫のぬいぐるみをむぎゅーくと抱きしめ、すべすべさせていた。


 喜ぶ彼女の隣に座ると、彩花が猫のぬいぐるみを持ったまま俺の方へ寄ってきた。


「ありがと、たく」


 喜んでもらえたのなら良かった。彼女の嬉しそうな笑みを見て俺まで嬉しくなる。


「まだあるよ。彩花、少しだけ後ろ向いてくれる?」

「う、うん……もう1つ?」


 彼女は、きょとんとした表情をしながらも俺に背を向けた。


 彩花の後ろで俺は手に持っていたもう1つのプレゼント、ネックレスを彼女の首につけた。

 

「ネックレス……?」

「うん、彩花に似合うと思って」

「ありがとう、たく。たくは、私とずっーといたいってことでいいかな?」


 彼女の唐突な質問に意味がわからなかったが、

俺は、照れながら答える。


「えっ、あっ、まぁ……彩花との生活は悪くないし一緒にいたいと思ってるよ」

「ふふっ、私もたくとずっーと一緒にいたいな。ネックレスもありがと、大切にする」


 つけたネックレスを見て、彼女は、胸に手を当てて俺に微笑んだ。


「誕生日だから夕食は彩花の好きなオムライスにしよっか」

「やった、楽しみ」


「どこか行きたいところはある? 俺、付き合うよ」

「ふふっ、たくらしい。行きたいところはないから今日はたくと家で過ごしたいな」


 そう言って、彩花は、目の前にあるコントローラーを見た。どうやら俺とテレビゲームをやりたいらしい。


「うん、わかった。やる前に朝ごはんにしよっか」

「うん! 今日は、ピザトーストだよ」


 彼女が作ってくれたビザトーストを朝ごはんに食べ、洗い物は俺がやることにした。その間、彩花は、テレビゲームができるよう準備していた。


 洗い物を終え、リビングへ行くと準備中の彩花は、俺が見てもいいのかという格好をしていた。


 四つん這いで何やらゴソゴソと探し物をしており、慌てて目をそらす。


(無防備すぎる……)

 

「よし、できた。たく、やろう」


 彼女は、コントローラーを2つ手に取り、1つを俺に手渡した。


「ありがと」


 コントローラーを持ってソファに座り、彩花は隣に座るだろうと思ったが、彼女は、なぜか俺の膝に座ろうとしていたので、少し横に移動する。


「む~」

「そんな可愛いお願いしても駄目です」

 

 頬を膨らます彩花の頭を撫でて、俺の膝に座るのを諦めてもらった。


「レースゲームやろ。私、特訓したから勝てる自信あるよ」

「おっ、なら勝負しようか」

「うん、負けないっ!」


 そして、1戦、戦い終えると彩花は、うんと背伸びをしてこちらを見てきて、俺にゆっくりと近づく。


「負けちゃった……。勝ったご褒美に」


 何か凄い顔を近づけてくるなと思っていると頬に柔らかいものが当てられた。


「!」


 ゆっくりと隣を見ると彩花は、顔を真っ赤にさせ、ソファから立ち上がり、プレゼントを持って自分の部屋へと走っていった。





             

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