第6話 男子禁制の場所

(んー、何枚か買いにいった方がいいかな……)


 とある11月上旬の休日。今、キッチンにある皿を見て、新しいお皿を買いたいと思った。


 外は寒くてあまり家から出たくないが、こうしてぬくぬくした場所に休みの日ずっといるのも運動不足になる。


 食料を買いにスーパーにも行きたいし、これはショッピングモールへ行った方がいいな。


 キッチンからリビングへ移動すると、そこでは彩花がソファで寝ていた。おそらく彩花も寒いから家に出ずこうして寝ているのだろう。


「彩花、今からショッピングモール行くけど、どう?」


 まぁ、寒いから来ないだろうと思いつつも誘ってみると彩花は、バッと起き上がった。


「行く!」

「ビックリした……。新しいお皿を買いに行こうと思ってるから、準備したら教えて」

「うん、準備してくる」


 彩花は、ソファから立ち上がり、外出する準備するために急いで自室へ向かった。


 俺は、服はそのままで必要な準備をし、彼女が部屋から出てくるまでテレビを見ていた。


「お待たせ」

「うん……!」


 テレビの電源を消して顔を上げると目の前にはニットに黒のズボンを履いている彩花がいた。


 私服や制服ではスカートが多いので、ズボンを履いているのは珍しい。


「可愛い……」

「!」


 気付いたら口にしていた。見とれるほど、彼女が綺麗で可愛いと思ったから。


 俺の言葉は、ハッキリと彼女に届いていて、彩花は、顔を真っ赤にさせて、手を後ろに回し、微笑んだ。


「ふふっ、嬉しい……。たくは、今日もカッコいいね」

「! あ、ありがと……」


(朝から心臓に悪すぎる……)




***




 電車に乗り、ショッピングモールへ到着すると彩花のオススメの店でお皿を見ることに。


 この店で彩花はよく買い物をしたりするそうで、どの場所に何が置いてあるか把握していた。


「たくは、どういうお皿が欲しいの?」

「大きめのやつかな。家によく夕食で使う皿、あっただろ? ああいうのを後2枚ぐらい欲しい……」


 欲しいものを言うと彩花は、手を口元へやってどれがいいか考えていた。


「なるほどね、2枚ってことは私とたくの?」

「うん、だから一緒に選ぼ」


 いろんなお皿を見て、俺と彩花は、水色の皿を選び、買った。


 目的は達成されたが、彩花は、行きたいところがあるらしく、そこへ向かうことに。


「たくと久しぶりのショッピングモール。楽しいな」


 嬉しそうに隣で微笑む彩花は、俺にピトッとくっつき、服の袖をぎゅっと握ってきた。

 

 確かに彩花とショッピングモールに来るのは久しぶりだな。最後に言ったのは夏休みだっけ。


「そういえば、どこに行くの?」


 行き先を知らず彼女についていっていたので、どこへ行くのかわからない。


「服屋だよ。たくの好みが知りたいから」


 そう言ってある店へ入っていく彩花。手をいつの間にか握られ、パッと見女性客しかいない店の中へと入った。


 ここいうところに一度も入ったことがないから緊張するし、男子禁制の場所に入ってしまった感がある。


「あの、彩花……俺は必要ないよね。外で待っててもいい?」


 この場に長時間いるのは無理だ。場違いな気がして今すぐに出たい、帰りたい気持ちになる。


 一歩下がろうとすると彼女が、俺の手をぎゅっと握ってきた。そして、うるっとした目で見てきた。


「たく……すぐに終わるからちょっと付き合って欲しいな」

「……わかった」

「ありがとう、たく」


 断れない。可愛らしくお願いされて断れるわけがない。


 ここは空気とかそういうのを気にせずに彼女に付き合おう。


 どの服が似合うか見て欲しいというので試着室の前で立って試着した彩花を見ていたが、急に彼女に試着室の中へと連れ込まれた。


 急に試着室へ連れ込まれたので靴を履いたままだ。すぐに靴を脱いで足裏と足裏を重ねて下へ置く。


「ど、どうした……?」

「ごめん……少し苦手なクラスメイトがいたから……」


 会いたくないなら彩花がカーテンを閉めたらいい話だが、焦って俺の手を引いてしまったようだ。


「彩花、誰とでも話してるイメージあるけど、苦手な人いるんだ……」   


 どうやら彩花の知り合いは、隣の試着に入ったようなので、小声で話す。すると、彩花は、下を向いて俺の服の裾をぎゅっと握ってきた。


「いるよ……たくのおかげでいろんな人と話せるようになったけど、苦手な人はいる」


 俺が知らないところで頑張ったんだなと思い、そっと彼女の頭に手のひらを置いて優しく撫でる。


「ね……あんまり声だしたらダメなところで、一緒にいるとドキドキするね」

「! そういうこと言うと余計ドキドキするんだけど……」


 彼女と目を合わせていたが、恥ずかしくなり目をそらすと彩花は、俺の手を取った。


「ふふっ、私のせいでドキドキしてるんだ……嬉しいな」


 握られた手をぎゅっぎゅっと優しく握られる。その手は温かく、体温がどんどん上がっていくような気がした。


 こういう状況になったとき俺は弱い。彼女のペースに乗せられて知らない気持ちにさせられる。


「たく。手、出して、こうして?」


 小声で囁かれる声にさらにドキドキする。なぜ手を出さなければならないのかと思いながらも俺は、手を出した。


 この後、どうなるんだろうかと待っていると彼女は、小さく手を挙げていた俺の手のひらに重ねた。


「……やっぱり大きいね、たくの手」

「っ!」


 彩花といるとたまに溶かされるような感覚になる時がある。他の人といてもこんな気持ちにはならないのに。


「男の子の手って感じ」


 そう言って彩花は、手のひらを重ねたままぎゅっと俺の手を握った。

 

 それに驚いた俺は、壁に足が当たりゴンッと音が鳴った。


(っ! やってしまった!)


「えっ、何?」

「隣の人、大丈夫かな?」


 かなり大きな音だったので、隣で試着している人と試着室の前に立っていた2人が話している声が聞こえてきた。


「あっ、危なかった……」

「ふふっ、試着室に男女2人でいるのがバレたら変な誤解招きそうだね」


 そう誤解されたら普通にヤバイと思うが、彩花は、今の状況を楽しんでいた。


(なぜ楽しそうなんだ……)


「あっ、離れていったみたい。先にたくは、出てて。私、上、着替えないと」


 彩花は、隣で試着していた知り合いの会話を聞いて、離れたと判断し、俺に出るように言う。


「わかった。試着室の前で待つのは居たたまれないので店から出てもいい?」


「うん、いいよ。たくの好みはわかったし、着替えて服買ってくるから先に店から出ていてもいいよ」


「うん、先に出て待ってる」


 女子服しかない店の試着室から男子が出てくるのは、不思議なので俺は試着室の近くに人がいないか確認してから出ることにした。


(ふぅ……店に出る時もこっそり出よう)






              

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