第2話 雨

「じゃあ、また明日」

「おー、またな」


 学校から駅のホームに着き、ここまで歩いてきた友人と別れて、俺は、駅の改札前で1人待っている彼女の元へ行く。


 彼女は、こちらに気付いておらず、スマホを見ていた。


 遠くから見ても綺麗なんだよな。だからこそすぐに見つけられる。


「彩花、お待たせ」


 声をかけると彼女は、スマホから顔を上げて俺を見るなり、パァーと笑顔になった。


「そんなに待ってないから大丈夫だよ。ちょうど電車来るみたいだから乗ろっか」


「うん、そうだね」


 いつもは彩花とは別々に帰るが、今日は俺が傘を忘れてしまい、それを彼女に伝えると自分は持っているから一緒に帰ろうと誘ってくれた。


 授業が終わる時間は同じだったが、彩花の方が先に駅に到着したようだ。


「このままスーパーに寄って帰る? 帰ってからまた行くの面倒だし」


 改札を抜けて、電車が来るのを待つ間、彼女は、髪の毛をひとつにまとめながら俺に提案する。


 今日は雨だ。一度家に帰ってまた家を出るのは面倒で行く気が失せる。


「そうだね、寄って帰ろうか」

「うん!」


 電車に乗り、最寄り駅で降りるとすぐ近くにあるスーパーへ入った。


 買うものは今日の夕食と明日の朝食に必要なものだ。ちなみに食費は、いつもお互い半分出している。


「今日は、オムライスにしよっか」

「いいね、オムライス。それならコーンスープも付けて欲しいな」


 小さい頃、俺と彩花の家は、よく一緒に夕食を食べていた。その時に2人が共通して好きだったのが、オムライスとコーンスープのセットだ。


「そうだな、家にはなかったはずだから取ってきてくれる?」

「わかった。たくは、ここから離れないでね」


 俺は今いる野菜コーナーでいくつか買うものがあるのでカゴを持って、ここで彼女を待つことに。


 一緒に後で行けばいい話だが、それだと時間がかかる。


 今朝、メモしてきたものを見ながら家にないものをカゴヘ入れていき、買うものはもうないことを確認するため辺りを見渡す。


 それにしてもコーンスープを作るために必要なものを取りに行くだけにしては戻ってくるのが遅い。


 まさか迷子になってないだろうな。ここのスーパーには何度か来たことがあるし、大丈夫だと思うが。


 ここから動こうか悩む。ここで待っていると言ったので動いたら彼女とすれ違うかもしれない。けど……いや、探しに行こう。


 探すことにし、後ろを振り向くと誰かとぶつかった。


「うぅ……たく、急に振り向かないでよ」

「あっ、ごめん。中々戻って来ないから探しに行こうとしてて。で、それは?」


 彩花は、ちゃんとコーンスープを作るために必要なものを取ってきていたがそれ以外のものも手に持っていた。


「プリンとチーズケーキだよ。たくは、チーズケーキ好きでしょ?」


 どうやら食後のデザートを持ってきてくれたようで彼女は、カゴヘ入れる。


「ありがと。じゃ、後はサンドイッチ作るための食パンを買ったら帰ろうか」

「うん!」


 パンコーナーで食パンをカゴに入れてからお会計へ。


「私、1つ持つよ?」

「ありがと。じゃあ、こっちお願い」


 袋が2つあるので、軽い方を彼女に持ってもらうことにした。


 スーパーを出るとここからは傘が必要なので、彩花に折り畳み傘を出してもらった。


 身長差があるので、傘は俺が持つことに。彩花は、濡れないよう俺にピタリとくっつく。


「雨……今日の体育、外でバスケだったのになくなったの」

「そっか、6組は、今日、体育があったのか」

「うん。ところで、今日のお弁当は、どうだった?」

「今日も美味しかったよ。タコさんウインナー可愛かった」

「でしょでしょ、きゅーとなタコさん作ったの」


 ふふっと小さく笑う彼女。いつもより可愛らしい笑顔を近くで見れるのは距離が近いから。


 こんなに近いとドキドキが彩花に伝わってしまいそうだ。


「彩花、濡れてない?」


 俺が傘を持っているので、無意識に自分の方へ寄せているような気がして尋ねる。


「大丈夫だよ、たくにぎゅーするから」


 彩花が、傘を持つ方の腕にぎゅっと抱きついてきたので危うく傘から手を離すところだった。


「歩きにくいから駄目。俺の方に寄るのはいいけど……」

「わかった。くっつくので我慢する」

「う、うん……」


 抱きつかれて、あの柔らかいものが腕に当てられるよりくっつかれる方がいい。彩花、ここら辺は知り合いがいないからといって俺との距離が近いな。


 


***




「ふんふ、ふ~ん」


 夕食、お風呂を終えて、リビングへ行くとソファで彩花は鼻歌を歌いながら何かをしていた。


 後ろから声をかけたらビックリさせてしまいそうなので、彼女の隣に座ってから話しかけることにした。


「何作ってんの?」


 隣で彼女の手元を見るとブレスレットを作っていた。


「見ての通りブレスレットだよ。友達のこゆちゃんが、作ったの見て私も作りたくなったの」

「へぇ~、完成したら見せてほしいかも」

「いいよ、たくに1番に見せる。あっ、良かったらたくも作る? 私のやつ作ってほしいな」


 ブレスレット作りはしたことがないが、少しやってみたい気持ちはある。


「やってみようかな」

「うん! このもう切ってるゴムテグスの端をマスキングテープで机に貼りつけてビーズを通していくだけだよ」

「わかった」


 彼女に教えてもらったが、簡単そうだ。だが、ビーズを通す順番を考えないとあまり見映えがよくないのが出来上がりそうだ。


 黙々と彼女に似合うブレスレットを作るために集中すること数分後。出来上がったことを彼女に言おうと隣を見ると彩花は、猫のポストカードにうっとりしていた。


(小さい頃から猫好きだよな……)


「彩花、完成したよ」

「わっ、可愛い。たく、つけてほしいな」


 猫のポストカードから顔を上げた彼女は、嬉しそうに笑い、右腕を出す。


「わかりましたよ」


 作ったブレスレットを腕にのせると彩花は、びっくりしたのか体がビクッとしていた。けれど、つけてほしいので腕は動かさない。


「はい、できた。きつくない?」


 端と端を結んでビーズが外れていかないようにしたが、どうだろうか。


「大丈夫。可愛い、一生大切にする」


 大切そうにブレスレットに手を添える彼女は、ニコッと微笑んだ。


「寝るときは外せよ」

「うんっ、わかってる」


 喜んでもらえて良かった。そう言えば、彩花は誰用のブレスレットを作っていたのだろうか。





  

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