第34話 チンピラの土手っ腹がバラバラに!

「あっ……あぁ………。」

雅之は目の前の事態が理解出来なかった。


それは一瞬の事だった。雅之に鏡の付喪神がチンピラ達に気づかれないように小声で話しかけてきた時である。

「アンタさぁ〜。大変だね〜?」

「へっ何!」

雅之は誰の声か分からず周りを見回す。その慌てふためいた姿を見て、ペキオラな顔に思わず笑いが溢れる。

「ハハハッアンタちょっと面白いね〜。なんかぁ…他の付喪神と何か違う感じがする。」

「いやだから!付喪神じゃ無いんだって!元人間なの!別の世界にいて鈴に転生した人間。」


雅之は馬鹿正直に打ち明ける。だがペキオラはそれをを聞いてまるで子供のお話を聞くお母さんのような眼差しになる。

(いやっ何でだ!?この世界の人間は喋る物体信じれて転生信じれないのか!端から見りゃ同じだろうが!)

雅之は心の中で悶える。それが表情に出ていたらしく、

「……やっぱぁ、アンタ面白いよ〜。」

ペキオラはさらに彼の事を面白がっていた。


その時である。


「シュウラァー!」

「カミカミィ!」

「グゥフフフゥ!」

明らかに人ではない。人智を超えた鳴き声が一帯を駆け巡る。

「何だ何だ!」

「ホッホラ上!」

「えなにこれ!?」

チンピラ達も騒いでいた。


「グゥフゥ!」

鳴き声の主の1人がチンピラの1人を右肩を殴り飛ばす。

「ゴハァッ!」

攻撃を受けた男は上半身の右半分が無くなり体液が混ざり合ったものがあれば辺りに飛び散り完全に動かなかなったていた。


「なっ何だよ…コレ?」

チンピラ達は動けなかった。無理もない。仲間の1人の命が一瞬で息絶えたのだから。

「あっあっあっ……あああぁあ!」


そんな中さっきのチンピラ男の彼女の半グレ女が目の前の怪人に殴りかかる。が、


「ガゥア!」

怪人の攻撃を後ろから受け、彼女の腹に黒い大きな針のような物が刺さる。

「シュウラァシャラァ……」

突き刺したのは目の前にいるのとは別の怪人だった。

その後、彼女の腹にさらにトゲが突き刺ささる。怪人はそれを乱暴に引き抜く。その衝撃で彼女の上半身と下半身は完全に真っ二つになってしまった。もうそれを見ていた頃には彼らは完全に気絶していた。


そこからはあまり時間はかからなかった。

もう一匹の怪人もその場に現れ、チンピラ達は全員殺され、その肉体は怪人等が美味しく頂く事になった。


怪人が人肉に夢中になっている頃、雅之とペキオラは鈴と鏡だったので無事だったが少なくとも雅之は正気を保っては居られなかった。

(何なんだよアレ……そりゃあさ?異世界だもん。ああいうバケモノみたいなのと対峙する事もあるさ。そりゃ念頭に入れてたよ……でも怖い!怖すぎる。パッと見子供の頃見てた戦隊モノの着ぐるみみたいな感じなのに怖い!人肉食べるなんて普通に怖い!ゴリゴリSAN値削られて行くもん!オレ無理だわ…冒険者に転生しても多分戦えない…。ある意味鈴で正解だったかもしんない。)

心の独白が止まらない雅之をよそにペキオラは目の前に起きている状況が分かっているのか分かっていないのか微妙な表情をしていた。

それを見て雅之は

「おい何だよ表情?目の前で人死んだんだぞ?何々ヘラヘラしてんだよ!もうオレ無理だよぉぉ!」

ペキオラに対して怒鳴り出し、そのまま泣き出してしまった。


「カァミィ?」

肉を粗方貪り尽くした怪人はその声を聞いて混乱した。周りに人の声がするのに人の匂いや気配を一切感じないからだ。


ペキオラはそれを見てすかさず自力で動き出し

「あ〜んもぉ〜怪人の前で声出しちゃあ駄目でしょお〜!」

雅之を鏡面に載せて地面を這うようにその場を去る。


それをある人物が見ていた。

「あれは……付喪神?」


その頃ユーザ達は砂浜に漂流物の如く倒れていた。


「ハァハァ……死ぬかと思った。」

「奇跡的に帰れたな……あの時ザッドがいなかったら、今頃海の藻屑に…」


「ヤバイヤバイヤバイ!ホンットに沈むって!」

「とにかく馬車から出よう!」

ユーザはバカ医者の開けた窓口をさらにこじ開け大きくし、そこから馬車へ脱出する。


「皆も早く!」

ユーザは手を伸ばし、キンノミヤ達を馬車から出す。

イルカにザッドは呼び掛ける。


「おい!ボサっとするな!バブルから救援を呼んでこい!」

イルカはハッと気を取り直し、猛スピードで海底を潜っていく。


「でもどんだけ早くたってせいぜい20分は掛かるぜ?それまでずっと水掻いてろってか!オレは泳げんぞゴボゴボ」

キンノミヤが沈んでいく。

「オイ上がれ!死ぬぞ!ハーズ、引き上げるぞ。」

ハーズに呼び掛けるが、


「ごめんユーザ、実はボクもゴボボボ」

ユーザの左腕からハーズの補助が消える。


「軽量化必須ガバババ」

金属製のリンも沈み始める。


「マジか!?クソーッ!」

死に物狂いで何とかキンノミヤとリンを引き上げるも人1人と自転車一台を担いでしかもハーズの補助無しで水の上で常時浮き続けるのはユーザでも負担が大きかった。


「クソッ…左腕が訛ってる、ハーズに頼り過ぎてたツケが回って来たな…」


その頃バカ医者は泳ぎが得意なので魚と戯れていた。

「アジだろお前味がいいからいつも美味しく頂いてるぞ!ワッそんな怒るなってぇ。」


「おいバカ!誰のせいでこうなったと思ってんだ!」

「水臭え事言うなよ。水入ってるのに。」


「訳わかんねぇ事言うなよ!」

「ん?私はお前の言ってる事いつも訳分かってないぞ!バカだし。」


「マジでブッ飛ばすぞ!」

「えっ衝撃の事実に目から鱗ってなんないの!?海にいるのに」


「なるか!」

「ヘェ〜でも鰻の蒲焼きは美味しいから大丈夫だよね?これ言うとアナゴが怒るんだよ」

「お前はもう海の住人になれ…。」


そう言っている内にイルカがやってきた。


「キュー!」

イルカはメンヘラシャチと淫乱シロイルカと変態マゾシャークを連れてきた。

「こんなのに助けられるのか!?」


こんなのに助けられたのである。

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