第21話 転生したら鈴だった件

 緊急の患者が運ばれて診療所内は緊張に包まれた。

 医師達は患者を急いで治療室に運び込み容態を確認する。

「これは……一体?」


 医者は首を傾げた。患者の傷ではなく着ていた服に。

「一体なんの跡なんでしょうか。」

「車輪の様ですがこんな形の何て…」


 医師達の目に飛び込んできたのは跡だった。患者の服にはとても濃い車輪の跡が付いていた。だが彼らにはその車輪の正体が掴めなかった。それは馬車しか知らないウォータスの住人にとって未知の存在。


 クロスバイクの車輪だったのだ。


 だか1人それを瞬時に認識できるものがいた。

「これは馬車ではありません…クロスバイクの車輪ですわ。」

 キョクアにいたラブクープだ。

 ラブクープは記憶から最も身近なクロスバイクの存在を思い出す。


(まさかリン?でもリンはユーザさんの所に行ったはず…)

 彼女が訳が分からず思考を張り巡らせた瞬間、その思考を吹き飛ばす発狂が発生した。


 その場にいた全員が呆気に取られる。

「かっ…紙はぁ……どぉこダァ…もっと最っともーっと紙をーーー!」

 男はそう言いながら、ベッドから飛び起き嵐の如く走り去っていった。


 一枚の紙片を落として。

「…………紙?」


 その頃タキガワは未だ目を覚さない新生キンセツを持ってキンノミヤの事務所に向かっていた。

「多分戻ってないだろうけど…でもじっとしてられないし……」

 すると目の前にお姫様抱っこで男を持ち上げながらで物に話しかけている男がやって来た。


(あの人…物に話しかけてるって…もしかして付喪神?)

 キタガワはそれが付喪神と即座に認識できた。


(もしや、ユーザさんの知り合いかも!)

 タキガワはその男の元に駆け寄る。


 チェンジャー達は向こうから人が駆け寄って来た事に気づき足を止める。

(なっ何?この人は……?ハサミ?)


 相手はハサミを持っていることに気づく。するとそこから思考が巡り出した。

「ねぇクランボ。」


「ハサミってさあ…武器に入るよ…」

「いえ。ハサミは武器には入りません。」

「じゃ襲っちゃダメだねー?」

「いけません。絶対ですよ。」


 その会話内容を聞いたツミはゲンナリした気持ちになり思わず尋ねた。


「えぇぇと。チェンジャーさんは普段何をされていらっしゃておいでで?」

 チェンジャーが答える前にクランボが一言。

「まぁ、世には知らなくてもいい事もあるのですよ。」

 爽やかながら凄みのある声で答えた。


「………」

 ツミはそれ以上何も答えないようにした。


 そうこうしている内にタキガワはチェンジャーの元に

 辿り着く。息も絶え絶えの中質問をしてみる。


「ハアハア、あの……すいません…ゆっユーザさんとキンノミヤさんて知ってますか?」

「えっ」

「今ユーザって…」

 彼の言葉から予想外の答えが出て、チェンジャー達は少し目を瞬く。


「あと…その、今話してたのって…付喪神ですよね?私も知ってますよ付喪神。」


「付喪神の事も知ってるらっしゃる…」

「キミと話がしたい、診療所に着いてきてー。」

「診療所?いやここからなら事務所の方が近いですし、私が案内するので話ならそこで」


 という訳でタキガワと共にチェンジャー達は予定を変更し、キンノミヤの事務所に行くことになった。


「あ、皆さんここです。」

 タキガワが指差す方向にはウォータスの建築物とは明らかに様式の違う建物が建っていた。


「ここは?」

「なんでも本舗っていう事務所で付喪神の関連の事件を取り扱うまぁ〜一種の何でも屋ですね。」


 タキガワの説明を聞いたチェンジャー達は


だから本舗?……そのまま過ぎてダサくない?」

「ダサいですわ。」

「ダサいですね。」

「オイラもダサいと思う。」


「ちょ、皆さん全員ダサいって言わなくても……」」

 タキガワは外装の看板にある『なんでも本舗』の字面を改めて見て

「……確かに否定出来ませんね…」

 認識を改める。


 場が一気に白けた。


「まっまぁ、とりあえずキミのユーザに関する情報について聞いて見ようかー?」

「そっそうですわね!」


 チェンジャーとツミが空気をいい意味で破壊してくれた。


 場が少し温まってきてタキガワが何気なく

「それにしてもチェンジャーさんでしたっけ?髪長いですね。」

 と言ってみた瞬間、


「髪?」

 どこからともなく、そんな一言が聞こえたと思いきやタキガワの手からキンセツが消えていた。


「? あれ?」

 タキガワが驚いている内にキンセツは遥か空中に浮いていた。刃を地面側に向け、急降下していた。

「その髪、切らせてもらんヨォ!」それでもそれじゃあ、僕は倒せないで武器だろ

チェンジャーに狙いを定めて。


「カミサマは何処へぇー!」

その頃診療所を抜け出した。不審者のカミカミ男は街をひた走っていた。彼の着ているシャツにはリンの轢き逃げアタックで付けられたタイヤ痕が痛々しく色濃く残っていた。

「どぉこぉなぁのどーこー!」

みっともない走りでは他の追随を許さない男の頭上に何かが落ちてきた。


「「痛っ」」

悲鳴は男だけでなく空中からの物体からも聞こえた。


物体はそのまま男の頭を跳ねて地面を転がり滑り、やがて止まった。その時の反動でと音が鳴る。


「はっ?」

カミカミ男は呆然とするしかなかった。


一方物体は1人でブツブツと喋り込んでいた。


「ったくよぉーあのクソ神!大体こういうのってさぁ、レベル999だのSSSランクだのチートスキルだの持った冒険者か貴族辺りになって悠々自適な異世界ライフとかじゃないの!?なんでベル?それも何故自転車の?解せぬ。理解できぬぅ!」


彼は鈴に転生した異世界人のようだ。




















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