使い倒すために

第20話 混じり合うモノ達

バカ医者とチェンジャーは被服店の試着室にいた。

「どぉーだ!いい感じだろ!」

「………」

「これだけ洗うのに一ヶ月掛かっちまった。次は傷を治すために診療所行くぞ。」

チェンジャーは驚きのあまり言葉が出なかった。姿見に写っている男が自分だと認識できなかったからだ。


「コレが………ボク?」

一分程経ってからようやく口が開いた。と同時に、姿見の男も同じ言葉を発する。

黒地でも分かる血潮が完全に取れた上着とインナー。

砂埃、返り血、皮脂等々様々が汚れから解放された意外にも白い肌。

手入れとは程遠かった背中まで届く藤色の紙。

何もかもが変わったのだとこれでもかと実感させられた。


バカ医者は鏡を覗き込みチェンジャーの耳元で話しかける

「そりゃそうだ。ここに写ってるのはお前とチェンジャーと私なのだから。」


「知らない3人目がいるよー。」

さりげなくツッコんで上げた。


「え?え?え?ホントどぅあ!2人しか写ってないのに3人目が何で出てきたー!?チェンジャーって誰!誰なのぉー!教えて貴方!えっ貴方?わっ4人目が出てきた。ヒャェエエエ!」

バカ医者は泡を吹いて倒れた。


チェンジャーは倒れた彼を無表情で見下ろし

「こんなのが気にいるユーザってホント誰なんだろう……益々会いたくなったよー。」

少し目を細めながら呟く。


「あそこにいましたわ!」

何処からか女性の声がした。チェンジャーは周囲を見渡すが誰もいない。代わりに、


「枕カバー売り場はここじゃないよねー?」


服に紛れて空間に紛れようとしている。枕カバーを発見した。チェンジャーはつまみ上げて話しかける。

「もしかしてー……付喪神?」


観念したのか、枕カバーのツミは長い息を吐いて緊張をほぐす。そしてやや不可解そうに尋ねる。

「貴方……なんで知ってますの?まっまさか彼に…」


「ボクも一緒にいるんだー。付喪神と。」

バックパックからナギとクランボを取り出す。

クランボはツミをじっと見つめて先に口を開いた。

「お初にお目にかかります。棍棒の付喪神クランボと申します。」

「オイラはナギ。いやコイツは硬い喋りだけどタメでOKだから。」

「……はい。初めまして。ツミと申しますわ。」


「ふぅむ…」

クランボはツミをじっと見つめて口を開いた。

「キョクアでは見なかった顔ですね。ウォータスのご出身で?」

「えぇ。そうですわね。私はウォータスの診療所で覚醒しましたわ」

「オイラ達以外の付喪神か。ウォータスって付喪神って付喪神出やすいのか?」


「出やすいかどうか分かりませんが……あの枕カバーの御方、どうやらキョクアを知っているご様子で。……場所を変えましょう。」

クランボは何故か会話を続けるように促す。


「まぁいいや。話してみてもいいんじゃなーい?ツミさん…だっけ?コイツを見つけに来たんでしょー。診療所で話せばいーじゃん。」

チェンジャーは下を指さす。床には泡を吹いて倒れたバカ医者がいた。


「わっ!何この人!今気づいたよ。」

ナギが驚くのに対しクランボの反応はとても薄かった。

「とっくに気づいていましたよ。何ともアホそうな顔していらっしゃると思いました。それだけです。」

バカ医者の指が一瞬ピクリと動いたがそれは流石に気づかなかった。

「彼は人間とは思えない言動や行動をとるのです。きっとまたバカなことをしでしたのでしょう。…どうやって運びましょう?」


「いいよボクがやる。ついでにツミさんも運ぶよー。」

そう言いながらチェンジャーは、バカ医者を軽々と持ち上げ、お姫様抱っこの体制で運び出す。そしてバカ医者の体の上にツミを被せる。


「あっ…」

「どうしたのー?」

ツミの位置からは長い紙に隠れているチェンジャーの顔が見えた。その顔は黒ずくめの服装に不釣り合いな童顔でツミは少し驚いた。


「……あぁ、いえ何も。」

「じゃ行こうかー!」


鍛治工房──

「はぁ〜キンノミヤ様大丈夫かな。バブルでの爆発事故から一ヶ月半。事務所が急にもぬけの殻になって連絡が取れなくなったのも一ヶ月半前……やっぱり事故に!いやいやそんな事は」

キンノミヤの元従者タキガワの頭には不安ばかりがよぎっていた。


「もう依頼はこなせたのに。」

タキガワの手元には元キンセツの刃の金属を元に新しく作られた新生キンセツの理美容バサミが静かに置いてあった。キンセツは未だ目を覚まさない。


「なんで動かないかもユーザさんに聞いて見たいのに……」

タキガワはユーザを付喪神の専門家だと勘違いしていた。

「もう一度行ってみるか…」

タキガワは一度事務所に行ってみることにした。


診療所──

ラブクープはツミに医者探しを任して自分は一旦診療所に戻っていた。

診療所は他の医者が穴を埋めていててんてこ舞いの状態だった。


「ツミはちゃんと見つけてくれるかしらねぇ…」

「デットさんは診察はもちろんの事何よりあの調合技術はマネ出来ませんからね。なんだかんだ必要不可欠だったんで今の状況はかな〜りキツイです。」

診療所の医者の1人は苦笑いで本音を吐き出していた。


「”馬鹿と天才は紙一重”という事でしょうか…」

チャーブル緊急の患者さん!早く来て!

「あっ分かりました!今行きます!」


一気に場が慌ただしくなる現場を見てラブクープは苛立ちを隠せない。

「全く、こちらの気も知らないであのバカーー!」










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