第19話 何もかもが、もう……
「ふふふ……これで終わらせる。」
リーダー格の男は完全に呆気に取られているユーザ達をよそに釣り上げられた怪獣達の前に仁王立ちになる。
「見ろ怪獣共!よく知らんが、お前らが怒る顔なんだろオォン!やって見ろよデカブツが!怒ってみろやボケェー!」
男は自らの顔を誇示する様に見せつけ精一杯吠える。だがその姿は小物感満載で実に直視しがたいモノだった。そのおかげでユーザ達も正気に戻る事が出来た。テロリストの子分達もその姿を見て呆気に取られていたので、ザッドもいつの間にか戻る事が出来た。
「ユーザの顔と声で小物ムーブすなー!」
「海の男の耳に相応しい言葉を喋れー!」
「どうでもええわ!とにかく金を搾りとりゃそれでいいんだー!」
付喪神達とキンノミヤも関係ないツッコミを繰り返していた。
そんな中リンだけは感傷に浸っていた。
「ペキオラちゃん…何でテロリストなんかの味方になってんだよ…?オレっちが引き戻してやるう!うおおぉ!」
リンは単身でテロリスト達に向かって行く。
「さっさと起きろよ怪獣さーん!!」
「この場の温度感どーなってんだよー!?」
ユーザと男が同タイミングで叫ぶ。
すると声が共鳴し、怪獣達が目を覚ました。
「グラルゥゥガー!」
「キャウラー!キャラー!」
「バアァリュルルゥガァー!」
三体の怪獣は立ち上がりだしそれぞれ咆哮を上げる。バブル全体を包み込む透明な幕にヒビが入り水が漏れ出してくる。
「「ウソだろー!」」
「お前も驚くんかい!」
「こっこれは非常にマズイ!」
さっき口を開かなかった本物の市長が馬車の中で取り乱し始める。馬車から飛び降りた市長はユーザに呼びかける。
「ユーザさん!今すぐ逃げましょうこんな事に巻き込んでしまって本当に申し訳ない!バブルの事はバブルで何とかしますから、ですから」
市長の忠告は本気だった。だがユーザは
「大丈夫。ここで逃げても依頼遂行出来なかったってキレるキンノミヤと殺し合いになるだけですし。どっちにしろオレに平穏は待ってないんです。」
「そんな…」
「オレ、怪獣1人で倒した事あるんですよ。それに今は仲間もいる。何とかやりますよ。ですから逃げてください。」
ユーザは不自然な程ひょうひょうとした微笑と声色で語りかける。市長はここで聞き入れてはいけなかったが、何故か聞き入れてしまった。
「……分かりました。でも我々もやれるだけの手は使わせて貰います。」
そう言うと、市長は返事も待たずに馬車に乗り込む。馬車の付喪神に呼びかける。
「バッロ!お前のやりたい仕事を与えるぞ。職員たちを救出するんだ。」
それまでぬぼーっとした顔だった馬車の付喪神バッロはシャキッとし出す。
「そうそうキタヨキタヨこういうのだよ!こういうカッコイイ系がやりたかったのよ!」バッロは
ハイテンションで走り出した。
バッロは囚われた職員たちを救出するべく、市庁舎を一心不乱に走り回っていた。
「バブル職員の皆さーん聞こえますかー!聞こえるなら返事お願いしまーす。」
車内でキンノミヤに市長が答えていた。
「数日前から付喪神として覚醒したんですけれど、突然こんなつまらない仕事は嫌だと駄々をこね始めまして。どうやらこういう形がやりたかったようです。」
「なるほど……つまり依頼解決と言う訳ですね。依頼料はきっちり後日振り込んでもらえればと。」
「…えっえぇ、勿論です。(この期に及んでがめついな。)」
「助けてくれー!ここにいる!」
「今行きまーす!」
SOSをキャッチしバッロは救助者の元へ向かう。
「させんぞー!」
テロリスト兵達が追ってきた。
するとバッロの中から影が飛び出す。
「……全部で3万カレンか。テロリストって意外と稼げないんだねぇ。」
「はっまさか…オレ達の金が!」
テロリスト達の所持金はキンノミヤによって全て抜き取られていた。
「金にモノを言わせて仕事をしてるんだ。チョチョイのチョイよ。」
「ふざけんな、やっちまえー!」
その頃ユーザは怪獣と対峙していた。3匹の怪獣達は彼に目もくれず暴れていた。そんな怪獣の姿を見てユーザは
「さっき市長にあんな事言っちゃったけどこれは………はっきし言って無理だ。」
ため息混じりに言う。
「はっ?さっきイケそうな雰囲気出してたじゃん!正直カッコいいと思ったのに。じゃあどうすんの!」
ユーザの本音にハーズは愕然とする。
「いや無理なのは倒すって事だ。元いた場所に返すんならギリギリ何とかなるかもしれない。だからここはあまり怪獣を興奮させずにだな…」
「いや、今更それは無いし。こっちはもう臨戦体制何だけど。」冷静なユーザに対しハーズは怒りのこもった声で徐々に左腕のコントロールを奪っていく。
「待て待て!無いしじゃない。本当に無理なんだって、ちょ!」
ハーズはもう我慢出来なかった。ユーザの左腕を完全にマインドコントロールしてユーザの体ごと宙に浮き上がる。
超常大陸で始めた会った時のように。
「やい怪獣!食らえーーッ!」
「待てェ!よりによってジラーガかよ!?」
ハーズが狙いを定めた深海怪獣ジラーガは大きな口で全て飲み込んでしまう。その上額の発光体から高圧かつ高熱の水を噴射する上、水の中でも走れる程の強靭な脚力を持つ厄介な相手だ。でもハーズはそんな事は気にしなかった。
ジラーガの口に飲み込まれても気にしなかった。
「いや気にしろー!」
「破壊!」
ハーズはジラーガの前歯の後ろ側に拳を叩き込んだ。
「キャ?……ギギキャァーーーァーーーーァ!」
ハーズの一撃は口内に穴を開け、黒い血が噴き出す。激痛に悶絶するジラーガはユーザを吐き出す。
「もう1発!」
今度は頭部の発光体に追撃を叩き込んだ。
「ギャラァァルラァアアア!」
発光体にヒビが入り光を失った。
そして、そのまま硬直し動かなくなってしまった。
「どう?倒せちゃったけど。」ハーズは笑顔でユーザに語りかける。
「ハハッ……そうだな。倒せちゃったなぁ………よりによってぇ!コイツを!1番!やってはいけない!やり方でなぁ!」
ユーザは今までに類を見ない程の怒声で激昂した。その後、10秒以上ため息が続いた。
「はっ……え?」
あまりの事にハーズは呆然とするしか無かった。
「はぁ〜。やったモンは仕方ないよな。見ろ。怪獣逃げてるだろ。」
ユーザが指を指すと残りの怪獣2匹が元いた場所に逃げているのが見える。
「……ボクの強さに恐れ慄いて?」
「違う。ジラーガが爆発するからだ。」
先程の平常心に戻って彼は説明し出した。
「ヤツの発光体はある一定の強さの攻撃は全く通用しない。が、その一定のラインを超えれば簡単に破壊できてしまう。だがあそこは高濃度かつ衝撃に弱いのエネルギーの塊でもある。そんな所にあんな攻撃仕掛けたらどうなる。」
「まっまさか」
「オレ達全員ドッカンだ。でそれを防ぐには」
「我の力が必要という訳だな。」
「正解!」
「元はと言えば、我が調子に乗って嘘の依頼を見抜けなかった事がそもそもの原因だ。ここからの後始末はさせて欲しい。」
ザッドは自分に問い詰めるように一つ一つ噛み締めるような声で言う。そして踵を返し、怪獣のいた所に向き直る。
「これから最終奥義を使う。お前達はリンを連れて早く逃げろ!」
「え、リン…あっすっかり忘れてた!どこぉ!リンドコォ!」
ユーザとハーズはリンを探すため走り回っていた。
「あそこだ!」
ハーズが指さすとそこにはテロリスト達に轢き逃げアタックを繰り返すリンの姿が。ターンを繰り返し、ベルを掻き鳴らしている彼の姿は側から見れば完全に族車その物だった。
「おい落ち着け!」ユーザはやっとの思いでハンドルを掴む。
「ペキオラちゃん見つけるまで帰えんねぇかんな!」
「もう無理だ!逃げるぞ!」
「嫌だ!オレっちまだ認めてねぇから、悲劇のプリンスだから!」
「自分で悲劇とか言ってる時点で無理だと思うよ!」
「あっ見つけた!」
リンは何とかペキオラを見つける!
「ユーザ、アレとって、アレ!とって!」
「駄々っ子か!」
なんだかんだ言いながら、ユーザはペキオラを回収する。
「お前はこういうのホント甘いからな〜。」
したり顔でリンは指摘する。
(くっ否定できん!)
「最終奥義!《わたつみ》海神網の陣!」
ザッドが唱えるとザッドの釣り糸は縦横無尽に走り始めた。そしてある一定の長さになるとある一定の規則に従って収縮し始めた。収縮したいとは、やがて大きな1枚の網となる。
「ダアアアアアッ!」
ザッドは自分自身を大きく振り上げ、すべての力を込め振りかぶる。
網はジラーガの巨体に丸ごと覆い被さって包み込む。
「フウゥンンンァアア!」
そしてザッドはそれを持ち上げ自分が釣り上げた穴に持っていこうとする。
一方ユーザは一心不乱にペダルを漕いで市庁舎の中を走っていた。。
「あれ?キンノミヤいない!クソッ後で引き返さなくちゃいけねぇのか」
「いいよいいよペキオラちゃんの方が大事!」
ああでも無いこうでも無いと問答を繰り返しながらも確実に出口に近づいていた。
「良いよなクロスバイクはよぉ、馬車じゃ降りるのも一苦労だよ!狭いし。」
キンノミヤは職員全員を助け出しとっくに市庁舎から出ていた。バブルの市内はこれといった異変は起きていない。
「……ホントにこの建物内だけの事件だったってワケか。」
「怪獣のいる場所も本来の立ち寄らない場所ですからね。後処理も何とかなるでしょう。」
市長は上手いこ処理するといって、職員と共に市庁舎に戻る。
「公務員も大変だねぇ。ってまだ依頼料金の見積もりしてない!ちょっ」
キンノミヤは市長を追いかける。その瞬間とてつもない衝撃が彼を吹き飛ばした。彼はそのまま動かなくなってしまった。
一週間後。バブルの診療所で目を覚ましたキンノミヤは呟く。
「はぁ〜、ユーザも目を覚さないし、一文の付喪神は行方不明。まだ初めて1ヵ月も経ってないのになんでも半端。このままじゃ倒産だ。」
その目と顔は考えることを放棄していた。
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