第16話 釣り合いの取れない依頼

「ここがウォータス1の大浴場ユラメキ湯だ!」

「へぇー…」

バカ医者はチェンジャーに元気いっぱいに呼びかける。チェンジャーは興味なさげだ。


「やっぱいいよ。人が多い場所は好きじゃないんだ。」

「ほらほらそんな言わずに、1時間歩いた甲斐はあるから。」

バカ医者は脱衣所に無理矢理連れて行く。チェンジャーの悪臭に他の客が怪訝な表情を浮かべるがバカなので気づかない。

無理矢理服を脱がす。そして驚愕する。

「なっなんだこの傷跡は!よくこんな傷で生きてこれたな。今すぐ治療したいが…まあいいや。まずは体を清潔にしよう。」



「ユーザ!今日の依頼はビッグだぞ!バブルの市長からだ!」

その頃事務所にはビッグニュースが飛び込んでいた。


「ホントか!バブルの市長って確か…」

「うむ。海の男として将来有望な逸材だった。まぁ我がなってしまったのだがな。ハーッハッハッハッ!」

ザッドを無視し、キンノミヤは話を進める。

「どうやらさ、そのザッドの力でどうしてもやらなくちゃいけないことがあるんだってさ。」

 

「やらなくちゃいけない事?」


「詳しくは市役所で話すって、まぁ行ってこい。公的機関にも認められればウチの評判も鰻登りだ。絶対成功させろよ!」


「あぁ。オレもキョクアへの資金集めのため頑張るよ。リン、ザッド、行くぞ!」

「おい待て、あっちから来るって……」

キンノミヤの話も聞かず、ユーザ達は事務所の戸を開けて快調に出かけようとした矢先、目の前には何人もの男女と何台もの馬車がいた。彼らは全員同じ制服を着ている。


「えっと…どちら様?」

「ユーザさんですね。こちらにどうぞ。」

エスコートされてユーザ達は都市職員3人と馬車に乗り込む。

リンは置いてかれた。

「四輪如きが調子乗るなぁー!」


ユーザ達は突然の事に脳が追いついてなかった。

「何かすごいVIP待遇だな…」

「これ依頼失敗したらボク達どうなっちゃうんだろうね……」

「怖いこと言うなよ!」


「……あれ?」

ユーザは職員の1人をじーっと見つめる。

「どうかされましたか?」

職員は尋ねる。

「何処かで…お会いしましたっけ?」

ユーザは職員の顔を見て

ほんの一瞬相手は顔が強張ったがその後は何事も無かったように、

「いえ。今回が初対面のはずですが。」

と返す。

「…ですよね。」


馬車の中でユーザとハーズはオドオドしていたがザッドだけは妙に落ち着いていた。

「やっと海の男としての力を見せる時が来たようだな。それにしても海底都市でお披露目とは。中々ツウな計らいをしてくれるじゃあないか。」

「何様だよ…」

「ってあれ?なんかスピード速くなってないか?」


ユーザの指摘通り、馬車のスピードは速くなっていた。それに対し都市の職員の1人が答える。


「よくお気づきになりましたね、これはバブルに行くために必要なのですよ。これからどうなるかぜひご覧ください。」

深みを持たせた言い方にユーザ達は首を傾げる。


そうこうしている内に馬はスピードを1段また1段と上げていく。


「こんなスピード上げてどうするんですか?」

「外をご覧ください。」

馬車の窓から外を見ると、向こう側には海岸線が見える。だが馬のスピードは速くなるばかりだ。

(大丈夫かコレ?)

そんな気持ちが大きくなっていく。

馬車はついに砂浜を踏み始める。スピードは最高頂に達する。

そして、

「今からバブルへ向かうため窓を閉めます。」

窓がしまった途端、馬と馬車が急に切り離される。

「えっ」

馬を失った馬車は海へ突っ込んでいった。

「ちょっとどうするんですか!」

「今がダイバーが来るのでお待ちください。」

「ダイバー?」

間も無くして、向こうから影が迫ってくる。影の正体は紐を括り付けられたイルカだった。イルカと馬車の暇は急にくっつき出し、イルカは馬車を引っ張り潜っていく。


「これは…」

「すごい…」

余りの出来事にユーザ達はしばらく息を飲むしかなかった。


目の前にいる職員の唇の端が上がっている事にも気づかなかった程度には。


潜水してから10分ほどで建物が見えてくる。

「ようこそ。こちらがウォータスが世界に誇る海底実験都市バブルです。」

バブルの市内はまるで別世界だった。都市の上から下まで全体が透明な幕で覆われているが中の住民や建物は、地上とほぼ変わりない。ウォータス特有の賑やかさがそこにはあった。だが、空の青が海の青に変わっただけで、見える印象は大きく変わったのだ。

「これから市庁舎に案内いたします。」


市庁舎の応接室に入ると、早速市長が出迎えていた。入ってくるなり市長は深々と礼をする。

「このたびはご依頼を受けていただき誠にありがとうございます。」

「いえいえ、こちらこそ。ウチのような小さな会社に依頼をして下さるなんて…」

ユーザも礼で返す。


「では、早速本題へ。今回依頼したのは、海の力を得たザッドさんに釣ってもらいたいものがあるのです。」

「ほう。我の力を借りるとはそれ相応の相手なんだろうな。」ザッドはふんぞり返った様子で聞く。

「ええ。単刀直入に言えば…怪獣を釣って欲しいのです。」

「かっ怪獣!?なんで!」

ユーザが飛び上がる。

市長は重々しい表情で話し始める。

「端的に言いますがウォータスは現在、新しい産業を求めているのです。丁度そこで希望の光が見つかりました。奥深くの深海にエネルギー変換効率の良い新資源が見たかったのです。この資源を産業に運用するためこの都市は生まれました。」


(あれ?話のスケールがだいぶでかいぞ?)


「だかしかし、その新資源の発掘予定地は水棲怪獣の巣窟だったのです。当然諦めるべきなのですが、それではこの都市を作った意味がないと国は1年以内になんとかしろと無理難題を申し付けてきた。ですが、打つ手なしのままタイムリミットは残り1ヵ月となってしまい…ですからザッドさん!海の男の称号を得た貴方に頼るしかないのです!お願いします。」

市長と職員はまた深々と頭を下げる。


「フン。やってやらない事もないな。怪獣か。骨ある奴ならいいのだが。」


「馬鹿野郎!こんな依頼絶対に受けないぞ。いくらでも重荷が過ぎるし、こんな突破な展開で読者がついていけない。」

ユーザの主張はあまりにも正論であった。


だがザッドは聞く耳を持たない。

「さて、どいつを盛り上げればいいんだ。」


その一言を聞いた瞬間ユーザは崩れ落ちた。





















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