第12話 おっ金ぇ〜侍 

「おいどういう事だ!」

ユーザはキンノミヤの胸ぐらを掴み壁に叩きつける。

「お前さ、オレに100万カレンくれるつったよな!」

「ああ言ったとも。」


「じゃあコレはどういう事なんだよ!たったの10万しか手元に無えじゃねぇか。残りの90万返せよオレの90万!」

掴んだままキンノミヤを揺さぶりながら激昂するユーザに対してキンノミヤは


「待て待て?全てがキミの手元に行くなんて一言も言ってないぞ。あっ、本気でもしかしてそう思ってたのか?……ププ…ククク…」

「あ?何がおかしい?」


「笑い涙を交えながらキンノミヤは応える。

ここの食費、光熱費、建物の管理費、建設費のローンその他諸々。何で賄うと思う?」


「依頼料だろ?」


「正解。でさ、そういうその他諸々をさこれから年単位で払って行かなきゃならんのよ。でキミ住み込みじゃん?正直なところキミには10万どころか、1万カレンも渡したくないんだわ。」

キンノミヤは現実を突きつける。


「えっそれは、えっえぇ?お前らも気づいてた?んなわけ」

「「「ある」」」

ユーザは3体の付喪神に同意を求めたがダメだった。

「そーだよなぁ……そんなもんだよなぁ。なーんで分かんなかったんだろな…………… ア゛ーハーア゛ァッハアァーー! ッグ、ッグ、ア゛ーア゛ァアァアァ。」

泣き出した。我に返ったユーザは。


「それぐらい経営は火の車なのよ、見切り発車だし。車だけにってかハハハ…」

キンノミヤの笑い声にさっきの様なハリが無くなっていく。

泣き出した。静かに静かに。


そして2人は黙りだし拳を付き合わせ、やがて手を絡ませる。目を合わせ、熱い眼差しが瞳孔同士捉えすます。


「…頑張ろう。」

「あぁ。」


静と動。2つの涙はやがて活力へと昇華していき彼らに力を与えた。


そんな彼らの下に良いタイミングで依頼の手紙が事務所の前までやってくる。


2人は我先に依頼人の元へ駆け寄りどっちが見るかで揉める。


「オレ行くって、」

「いやいいよ、」

「遠慮はいらないからさぁ」

「別にしてないしぃ」

「オレ聞くよ!」

「いやオレ聞くから!」

「いいよオレが!」


「じゃあボクが…聞こうか?」

左腕からハーズが囁く。


「「オレやるつってんだろ!!」」


結局2人で仲良く読む事になった。


「何々うちのハサミが変わりたい変わりたいうるさいです……ってこの名前、これ送ってきたの実家にいた従者じゃん!」

手紙を見るなりキンノミヤは顔色を変える。


「え?実家ってあのカントにあるやつ?」


「そうそう。それに宛先がウォータスのドリップになってる!じゃこれを機にウチの店に取り込んじゃお。」

質問に答えながらこれからの方針を決めるキンノミヤに対しユーザは


「お前……結構ライブ感で生きてるよな。」

やや呆れた様子で言い返す。それに対しキンノミヤは

「大金に目がくらんで旅する途中で正社員になるお前も大概だろ?」


依頼人とはストリームからもう少し北にあるウォータスの田舎町ドリップの古い宿の前で待ち合わせだ。


「おうおうやっぱりタキガワだ!久しぶりタキガワ!」

キンノミヤは手を振りながら駆け寄る。依頼人のタキガワはキンノミヤより年上でどこか落ち着いた雰囲気を感じさせる男だった。顔から欲情が滲み出てるキンノミヤとは大違いだ。


「え?貴方は、キンノミヤ様?でいいのか、えと…どう対応すれば…いいんでしょうか?」


「いいよいいよ様付けなんて堅苦しい。まあ言うとしたらさん付けかなぁ〜!」何かと失礼なキンノミヤの間に入って


「いやー取り込み中失礼。オレはユーザ。2人はどういう繋がり?依頼の内容も具体的に知りたいし、ちょい場所変えね?」ユーザが切り出す。


3人は一旦宿の部屋に入り依頼を聞くため腰掛ける。

「まず依頼についてなんだけど」


タキガワはうなづくと内容を話す為ハサミ1つ取り出す。

「それが変わりたいって言ってる例の?」

「そうです。例のハサミです。いまは眠ってるんですけどさっきまで変わりたい!自分を変えたい!ってうるさくて……なのでここに依頼を。」


「そのハサミにも話を聞く必要があるな。そのハサミは中古屋で買ったモノ?」

質問に対してタキガワは首を横に振る


「いいえ。自分で作ったモノでかれこれ7年近くは使ってますね。」


タキガワの作った発言にユーザはとても驚く。

「へ?今さらっと自分で作ったって……」


「そう!彼はカントの鍛治職人。ウチの実家の専属で刀とか槍とか矢尻とか、色々作ってもらってたんだ。あぁ〜懐かしいなぁ父上達元気かなぁ。」

目を瞑りながらしみじみとキンノミヤが応える。

「へぇ〜。でもお前、前に家追い出されたとか言ってなかったか?」


「はいその通りです。」

口を開いたのはタキガワだった。

「キンノミヤ様の実家は、カントでも有数の武士の名家です。キンノミヤ様はそんな家の長男として生まれました。もちろんご両親は武芸と学問に打ち込んでもらい立派な侍にしたかったのですが…」

過去を語るタキガワの顔は苦々しい物になる。


「キンノミヤ様は稽古や勉強をサボってばかりだったのです。屋敷を飛び出し、身分を偽り出稼ぎばかりしていました。」

「筋金入りのお金っ子だね…。」


「見えないところに落ちているお金を発見したら普通ではない所も多かったです。」

「あー確かに初めて会った時も金払ってたなぁ。」


「それでも最低限侍と呼べるだけの武芸と学を身につけていたので良かったのですが……。」


「ですが?」


「代々受け継がれる家宝を……キンノミヤ様は全て売ってしまったのです。」


「すっ全て?!」


「中には博物館行きレベルの宝もあったのです。ですが、全て……ビジネスを始めるといい売ってしまったのです。」


どれだけの事をしでかしたのかタキガワのため息が物語っていた。































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