第10話 綺麗好きのメロディー

「ここがキミの職場だ。あのオーディションでキミを見てから急ごしらえしたんだけど、いい感じだろう?我が祖国カントの伝統的な住居をイメージしたものだ。」


店はストリームの中心地から歩いて10分の所にあった。看板には

『付喪神案件国内実績No1!付喪神なんでも本舗!』

と書かれていた。


ユーザは疑問に思う。

「勝手にNo.1とか書いていいのか?」


「この事業やってるの俺たちだけだからいいのいいの!いい感じの仕事すれば嘘偽りなしだ。」

悪びれる様子もなくキンノミヤは言う。


「依頼か。そう簡単に来るとは思えぬ。人を集めると言うのは大変なことだ。」

「あんなでかいオーディション開催したお前が言っても説得力ねえよ。」


「まあまあお話はこのぐらいにして、とりあえず中に入って。」

内装を見てユーザ達が目を見張る。

「なんか…見たことないな、この感じ。」

「我が祖国カントの伝統的な住居のつくりをイメージしたものだ。」


「この床は?」

「畳だ。い草という植物から作られてる。畳の所は靴を脱いで上がってくれ。」


「これ窓?なんか白いけど。」

「これは障子。丁度いい光部屋に持ってこれるんだ。断熱効果もあるぞ。」


「この扉は…」

「ふすま。引き戸の扉だ。」


「君の部屋は2階だ。好きに使ってくれ。まぁそれよりも早速依頼が来てるから、行ってきてくれ。」キンノミヤは依頼内容と依頼人の住所が書かれた紙を手渡す。

「分かった。みんな早速行くぞー!100万がオレを待ってるんだ!」


「う、うむ。」(やはりおかしい。)

「わかってるっちゅーの。」(こーりゃマズイねぇ。)


100万カレンしか頭がハイになってるユーザは朗々とした気持ちで依頼場所に向かった。


「ここだな。初仕事の場は」依頼人の家はウォータスにありがちなレンガづくりの一軒家だ。


「お邪魔しまーって、うわぁ!」ユーザが敷地に足を踏み入れた瞬間家の中から何か飛び出してきた。


「もうこんなウチには居られなーい!」真正面に向かってきたのは付喪神だ。ユーザはそれをキャッチし、両腕で取り押さえる。


「手荒な真似で済まない。一応確認なんだけど、ご主人から依頼を受けたユーザだ。依頼したのはこの家で…合ってるか?」


「あー合ってるね。だけど俺はこのうちと無縁の存在だ。なんせここを出ていくんだからな。」


「え?出ていく?」ユーザが困惑していると、


「すみません。ハニモがご迷惑をおかけして私が依頼人のブロブです。」

「ああ、あなたが。早速話を聞かせてもらえませんかね。」


「ええどうぞどうぞ。」ユーザ達は中に入る。ハニモを両腕に掴みながら。


「今お茶を出しますので、そちらに腰掛けてください。」

暇なので何気なく家の中を見回す。一行は何か違和感を感じた。


「おい離せ人間!いつまでも掴むな!洗ってない手で触るな汚い。」

「ああごめんごめん。君の名前ハームとか言ったよな。なんの付喪神だ?あと色々聞かせてくれないか。」


「俺はハーモニカの付喪神。はぁ汚い。体を今すぐ洗いたい。」

(ハーモニカかぁ。聞いたことあるけど実物は初めて見た。)

「ついこの間までキョクアにいたと思ったら、よく分からん店で眠ってた。」


「あの中古屋の事だな。」

「だね。」

ハーズと会話してる様子を見てハニモが問いかける。


「え?その腕につけてんの付喪神か。」

「そう。ボクの名前はハーズ。籠手の付喪神。あと外に2体お留守番してる。」

「三体も引き連れてんのか。キョクアでも見なかったなそんな人間。」

「そうか…なんで家出したいか分かんないけど多分依頼の内容ってそれだよな。」

「ったく余計なことを…自分が悪いんだろうが。」


ハニモが、そう呟いたところでブロブがお茶を淹れて戻ってきた。


「単刀直入に聞きますがどのような要件で?」


「何か楽器を弾けるようになりたいと、ただ漠然とそう思って。中古屋を見ていたらビビッときたですね…買ったんですよ。」


「はぁ…ビビッときて、」


「でいざ買ってみるとこの通り喋り出して、まぁ驚きましたよ。で何を言うかと突然飛び出して家の中を見るなり、思えば埃っぽいだの、空気が淀んでるだの、コレを早急に洗えだの、洗ってない手で触るなだの。しまいには出ていくと言い出したので実績No.1と聞き依頼したわけです。」


No.1の文言に多少引っかかったものの顔に出さずユーザは考える。

「なるほどキレイ好きな付喪神か。一度ハニモにも話を…っていない!」


ハニモは玄関をこっそーりと開けて逃走を測ろうとしていた。ユーザはすかさず捕まえる。


「ドアを開けるハーモニカだなんてずいぶん器用なこった。」

「やめろ汚らしい!せめて手を洗え。それまで一切触るな!近くにもよるな!あーここにいるだけで自分まで汚くなりそうだ。」


ハニモは苛立ちを少したりとも隠さず言う。どうやら本当に嫌らしい。


「困ったヤツだな。そんな汚いかこの家。」


「ほほぉ。どうやら人間って生き物は目が節穴みたいだな。ハーズとか言ったな。この家の汚さが分かるだろう!同じ同士よ!!」

必死の剣幕でハーズに詰め寄る。


「そうでもなく無い?ボクは少なくとも気にならなかったよ。大体家のリビングなんてこんなもんだよ」

ハーズはさっぱりと言い切る。だがハニモは諦めない。


「いいや、人が来るからある程度掃除しただけだ。この家の本当の姿を見せてやる。」


そこでユーザ達が目撃したものは想像を絶するものだった。











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