なんでも本舗オープン!

第9話 金の始まりは縁の始まり

あの特訓から一ヶ月。ユーザ一行はウォータスの東町に着いたところだ。因みに特訓は三日三晩続いたところでユーザが強制的に辞めさせたようだ。


「つまんねーヤツー。せっかくギア80までいけたのにつまんねーヤツー。」

ジト目でリンが言う。


「こっちの命が持たんわ!!森の中でであれ以上は無理だ!」

必死なってユーザは反論する


「20でもヤバいと思うけど…感覚麻痺してない?」

ハーズがため息混じりに呟く


「海の紛い物ばかりでうんざりだった。ユーザの判断は正しい。」

リンの車体後部に括り付けられているザッドは不服そうな表情だ。


「川や沼を海の紛い物って言うのやめろ?」

すかさずユーザがツッコむ。


一行は平常運転だった。


「それにしてもここも大きい街だね。」ハーズが街を見渡し言う。


「そうだな。なんたってここはウォータス2番目の大都市ストリームだからな。」

「でもクロスバイクとかは無いね。」

通行人を見渡しても、徒歩や馬車ばかりでクロスバイクのユーザはかなり浮いている。


「確かにそうだな。オレも見たことなかったし。あと、ザッドみたいな形の釣り竿も見たことねぇな。…もしかしたらキョクアだけの物なのかもな。」ユーザは考えながら言う。


リンとザッドも

「うむ。確かにそうかも知れぬな。海の男を知る者もおらぬしな。」

「オレっちが探してる二輪の錬金術師もだーれも知らんしな。」

「それはちょっと違うと思うが…」

一応納得の様子だ。


「俺たちは資金調達のためにここにしばらく滞在だ。ストリームは確か…ラジョーア一の水族館と釣り堀があるん」


「何、ラジョーア一の水族館!釣り堀!それは見過ごせん!行くぞすぐ行くぞ絶対行くぞ!」ザッドが何気ない一言を釣り上げる。


「あっ言わなけりゃよかった…ま、しばらくはここは滞在するから余裕があれば行ってまいいけどよ。……ホントこれ以上の金無し生活はきつい。」ユーザはそうに言った後、頭を掻きむしる。


「確かに。ボクたちは食べなくても別にいいけどユーザはそういかないもんね。」

「あぁ、それにしても資金調達どうすっかな〜」

ユーザはベンチに腰掛け空を仰ぎながら言う。


「お困りのようだね。」

「!」

気配もなく男の声が聞こえた。振り向く間も無く次の言葉が告げられる。


「お金に困ってるんだろう?金の切れ目は縁の切れ目だよ。ユーザ君」

「なぜ俺の名を、」

そこまで喋るのが精一杯だった。

いつの間にか手を掴まれる。そして


「付喪神で金稼ぎ。やってみない?」

その一言が聞こえた瞬間急に男から人の気配が出てくる。


ユーザは掴む手を払いのけ立ち上がる。彼を目一杯睨みつける。

「……何者だ。」手は震え、脂汗が額から滴り落ちる。


男は微笑したまま黙りこくる。


ユーザは男の体上から下まで見渡し、

「ここではよそう…オレの指示通り動け。不審な真似したら殺す。」といい男を前にし歩かせる。


その瞬間男が右方向にジャンプし始めた。


「行くぞ!」

左腕を伸ばし、ふくらはぎを掴む。そのまま握り込み、使い物にならなくしようとしたら

「金金金ぇー!お金がオレを呼んでるぅー!」

そう叫びながらユーザごと地面を這い進んで行く。

「おっおい待てぇ!」

ハーズは手を離す間も無く一緒にそのまま目の前の飲食店に突っ込んでいった。


「1カレン獲ったどおおお!」

男は最小単位の硬貨を拾い喜んでいた。

「どういう事だよコレ…」

ユーザは唖然とするしかなかった。


飲食店の店主がやってきた。かなりご立腹の様子だ。

「他のお客様のご迷惑ですので、利用されないのであれば即刻出ていってもらいます。」

「あわわ、すいません。ほっほら行くぞ…」


「お騒がせしましたワタクシ付喪神なんでも本舗のキンノミヤと申します。」構わず名刺を渡そうとする。

「これ以上居座るのであれば警備隊を呼びますよ」

「ホントすいませんでしたではさよならぁー!」

ユーザは彼を引っ張りダッシュで店を後にする。


「ハァハァ、お前何なんだよ一体。」

「ハァハァ、分かったでしょう?金の切れ目は縁の切れ目。その逆は縁を生み出す。この1カレンが証拠です。」

彼の目は本気だ。

「金の始まりは縁の始まりです。」

本当にそう思ってるらしい。


「海の男だの二輪の錬金術師だの金だのまたこういう奴かよぉー!」頭を掻きむしりユーザは天に向かって叫ぶ。


一息ついた2人はベンチに腰掛ける。一度咳払いをしてユーザは話し出す。

「で?お前…キンノミヤだっけか。目的は一体何だ。何故オレの名前を知ってる?付喪神ビジネスってなんだ?」


「ちょっと質問が多いよ〜。まあ一つづつ説明していきますね。いや、話すよりもまずこちらを、」

キンノミヤは名刺を渡してきた。


ユーザ達は名刺を覗き込む。「えーと、付喪神なんでも本舗代表取締役キンノミヤって書かれてるね。」

「あ?なんこのマーク?」

「まるで紋章のようだ。」


「この紋章…お前もしかして、カントの人間か?」

「よくわかったね。」

「カント国民の上流階級の人間って家紋とかいう紋章を持ってるのを聞いたことあって……って!お前お坊ちゃんなのか!」


「育ちは良いかもしれないけど追い出された。お前は2度と武家を名乗るなと。」

「武家?サムライってやつか。」


「そう。侍ってやつ。」

「何してそうなったんだ…って、話を戻すぞ。なんでオレの名を知ってる。」


「だって自分から知らせてたんじゃん。あの訳わかんないやつ。ほら海の男がナンタラとか…」 


「うあ〜〜〜あれかぁ。謎に人集まってたしな。」


「そう。そこであなたはみんなが驚く中さも当然のように付喪神と接していた。だからこそまさに付喪神ビジネスに欠かせない!大丈夫給料は多めに出すから。」


「おい待て。いつの間にかオレの勧誘になってるぞ。そんな面倒臭さうな仕事は受けない。俺達にはキョクアに行くっていう目的があるからな。」

ユーザは堂々とした態度で断る。


するとキンノミヤは目を丸くして、

「キョクアに行く?多分あなた達無理だよ。」


「何で?」すかさずユーザは反論する。

「今国境沿いに巨大な壁ができてね。キョクア国民とキョクアの植民地の人間しか通れないよ。」


「オレっちがいた頃そんなんなかったぞ。なぉザッド。」

「うむ。何故急に?」

「分からん。でもホント急にできたからみんな怪しんではいるよ。」


「おいどうする。キョクア行けないならオレ達の旅は」

「意味ないってこと?」

ユーザとハーズは肩を落とす。


それを見てキンノミヤが耳元で

「でも金払えば通行手形が手に入るんだとさ。」

囁く。

「教えてくれどれくらいだ!」顔上げてユーザは耳を傾ける。


「1000万カレンだね。」


「やっぱ無理だ。そんな大金俺たちの無縁の数字だ。」がっくしと肩を落とす。


「だーかーらー、給料は多めに出すって言ってるでしょ?とりあえず…100万でど?」

「いきなり100万!?マジで!でも付喪神でそんな儲ける算段があるのか」

「あります。オレの金に対する情熱を舐めてもらっちゃ困るね。」


「あぁ悪い奴ではなさそうだし、信じるよ。」 


「ありがと。じゃあ契約成立ということでよろしいかな?」

「もちろん!」


それを横目で見ていた付喪神達は

「コレ絶対騙されてるよね…だって最初気配もなく近づいてきたんだよ。手取り40万とか普通じゃないし。」

「我も海の男としてのカンもそう告げている。」

「知らないちゃん大金で脳が破壊されちゃってんねー。」

小声で話し合う。


「ヤバそうだったら、ボク達が」

「常闇から釣り上げねはならぬな。」

「ギア上げて一気にな。」


キンノミヤとの出会いは果たして良縁か悪縁か。少なくとも3体の付喪神達の縁は深まった。
















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