新しい選択肢

「おい、いきなり詰んだじゃねえか。どうすんだよ、これ」

「はかやろう。奇跡は行動した奴にしか起きねえんだよ」

「お前が俺に話しかけてきてんのがそもそも奇跡だけどな。まあ全然ありがたくねえけどな」

「いいからやってくれよ。やらないと夜中にリサイタルしまくるぞ」

「シンプルに嫌なやつだな!お前、そんなんだからモテねえんだよ!」

「俺がフラレてんのはお前のせいだろうが!」

「仕方ねえだろ!このゲーム難易度高いんだよ!」

「どこがだよ!これ以上ないくらい甘い仕様だろうが!」

「んなことはない。この俺が何度も失敗してるんだからな」

「お前、あの失敗回数でよくそのスタンス保ってられるな……」

「ちょっとうるさいんだけど!何一人でエキサイトしてんのよ!あんたとうとうゲームと会話できるようになったの!?」

「ご、ごめん!そんなんじゃないから。思春期男子あるあるだから」

「アンタの青春はもう終わったのよ」

「いや、サラッと何とんでもないこと言ってくれてんの!?まだ始まったばかりだよ!」

「じゃあ、静かにしなさいよ」

「いや、無視かよ!」


 姉の声が聞こえなくなると、神田川はテレビから再び出てきた。この状況に適応している自分がなんか嫌だ。


「お前、姉ちゃんいたのか」

「ああ。それより静かにしろ。俺が残念な奴に思われる」

「もう手遅れな気はするがな。よし、頼んだ」


 これ以上口論しても仕方ないので、仕方なくゲームを再開すると、オープニングの映像が流れ始めた。

 何度も見た映像だけど曲が好きだからつい見ちゃうんだよな。ああ、癒やされる……。

 やがてそんな癒やしの時間は終わりを告げ、本編に入る。

 ……おかしい。ゲームってもっと楽しいはずなのに。

 釈然としない気持ちのままテキストをぼんやり眺めていくと、まずは幼馴染が登場した。


『おはよう、陽くん。今日もいい天気だね』

『ああ、ぶっちゃけもう少し寝てたいな』

『もう、新学期初日からそんなのだめだよ!ほら、起きて!』


 あぁ、羨ましいなぁ。

 定番すぎるお目覚めのイベントについニヤニヤしてしまう。俺が寝坊なんてしたら、姉ちゃんから蹴飛ばされるか投げ飛ばされるだけだろう。

 すると、ここで変化が起こった。


「あ、あれ?なんだ、これ?」


 本来ここはただの会話がしばらく続くシーンだったはず。

 だが、今画面にはギャルゲーの楽しみの一つ・選択肢がでかでかと表示されていた。


・大人しく起きる

・布団の中で抗う

・別れ話をする


 な、なんだ、これ……?

 見たことのない選択肢なんだけど……まさか、神田川が出てきた影響か?

 ごくりと唾を飲み込む。今度は一体何が起こるのだろう?

 僕は手に汗握り、思いつきで一つ選んでみた。 





 

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