ギャルゲーの主人公に頼まれて脇役攻略させられてます
差等キダイ
プロローグ
「ごめんなさい。私、あなたの事……そういう風に見れないの……」
「マジかぁ~~~!!」
僕は脱力しながらベッドに仰向けに倒れる。また失敗か。どうなってんだ、これ……バグかな?それとも不良品かな?そういう仕様なのかな?
気怠い気分に心を曇らせながら、何が悪かったのかを反省してみるも、何も見えてこない。おかしい。一時間前は上手くいってたじゃないか。
どうして彼女達はこうも気まぐれなのだろう?
どうして彼女達はこんなにも僕を魅了するのだろう?
どうして僕は……………………二次元の女心すら理解できないんだろう?
「ギャルゲーも奥が深いなぁ……」
そう。今僕が寝る間を惜しんで挑戦しているのは、恋愛シミュレーションゲーム、通称ギャルゲーだ。
家に帰り、早めの夕食を摂ってから、かれこれ七時間。もう外はすっかり真っ暗だ。
画面を食い入るように見つめながら、彼女達の中の一人に全身全霊で求愛した。手と頭しか動かしてないだろ、なんてツッコミはいらない。とにかく全力なのだ。
そして、見事にフラれた。
これを失恋と言わずに何と言おう。
「おい」
はあ……どうしてもんか。さすがに心が折れそうだ。
なぜなら、このゲームを買って、半年経ってるというのに、まだ一人もクリアできていない。
攻略サイト?恋愛にそんなもん存在しない。
精一杯、誠実に彼女達と向き合うのが僕のやり方だ。
「おい」
さて、気を取り直して、次のチャレンジに移るとしよう。今度はいける気がする。
「おい!」
「今ゲーム始めるとこだから話しかけないでくれ」
「こ、こいつ、動じてねえ……」
いつの間にか、見知らぬ男が傍に立ち、ゲームを始めようとしている僕を怒った顔で見下ろしていた。
…………え?見知らぬ男?
「ちょっ……ええ!?だ、だ、誰!?」
「遅っ!反応遅えよ!」
そこにいた男は、僕と同い年くらいで、見た目は……まあ、イケメンだ。しかし、彼の醸し出す残念な雰囲気が、素直にイケメンと言いたくなくなってしまう。あれ?こいつどこかで見たことあるような……。
その男は僕の肩を掴んでガクガク揺さぶってくる。
「オイ!テメエのせいで、こちとら何度も何度も失恋の大ダメージ受けてんだよ!いい加減にしろ!これで何回目だ!?」
本当なら強盗か何かを疑い、逃げたり叫んだり殴ったりするところなんだろう。
しかし、僕は自分でも不思議なくらいに落ち着いていた。それが何故なのかはよくわからない。
僕は……こいつを知ってる?
とりあえず、目の前の男に対し、思いつくままに言い返す。
「いえ、どこのどなたかは存じ上げませんが、自分のスペックの低さでモテないのを僕になすりつけないで貰えませんか?はっきり言って迷惑なんで」
「なっ…………た、確かにその通り……って、ふざけんな!俺に関しては半分以上お前のせいだ!」
「全部と言ったのを半分以上に訂正したのは評価しますが、それでもまだ多いですね。とにかく僕には関係ないので、出て行ってもらえますか?警察呼びますよ」
「いやいや、俺今さっきお前のせいでフラれたんだって!本当に!」
「今さっき……ん?」
もう一度、男の顔をよく見てみる。すると、その顔にはやはり見覚えがあった。もしかして……
僕は手に持っていたゲームのケースを開け、説明書を確認し、目の前の男と交互に見比べる。
な、何……だと……。
「う、嘘、だろ?な、何で……」
「いや、お前がアホすぎて、文句言いたくなったんだよ。おい、ふざけんな。どういうことだ、コラ。何をどうしたら100回以上フラれるんだよ」
「何で……」
「言わせてもらうけどな!お前、何で初めてのデートで真っ先にホームセンター行くんだよ。二人の未来の新居でも考えてんのか!?彼女ドン引きしてたわ!」
「何で……」
「ん?おい、俺の話聞いてる?」
「何で主人公が出てくるんだよ!!!」
「……え?」
「てめ、ふざけんなよこの野郎ここはいきなりメインヒロインが画面から出てきて僕と出会い頭にキスする場面だろうが!何で微妙に冴えないイケメンが出てくるんだよ!さっさと二次元の海に還れ!!」
「な、なんだと……この童貞野郎が!」
「いや、そっちもだろ。プロフィールに女子の前だと緊張しがちって太鼓判押されてる」
「ぐっ……」
「…………」
「…………」
「……止めようか」
「……ああ」
部屋にどんより哀しい時間が流れる。
これほどみじめな罵り合いはない。
今さらだけど、この男の名前は神田川陽一。僕が攻略しているゲーム『センチメンタル・トレジャー』の主人公だ。
……何で僕はこの現実をすんなり受け入れてるんだろう?いつもはあんまり肝の据わったほうじゃないんだけど。
念の為、確認してみる。
「あ、あの……本当に神田川陽一なのか?」
「ああ」
彼は当たり前のように頷いた。すごいな、本当に普通の人間にしか見えない。なのに、ゲーム画面での雰囲気を損なっていない。
「ど、どうして……ゲームの中から……」
「何故出てこれたか、理由は俺にもよくわからん。お前のあまりのゲームの下手さに文句を言いたかったからかな……」
「そんなんで出てこれるなら、世界中でバ〇オハザードの主人公とかが、下手くそなプレイヤーをボコボコにしてると思うんだが……」
「まあ、そこは考えても仕方ねえよ。それより、せっかく出てこれたんだから、直接頼みたいことがある」
「頼み?」
「俺……実は好きな人がいるんだ」
「はあ……」
「いや、リアクション薄いな、おい」
「だってさ、いきなりテレビから飛び出してきたゲームキャラに、『実は好きな人がいるんだ』なんて言われても……」
「……確かに。俺自身、全然楽しめないシチュエーションだが……いや、まあ聞いてくれよ」
「どうぞ」
「俺さ……美幸先生が好きなんだ」
「……誰だっけ?」
「てめえ!覚えとけよ!祐希の通う保育園の先生だよ!」
「あっ、そういえば弟いたね!」
「えっ?マジで言ってんの?お前、このゲーム、プレイしてんだよね?」
「一回見たシーンは飛ばすタイプなんで。あと主人公の男兄弟とか、どこに需要があるのか、さっぱりわからないんで」
「バカヤロー!祐希可愛いじゃねえか!ほっぺたとかぷにぷにで……」
「あっ、そういうのいいんで。話を進めて」
「こ、こいつ、殴りたい……いや、何つーか……あの人が好きなんだよ。ほら、優しいじゃん?」
「…………」
「おい、寝るな。てか、この状況でよくその選択ができるな」
「……何でしょうか。さっきも言ったけど、さっさと二次元の海にお帰りください。そして、明日の朝、渚ちゃんに僕を起こすよう、お願いしてください」
「俺の力を超える願いは叶えられん。だが善処する」
そう言いながら善処した奴は見たことがない。
とはいえ、好きなギャルゲーの主人公の頼みだ。話を聞くくらいならいいだろう。正直、まだ夢の中の可能性も否定できないし……。
「……わかった。言ってくれ」
神田川陽一は、意を決したように目を見開き、真っ直ぐな瞳を向けてきた。
「俺があの人を攻略できるよう、協力してくれ!」
「…………」
深夜に起こった不思議な出来事。不思議な出会い。
そのいきなり過ぎる出来事の連続に、自分が夢の中にいるような気がしてきた。
ちなみに、ここまでで女性キャラの登場人数……ゼロ。
さらに……
「あれ?このキャラクター……攻略対象じゃない……」
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