第2話


「チッ…何だこのジジイ!」

「人の事をジジイ呼ばわりとは、王子というのに口が悪いのお」

ゲルドが苛立っているのは理由があった。

(なんだこのジジイ…!剣も魔法も当たってるはずなのに…傷一つつきやしねぇ!)

縦に斬っても横に斬っても斜めに斬っても傷はつかない。炎魔法を打っても暑がる素振りも見せず、風魔法を打てばそよ風を受けたかのような反応をする。何をしてもどんどん硬くなっていく一方。


(どうしろってんだよこんなの!?)

「ふむ、戦いに長けた国だと聞いたがこんなものか。小僧、去れ。今なら無傷で全員帰してやろう」

「ッハ!俺が負けるわけねぇだろ!俺は第二王子だぞ!」

「王子だからと実力が変わるわけでもあるまいて…」

「うるせぇ!さっさと死んどけよ老いぼれ!」


「命までは取らんが、まぁ二ヶ月ほどは動けんくなってもらうぞ」

その瞬間眼の前にいるゲンドウの姿が消えた。


(どこに行きやがった!?あの強さで逃げるわけがねぇ!クソッ…)

「出てこいよジジイ!逃げんじゃねぇぞ!」


「逃げるわけがなかろう」

背中に激痛が走る。足、腕、腹、次々と破壊される感触がした。

(このジジイ…!そういうことか…!ただでさえ硬ぇ身体を攻撃を受けてもっと硬くして攻撃に使ってきやがる!)

一発一発が鉄のハンマーより重い一撃、十秒も経たずゲルドの身体は痣だらけになる。

「骨は折らずに肉だけ叩いた。まぁ、数カ月は動けんだろうがな」

ゲンドウの言う通り腕や脚は動く。だが身体が痛みに耐えられているかは別だ。一瞬で意識が飛ぶほどの痛みが全身を駆け巡る。


「【堅牢】…その名の通りだなジジイ」

「ワシもその名は嫌いじゃないぞ」

「だが、国に攻めた時点で退けねぇんだ。無理矢理にでも道連れにしてやる!」


ゲルドが手に取ったのは数日前、国に来た商人から買ったドーピングアイテム【傀動】。

無理矢理にでも身体を動かし、死ぬ寸前まで戦闘の傀儡となるアイテム。

そしてゲンドウはその薬を見たことがあった。


「小僧…!その薬をどこで手に入れた…!?」

「そんな簡単に教えるかよ!」

「なら無理矢理にでも吐かせるのみじゃ!」

ゲルドが【傀動】を使うと周りにいた兵達もがそれを手に持ち、使用し始めた。

(チッ…どうにかして殺さずに口を割らせねば…)


ゲルドと兵達はゲンドウを囲み始める。だが、ゲンドウとカルディアの兵達の両者には圧倒的な差があった。


「最悪死んでも文句は言うなよ死に体共!」

「【固流捕縛】!」

手を地につき発動させた魔法。

手をついた場所からコンクリートのような物が発生し波のように敵兵達を襲う。

「【堅硬】!」

先程まで柔らかい液体だった土は相手に纏わりつき固まり、捕縛する。

その硬さはあのザイルさえも数秒留めることができる硬さである。


「くっ…そっ…!動けねぇ!」

「小僧、それが割れたら半殺しで済ませてやるぞ」

「うるせぇ!こんなもんすぐに壊してテメェをぶっ殺してやる!」

「まだ戦意があるか…じゃがもういいわい。キャンキャン犬のように吠えても耳障りじゃ」

「何をっ…!?」


その瞬間ゲンドウは持っていた杖でゲルドの顎を撃ち抜いた。

兵を束ね、この隊で一番強かったゲルドが脳震盪を起こし、一瞬で意識を落としたことにより敵兵の戦意は完全に折られた。


「お主ら、これ以上動いたらこの王子の頭蓋を破壊する。まぁ、動ける者もいなかろう…」

「ゲンドウ様!兵を連れてきました!」

「おぉ、ありがたいのう…じゃがワシが全員倒してしまった。王に報告を頼んでもよいか?」

「了解しました!お前ら!城に戻るぞ!」

アルベリオン兵と話しているゲンドウの顔は先程の修羅のような顔ではなく孫を相手にしているような優しい笑みを浮かべていた。



十数分後、レティス達が戦場にやってきた。優しいゲンドウがここまで相手の心を折るとは思っていなかったらしく、顔を引きつりながらゲンドウを褒めていた。


「ゲンドウ、よくやった!」

「ありがたいお言葉じゃのう…その言葉だけであと十隊は潰せそうじゃわい」

「うん、そこまでしなくていいから…!」

「ホッホッ、冗談じゃよ」

「なあゲンドウの爺ちゃん!俺が今回は戦い譲ったんだぜ!褒めてくれよ!」

「おぉ、ザイル譲ってくれてありがとうなぁ、優しい子でゲンドウは嬉しいぞ!」


ゲンドウはアルベリオンの民全員のお祖父ちゃんなのである。

騎士団にも城にもゲンドウに褒めてもらいたいと思う人間は多数いるほど、褒めるのが上手いのだ。

まぁ俺もその一人なんだけども。


「さて、カルディアの第二王子様、うちに攻めてきたってことはそれ相当の覚悟はできてますよね」

「あ、すまぬ王よ。今は脳震盪を起こしておるから数分は起きんよ」

「お、おう…」

(相当派手にやったんだろうな…)


そこに一人の男がやってくる。

それも馬から飛び降りそのままスライディング土下座をしながら。

「レティス王!ご無事ですかぁぁぁ!!!!」


「……いやお前カルディアの第一王子だろ!!」

「すみません!私がゲルドの手綱を握ってないばかりに!私も攻めるとは知らなかったのです!」

「すまぬが第一王子よ、ワシは聞きたいことが一つある」

「な、なんでしょうかゲンドウ様!」

「あやつらが持っていた【傀動】、あれはどこで手に入れたものだ?」

「それも報告として資料を持ってきました…」


そこには聖国バンジェンスから来た商人から買ったとの資料。

そして、商人の名前はどの商人ギルドにも報告されていない商人。


「これは、怪しい匂いがするな」

「そうですね、ザイル。私もそう思います」

「これって身元がわかってない商人が国に売ったって事だよね?ヤバくね?」

「チッ…ゲンドウの爺ちゃん。大丈夫か…?」

「あぁ、大丈夫じゃよ…」

「何か分かったのか…?ゲンドウ」

「この商人の特徴は…ワシの家族を襲った者が買った商人と特徴が一致しておる」

他の幹部陣が息を呑む中ただ一人、カイルのみがその重要性を分かっていない。

「あの、その商人は何をやらかしたのでしょうか」

「…ゲンドウは、家族をバンジェンスの兵に殺されている」


ゲンドウの過去は悲惨なものだった。


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