第1話


ーアルベリオンを除いた大国会談にて



戦士を多く有するカルディアの王はこう言った。

「あの国の脅威はここにいる国のどこよりも高い。危険な芽は早めに摘むべきだ!」


魔法と知略の国、ベンディアの王はこう言った。

「だがあの国が生み出しているものは今や世界中で使われている。戦争を仕掛けるとしても国民から反感を買うのでは?」


人間至上主義を掲げる聖職者の国、バンジェンスの王はこう言った。

「ならばあの国の王を世界の敵にしてしまえば良い。あの国では獣人やエルフなどを住ませているそうだ。ふむ、そうだな。魔王として賞金をかけるのはどうだ?」

その提案に大国の王達は頷き、会議の題はアルベリオン一色となった。


ーーアルベリオンにて


駆け込んで来た騎士に執務室にいる者全員の視線が向けられていた。

「世界に指名手配がかけられているのは5名!」


「【魔王】レティス・アルベリオン様!」

「そりゃ俺だよな…」


「【剣主】ザイル・ペンドラゴン様!」

「俺様の名がやっと世界に知れ渡ったか!」


「【神愛者】ルナ・マイル様!」

「あら…私もなのですね」


「【堅牢】ゲンドウ様!」

「こんな老いぼれを指名手配なんかして楽しいもんかね…」


「【堕眠】カルナ・セルフィス様!」

「えぇ…俺も指名手配されてんの…?簡単に寝れなくなるじゃん…」


「以上5名の方々が全世界に指名手配されましたが、まだ会議は続いてる模様です!」


震え声で報告する若い騎士。そりゃ自国が実質敵国扱いされたら怖いもんだろう。


「震えているが大丈夫か…?すまないな国民も巻き込んでしまい」

「いえ!有名な皆様と会えてしまい感動しているだけです!」


紛らわしいなおい。ただここまで大々的に発表されたならどうにか対策すべきか…


この世界は人間至上主義だ。獣人やエルフ、魔族などは人間以下として扱われ、奴隷などにされる。

それを嫌った父が建国し、ここまで築き上げたのがアルベリオンだ。

ここには他国から怪物として扱われた獣人、神から愛されるも人間から迫害されたエルフ、平和に暮らしていたにも関わらず妻と子を殺された魔族、ただそこら辺で眠っていた天使、色んな種族が手を取り合い暮らしている。


俺自らスカウトもすることから異端に見られることもあったがやはり人間では持っていない能力を持つ種族も多い。

今では大国になったが、まぁこのように敵視してくる国がほとんどだ。


「仕方ない、か…」

俺は席を立ちメガホンのような形の魔道具を手に取った。

その魔道具の名前は【革命を知らす王声】。建国して3度と使われない緊急事態を全国民に知らす魔道具である。


『全国民、全聖騎士に告ぐ。知ってる者も多いだろうが俺が魔王認定され、他の幹部も指名手配されている。不安になるものもいるだろう。だからここにこう宣言する。ここを襲う国、人間その他諸々全て』


『…返り討ちにする』


その声を聞き、王城にまで聞こえるような国民の歓声が国中に響き渡る。


「カッコいいですねぇレティス様は」

「これでこそ俺様の主だろう!」

「とりあえず…俺寝てていい?」 

「ワシも一肌脱ぐかのぉ…全ては主と国のためじゃ」


「じゃあお前ら、執務室でこんな大見得切ってすぐで悪いんだけどさ」

そんな返事にこの場にいる全員が首を傾げる。


「普通に一国攻めてきたわ」  



ーーカルディアにて


会談に行った王の代わりとして仕事をしていたのはカルディアの第一王子にしてカルディア最強の名を持つカイル・カルディアだった。


(父上は今度こそアルベリオンは脅威であり汚れた国だと仰っていたが…俺はそうは思えない。あのように全ての国が他種族と手を取り合って過ごせたらどんなに良いことか…)


だがこの思想は表には出せないものであった。第一王子、それは順当に行けばこの国の王になるというものである。それだけでなく最強の座に就くカイルには大声で言えるような考えではなかった。


「カイル様。会談が先程終わりました」

「そうか、どうなった?」

「…アルベリオンが」

「アルベリオンがどうなった…?」

「アルベリオン国王が世界から魔王認定を受けました」

「…は?」


魔王認定、それは世界で一度も出されたことのない世界全てを敵にする指名手配犯ということだ。


「どういうことだ。あの国を敵に回すということは大国は本格的に人間至上主義を持ち上げたということなのか?」

「…あと一つお知らせが」

「まだあるのか…なんの知らせだ」

「第二王子、ゲルド様がアルベリオンに宣戦布告を行いました」

「お前は何を言っている…?あの国とまともにやり合えると思っているのか!?」

「国王様がこのような結果になったら攻め入るように告げていたようです…」

カイルの心情は大変なことになっていた。自分が国を継ぐまであと数年、それさえ耐えれば多少反感を買おうとアルベリオンと友好な関係を築くつもりだったのだ。


(どうすれば止められる…?負けることは確定だ。あの国には他国の最高戦力級を多数有している。万が一にも勝てるはずがない。そして国王のレティス・アルベリオンも自ら騎士団を率いていると聞く…)


「俺はすぐにゲルドを追いかける。負けたら責任を取るのは父上か俺なのだ。ここは好きにさせてもらう」


そう言ってカイルは王城を飛び出し愛剣のみを持ちゲルドが待機しているアルベリオン近くの荒野へと向かった。


ーーアルベリオン国境付近の荒野にて


「父上も人間以下が住む国にビビりすぎだ。我がカルディアが負けるわけがないだろう」


宣戦布告をして半日と少し。

攻め込む時間が近づいてきたと分かったゲルドは騎士を集めた。


「我がカルディアの騎士たちよ!我らは今からアルベリオンへと攻め込む!国民など全て切り捨てろ!この国は明日にはカルディアの領地となる!」

 

「ほう、それは聞き捨てならんな小童」

老人のような声が聞こえた瞬間、荒野に巨大な壁が現れた。


「国民を切り捨てる…か。やってみぃカルディアの小僧。儂を止められるものならな」


カルディアの兵士6000人VS【堅牢】ゲンドウの戦いが始まった。



ーーアルベリオン城内


ゲンドウが向かったという報告を聞きとりあえず一安心する。

あいつの守りを突破できたのは今までザイルのみだ。

【堅牢】か。あながち間違ってないな…

おいザイル、考え事してんだからウロチョロしないでくれ。

「なぁ主、俺は出ちゃいけないのかよ」

「お前は駄目だ。地形をボコボコ変えるくせに後始末しないからな」

「ウグッ…いや今回はちゃんとするからよぉ」

「それ何回目だと思ってんだ?六回目だぞ」

「今回は諦めましょう?今回はゲンドウ様に譲ってくれたら私がレティス様にちゃんと言っておきますから。ね?」


そう子供を落ち着かせるように言うエルフのルナ。

我が国のお母さんであるルナは最強の獣人ですら落ち着かせることができるのだ。


「報告です!ゲンドウ様がカルディア王国の兵を鎮圧したとのこと!」

「早かったな、過去最速じゃないか?」

「全ての国民を孫のように愛されてる方ですからね。国のピンチならすぐに動きますよ」

「さて、お前ら、馬鹿野郎共の顔を拝みに行こうじゃないか。カルナ、お前も来るんだぞさっさと起きろ」

「えぇ…俺は良いから行ってきてくれよぉ」

「飯抜きにされたいか?」

「はい!最前線を行かせていただきます!」

「まったく…」

(あそこの第一王子は戦争を好む性格ではなかったはず…どういうことか問い詰めるとするか)













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