extra1 消えた記憶の断片

彼女を王城から引き取って早一年。


最初出会った時に感じた嫌な感触は如何やら彼女のスキルによるものらしい。ただ精神的負荷を掛けるようなものではないと彼女本人から聞いた。


彼女曰く__


『個人の過去・未来あらゆる事象を観る』


と言ったモノなのだと彼女は笑顔で答える。私には何故そのような事を色々な方にするのか、最初こそ理解出来なかった。


ただ、彼女はそのスキルを使った際に決まって悲しい顔をするのだ。その様な表情をしてる事は彼女自身気付いていないが、効果を聞く限り予想は付いてしまう。


きっと、スキルを自在に扱う事が出来ず観た者の始まりと全ての終わりを見てしまっているのだと仮定してみた。ただ彼女がそのスキルを使う理由が分からない、でも彼女はそれでもヒトの全てを覗く。

きっと覗く事が代償を伴うとしても重要で大切なのだとこうして安心して私の横で眠る彼女を見ると感じる事が出来た。


そこから三年、まだ彼女はスキルを使っている。


ただ、もう何となく気付いてしまった。


確信には至っていないのですが、基本的には初対面の人にスキルを使用している事が多いと私は思った。


其れは誰も信用していない証拠で、決定的に気づいたのはつい先ほどの事です。

長年エルクレン家に仕えて頂いた使用人が辞め、新たに使用人を雇ったの。


経歴はある程度調べ、面接をして問題ないと判定し今日荷物を持って屋敷に来たの。

その際に彼女も付いてきて瞳の色が青から金色のあのスキルを使ったと思ったら、


「駄目ですね、貴方は」


それだけ言って娘の部屋に入って行ったの。

流石に今日来たばかりの子に可哀想だと思いその子を見るとそこには荷物とその子の衣服であった切れ端だけが残されていてもういなかったのです。

これには他の使用人も驚いた様で、その場から誰も動けずにいたら彼の経歴を調べて頂いた者が慌てて尋ねにいらしたのです。


その時に聞いた話で結果を知らせたあと何か喉に小骨が引っ掛かるような感覚を覚え、もう一度彼を調べていくと確かに経歴には嘘はなかった。


だが、その経歴に被さる様にその時々で事故が起こっている。ただの事故であるなら仕方ない事だが彼が使用人として一年だった頃に全て事は起こっており、個々観れば事故だったが彼女と照らし合わせたら事件である可能性が推察出来る。

個々の事故の件を調べて行くともう何故気付が無かったのかが不思議なくらいウラが見つかる。最終的には貴族、王族を狙う愉快犯だと尋ねに来た方は言った。


であるなら先程起こったことはわたくしたちを守るためにあの様にしていたのでは?

と、私の中で建てた仮説が確信に変わった。

彼女にその事を言って聞いてみたら、


「そうですね、私はエリーゼとエルナ、それとこの家にいるメイドさんや執事さんが害されるのは世界滅亡と同じくらいイヤなのです。」


娘のエルナを遊んでいる片手間で彼女は言う。

そっか、と未だ成長を知らないこの子に大役を押し付けてしまった私はただ、抱きしめる事しか出来なかった。





















更に50年が経ち、わたしも70を過ぎた。

魔導師を貴族、平民関係なく育成する教育機関の理事としての任もようやく引き継ぎを終えた。夫も騎士団長の後任に継がせ今は領内の山奥で私と2人で畑を見ながら余生を送っている。


娘が20の時に当主を継いで婿をとって仲良く暮らしてる。


エルナは偶に近況報告の手紙を送ってくる。

それは良い事ばかりでは無いものもあるが親からすれば手紙が届くだけで嬉しい。



でも最近巷で解析、鑑定の詐欺が横行していると報告されていた。解析や鑑定はその道で長年続けた人でさえその価値を見るのは難しいとされており、被害件数も段々と増えてきて私としても魔導に関していた過去がある為気が気でなかった。


如何したら良いのかと逡巡して、ふと彼女を思い出す。何故忘れていたのかそれも分からないが彼女と過ごしていた時の事


『エリーゼ、駄目ですこのこの店は』

『エリーゼ、この武器は凄いです!何でこの値段なのか分かりませんがエルナの贈り物にピッタリです!』

『エリーゼ!ここの薬屋は信用できますよ!』


彼女との出来事を思い出し、一つの目標が出来た。恐らくこれが最後の挑戦でしょう。

私の余生でまだ出来ることがあるのだと彼女から伝えられているかの様で何だか嬉しくなる。


「価値が誰でも分かればこの件も収まる、かしら?」

そこから過去に使用人をしていた者に手伝ってもらい、研究に乗り出す。時にはお世話になった商人の手を借り、夫にも相談してあらゆる物を集めて解析、鑑定が出来る魔道具を作り出そうとしていた。


そんな忙しなくなって2年程が過ぎた時、小さな少女が訪ねに来た。

何でもこの領内で噂になっていたらしく、実態が気になって来たらしい。見た目は魔導学生くらいの年齢だろうか瞳は金色に青みがかっていて不思議な感じがした。装いはエルクレン領内で一番高い店の物だった。


マジマジと不躾にも観察をしていると彼女は顔を真っ赤にして睨み返してくる。

何を言うでもなく、ただ観てくるだけ。

そんな彼女が何処か懐かしく綺麗で可愛いと思い気付けば人の目も憚る事なくそっと抱き寄せ頭を撫でていた。

彼女も嫌がる事なく為されるがまま私に抱かれる。



それから彼女は度々家に来る事が多くなった、ただ研究を観てるだけで何もしようとはしなかったが、休憩中のその合間にお菓子を摘みながら近況の報告や彼女の話を聞く事が多く、話す時の彼女のコロコロ変わる表情が最近の楽しみの一つになった。



80になった。研究も順調で後は最後に確認という事で関係者全員とエルナとその夫を呼びお披露目をした。結果からこれは世紀の大発明だと大いに盛り上がった。

ただ、彼女はスミで資料を読んでいるだけ。喜ぶどころか少し浮かない様子だった。


"8年"一緒にいて彼女は出会った時のまま


60年以上前にエルクレン家が王家から引き取った子供もこの様な少女だったきがする。

私が文字を書ける様になった頃から今まで日記を書いて来たのだが、60年前の日記は個人名の所が抜け落ちておりエルナに聞いても分からなかった。


その日の夜魔導反応がして目が覚めた。反応先は解析鑑定の魔道具の研究部屋、

恐る恐る見てみるとそこには彼女がいた。

此方の気配に気づくと笑顔で言う。其れは、遠い昔に見た子の様な花の咲いた様なとても可愛らしい笑顔だった。


『これは、世界滅亡を守るのと同じくらい大切なのです。だから少しだけ魔法を掛けます。』


彼女がそう言い終えると資料や道具にまるで花を愛でる様に慈しむように見つめながら魔導反応が再度起こる。


反応を終えると特段変わりはなかった。何かをしていたのは私がよく知っている、が最後まで分からなかった。













私のお母様が先日、天寿を全うした。

最後の様相はとても穏やかで幸せそうだった。

お母様は最期に未来でも語られるほどの偉業を成し遂げた。解析鑑定の魔道具の製作によってその手の被害は激減、その詐欺に関わった者達の多くは騎士団によって捕えられた。

その功績は凄まじく、外部からその技術を学ぶ為に押し寄せることになり、葬式はこじんまりと身内だけで素早く行うことになった。


ただ、その葬式で少女を観た。彼女はお父様曰くお母様が研究してた際に出会ったのだとか。出会った頃より様相に変化がなく何度か彼女に尋ねた事があるらしい。

その時彼女は


『スキルでそう言う風に見せているのです。』

と少し困った様に言っていたらしい。


その彼女は葬式ではその見た目通りの幼さを隠すこともなく、お母様の前で泣いていた。



その葬式後に各国の魔導師達が押し寄せ、技術提供を持ち掛けて来る。

しかし、気付けば誰も居なくなっており後に提供は断ったのだと気付く。

エルクレン家において確かに重要なもので、他人には伝えるのは駄目なのだと是が非でもこの家で守るべきものなのだと刻み込まれる。


それから数日が過ぎ、お母様の遺品整理を行なっていたら百冊にも及ぶ手記が見つかり適当に手に取ったのを読んでみた。


『今日は朝早くから王城へ向かうように伝令が来た。やましい事は無いけれど少しの怯えを持って向かい応接室に通されると、そこには幼い少女がいた。聞くにその少女は転生の儀で此方に来た3人の1人なのだとか。各国でそう言った英雄を異世界から呼び出す魔法がある事は知っていたが、実際に成功例を目の当たりにするのは初めてだった。そして、王様直々に面倒を見るようにと仰せつかった。彼女は   と言う名前だと少女は言った。   の最初の印象は____』


また別の手記を手に取る


『今日はエルナと   と一緒に王都で買い物に行ったの!エルナと   は本当に仲が良く姉妹のようで何だか微笑ましいわ。

エルナはお姉ちゃんにべったりで私は少し寂しいわ。でも、微笑ましいのは確かなの!』


また別の手記を手に取り


『今日は魔導学校の入学祝い!   は如何してもエルナに贈り物がしたいと私とこっそり街に出たの。そこで   は置かれてる物を見て凄く真剣に選んでいたわ。でも、少し気になったのはある武具屋で少し寂れた剣を持ってきたの。

曰く、これがこの店で一番良いものだと言うの。   がこれって譲らなくて結局それにしたの。少し綺麗にしてもらって   も満足していたので私も何だか嬉しくなっちゃった』


最期に新しいであろう手記を手に取った


『今日、きっとこれが最後の日なのだと思う。エルナも立派に当主として勤めを果たしてくれてる。

私も最期に満足行く道具を作り出せた。

これで被害は減るだろう。


実は完成した日のよる   が研究室に来ていた。   は研究に関わりはしなかったが、完成度を見てるのだと   は言って度々訪れていた。彼女には完成形が見えてるのだきっと、度々商人が持って来る研究用の調度品を見て質が悪いから交換した方がいいって言うの。

本当にその通りで内心私しか出来ない物を作っていると思っていたけど、彼女にはそれが無くても分かるみたい。なら私じゃなくて___』


ここでページが破られていた。

内容が書かれているページを見る。


『____そしたら彼女は"これは世界滅亡を守るのと同じくら大切なのだ"と言ったわ。そこで何か魔法掛けていたの。最期にそれが何なのか分からないのは少しモヤッとするけど、何だか昔を思い出せる8年だったわ。願わくば、   にこの先の旅路に幸福を。』


ここでお母様の文が終わって、その下に別の誰かの筆跡で


『エリーゼ、よく出来てる。私があなたを忘れてもこの魔道具と技術は忘れずに未来に届けるから安心してね。』

お母様を名前で呼ぶ人は限られてくるが私は葬式で見たあの少女が思い浮かぶ。











母上が先日亡くなった。

母上の葬式は本人の願いでこじんまりしたものになった。


それから、当主代行と次期当主の就任で忙しくした後母上の遺品整理を行うことになった。

母上は私が生まれた時には日記なんて書いてなかったが伯母上が亡くなった後から書く様になった。その為日記の数こそ少ないが、そこで興味深いものを見た。

我々エルクレン家の先先代の残した遺産である魔道具とその技術。一時期は他の貴族と手を結び共同で製作し大量生産しようと言う話になったらしい。だが、突然気付けばその話は最初からなかったものになっていたのだとか。

その事について母上が伯母上の手記を見た際にある推測をたてらしい文章がこの日記にはあった。


『70年以上前にお母様は私より年が上の少女を引き取ったらしい。でも、私にはそんな姉がいた記憶はない。

無いけれど、入学祝いで貰った剣はお母様の趣味ではなかった様に思える。綺麗にしてあったが貴族が持つものではないと最初は思った。


でも、他の子の剣よりもいい剣だと気付いたのは私が大人になってからだった。あの手記にはお母様と引き取った義姉さんで決めたと書かれていた。でも、名前と思しき箇所は何も書かれてなかった様に空白だった。そこで葬式にいた子が手記に出てきた義姉さんの特徴に当てはまる事に気づいたの。

何で義姉さんは家から突然居なくなったのか、姿が変わらないのか、記憶が双方ないのか分からないけど、お母様の全てを義姉さんが守ってくれたんじゃ無いかなって思うの。

だから、あの魔道具の技術は周りに伝えられない様に魔法が掛かっているのかもしれないわ。其れがいいのか分からないけど、あの子がそうした様に私もそうするつもり。

でも、あの子ともう一度だけでも会いたいな。葬式の翌朝にはいなくなっていて、何処か寂しいと感じたのよね。』


それ以降は読むのをやめ、母上の遺品を片付けた。母上の最期が笑っていたのはきっとその子に会えたからなのだと少し羨ましく思うのだった。

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