第14話 新たな仲間が加入した
少年から盗賊団のアジトの場所を聞き出し、急襲した。
ちなみに僕は後衛として、少年と一緒に少し離れた場所で控えている。……という名目で、少年を見張っている。僕は彼の事情を一応知ってはいるけれど、彼が仲間の為に僕らを裏切らない保証はないからだ。シナリオ、すでに大分狂ってるしね。
暴れて騒ごうとした少年は魔術を使って眠らせている。ついでに縄で縛って拘束もしている。
可哀想ではあるけれど、勝手に動かれてはアレンたちの身に危険が及ぶかも知れない。そうした妨害さえなければ、この程度の盗賊団、アレンたちの敵ではない。多少の怪我をしたとしても、余裕で僕が治癒出来る。
問題は、この少年と彼の仲間の子供達。
少年の寝顔を見ながら、僕は小さくため息を吐いた。
彼らも又、盗賊団の一員で、それは間違いようのないことなのだ。特に彼は手先として活動を重ねてしまっている。年齢と脅されていたことを考慮して貰えるよう申し出たとしても、無罪放免とはいかないだろう。……それくらいには、犠牲者が出てしまっている。だから、恐らくは相応の罰が下される。そうなったとき、彼の仲間の子供達は一体どうなってしまうだろう。
いたたまれないなぁ、と思う。
彼の妹が仲間の子供達の中に含まれていること、親が殺され、その仇の元で、妹を守ることだけを念頭に彼なりに戦い続けてきたことも。ただ、そうだとしても、彼の成した行為で死んだ人もそれなりの数存在する。
罪は償わなければならない。
本来の世界では、彼は贖罪のため勇者たちのパーティに加わろうとして、兄たちに殺される。勇者に濡れ衣を着せる為の道具として使われて、口封じされるのだ。
ここでは、そんなことにはならないと良いな。
――と、思っていたときが僕にもありました。
「絶対反対」
「なんでだよ。レンジャー技能持ってるんだろ? 便利だし必須じゃねーの?」
「そうだよ。前衛2人に後衛の僕だけじゃ戦力バランスも悪いだろ? 後衛で飛び道具が使える彼がいる方が戦闘の幅も広がって――」
「絶対反対」
「あ、足手まといにはならないようにするからさ! 入れてくれよ! 頼むよ!」
「絶対反対!」
アレンが徹底的に少年を拒んだ。絶対拒否の姿勢だった。
「大体、後衛で攻撃っていうなら、ザジが攻撃魔法を使ってくれたらそれだけで良いだろ。野営だって、オレもオルガももう結構慣れたんだし今更そんなの必要ない」
「僕は治癒が専門だからね? 適性、治癒だけだからね? 攻撃魔法なんて……なんて……ちょ、ちょこーっとしか使えないからね!?」
「お前……あれだけバフデバフ撃っておいて今更……」
「あ、あれは! まぐれみたいなものだから!」
しまったそういえばそうだった! バレないだろうと思ってたらしっかりバレてた。ちなみにバフやデバフは普通の攻撃魔術よりちょっと難しい部類に入る。ついうっかり効果高めになっちゃってたからなぁ……でもアレンにかけると思ったら、久しぶりだったし、力入ってしまったというか……不可抗力だと思うんだ!
最終的に、アレンの粘り勝ちだった。少年は他の子供達と共に教会へ預けられることとなった。少年たちが犯した罪については、年齢と境遇をかんがみての軽減がなされ、また、罪をあがなうのは成人後とされた。成人までは奉仕活動を行い、その結果により改めて罪の軽重が問われることになった。……実質的には、それも刑罰の一種のようなものだが、子供達は喜んでいた。離れ離れにならずに済んだこと、毎日食事が摂れることは、彼らには喜びだったらしい。
……しかしこれでさらにシナリオが変更になった。
少年が付いてきても兄たちが罪を重ねるだけだったかもしれないことを考えれば、良かったとも言えるのかもしれない。すでに聖女は奪われ僕が加入済みだから、流れとしては一応この後は聖女の身を案じた神官が仲間に加わる――かな?
……と思っていたときが僕にもありました。
少年を絶対拒否したアレンが神官をいれるわけがないんだよなぁ、そりゃそうかー……回復が僕が出来るもんな。そんなに心配ならお一人でどうぞと言い出したアレンを、軽く小突いた。
「なぜ私を拒むのです。聖女をあのような者達に委ねて、それで良いのですか? しかもそこの小男はやつらの仲間だったのでしょう? そんな輩を仲間に加えるなど不用心な! 私は貴族家からも信頼厚く、様々に話を聞く機会もありますが、彼をよく言う方など誰1人としておりませんでしたぞ!」
「あああああ……その言い方はすっごく、逆効果……!」
案の定アレンのこめかみが震えている。間違いなく、怒りで。
そもそもそれを言い出したらアレンだって碌な評判じゃないはずなんだぁ……まぁ聖女ちゃんがアレンのことは良く喧伝してくれていたんだろう、そこは純粋にありがとうなんだよ。アレンは良いヤツだからね、それが正しく伝わっていたのは何よりだ!
僕? 僕はまぁ、……別に善人ってわけでもないし、そう当たらずとも遠からずじゃない? 人間誰しも、誰にとってもパーフェクトに良い人間なんていやしないんだから。立場や立ち位置で感じ方なんて天と地ほども違ったりするし。
貴族側から見た――戸籍上の父母の側から見た僕なんて、心底邪魔者の要らない子だろうしね。他の貴族? 付き合いないから知らん。
神官さんは、結局最終的には加入となった。僕が頑張って粘り勝ちした。
何しろ彼にはこの後に重要な役割がある。聖女を勇者パーティに加入させるのは、彼の存在が不可欠なのだ。それから僕が魔物寄せの香を焚いて魔物を寄せてそれに巻き込まれて退場した後、2人を回復する役目も担っている。
「なんでこんな人いれなくちゃいけないんだ」
「こらこら、そんなこと言わないの」
……なお、説得の際に犠牲となったのは僕の右手だった。文句を言いながらもさりげなくご機嫌なアレンがその犠牲の対価ともいうべきものだからだ。僕の右手はしっかりとアレンの左手に握られて、指がからみついている。そんな逃さないといわんばかりにがっしり握りしめなくたって良いのに……いや、そりゃ、この後僕、フェードアウトするんだけど。
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